上 下
14 / 24

第14話:姫ちゃん先生

しおりを挟む
 天狗てんぐもり入口いりぐちいたときには、夕日ゆうひえていた。
 なつだからくらくなるのがおそいけれど、そのぶんいえかえらなくちゃいけない時間じかんもわかりにくいようにおもう。
 はやいえかえらないと、おばあちゃんにおこられちゃう。
 そうおもうのに、あしはぜんぜんうごいてくれない。

九里きゅうりのことなら、にしないで」

 九遠くおんさんが鳥居とりいこうからこえをかけてくる。
 わかってる、九里きゅうりくんはわたしみたいに弱虫よわむしじゃないから。
 わたしが心配しんぱいしても、どうにもならないこともわかってる。
 でも、一度いちどでいいからって、かおて、あやまりたかった。

 ここでっていたら、いつか九里きゅうりくんがかえってくるんじゃないか、もうすこっていたらえるんじゃないか。
 そんなふうにおもって、わたしは鳥居とりいたところでうごけずにいる。
 かえろうとしないわたしを、九遠くおんさんはこまったようなあいまいな笑顔えがおている。

はやかえらないと、おばあさまが心配しんぱいするよ」

 まるで公園こうえんからかえりたくないというちいさなどもにはなしかけるおかあさんみたいに、九遠くおんさんはわたしにやさしくはなしかける。

いえまで、おくっていこうか?」

 ぽつりと九遠くおんさんがった。
 わたしはしたきかけていたかおげる。
 うと、九遠くおんさんは一歩いっぽふみし、鳥居とりいをくぐった。

夕暮ゆうぐれはきつねもうろつく時間じかんだから、一人ひとりかえるのは、あぶないかもしれない」

 そうって、九遠くおんさんはわたしのよこをすりけてもりからていこうとする。
 わたしもおいていかれないように、あわててうしろについた。

「あ」

 九遠くおんさんが、きゅうにまる。

「まずいな」
「えっ?」

 ふりかえった九遠くおんさんが、うーんとかおをゆがめる。

としのはなれたきみぼく二人ふたりあるいていたら、ぼくがひなさんを誘拐ゆうかいしてれまわしているとおもわれるかもしれない」

 すごくまじめなかおで、九遠くおんさんはった。

 わたしかられば、九遠くおんさんはとしのはなれたおにいさんってかんじだけど……。

 たしかになにもらないひとたら、九遠くおんさんのことを不審者ふしんしゃだとおもうかもしれない。
 あと三歩さんぽもりからるというところで、うーんとあたまをなやませていた九遠くおんさんは、なにかをひらめいたのか、ぱっと笑顔えがおになった。

 なにやら白衣はくいのポケットをごそごそしている。
 なにがてくるんだろう?
 じっとていたら、てきたのはスマートフォンだった。

 天狗てんぐも、携帯電話けいたいでんわとかスマホとか使つかうんだなあ、とのんきな感想かんそうがわたしのあたまなかす。
 九遠くおんさんは「ちょっとってて」とわたしにうと、どこかに電話でんわをかけはじめた。
 しばらくして、電話でんわにだれかたのか、九遠くおんさんのかおあかるくなる。

「もしもし、ひめちゃん? いまからちょっとてこれる? いや、ぼくまだ警察けいさつつかまりたくないんだよね。九里きゅうりおなじクラスのおんなでさ……ね、たのむよ。ひめちゃんしかたのめるひといないんだから」

 九遠くおんさんがひめちゃんと相手あいてぶたびに、わたしのあたまなかには、保健室ほけんしつ先生せんせい姫川先生ひめかわせんせいがうかんでくる。
 茶色ちゃいろながかみをした、かわいいおんな先生せんせいで、みんなからひめちゃん先生せんせいって呼ばれてる。
 九里きゅうりくんがまえ、わたしはよく保健室ほけんしつっていたから、ひめちゃん先生せんせいともけっこうなかがいい。

いまおんなひとてくれるからちょっとって。彼女かのじょたら一緒いっしょにひなさんのいえまでこう」

 電話でんわをおえた九遠くおんさんがう。

「だいじょうぶ、きっとひなさんもってるひとだから」

 わたしが返事へんじをしなかったのが、九遠くおんさんにはこわがってるとおもわれたらしい。

ひめちゃんって……保健室ほけんしつ姫川先生ひめかわせんせいのことですか?」

 ひめちゃん先生せんせい名前なまえしたとたん、九遠くおんさんがにっこりと笑顔えがおになった。
 夕日ゆうひのオレンジいろひかりで、九遠くおんさんの笑顔えがおがきらきらとかがやく。

「うん、姫川先生ひめかわせんせいのこと」
九遠くおんさんとひめちゃん先生せんせいは、いだったんですね」
いっていうか……ぼく一生いっしょうそのおんわすれないとちかったひと、かな?」
おんわすれない?」

 まえに、どこかでいたことがあるような……。

 ――ひなわれはこのおんわすれぬ。われいのちつづくかぎり、おまえをまもってやろう。

 そうだ、九里きゅうりくんがったんだった。

「もしかして、ひめちゃん先生せんせいって……」

 九遠くおんさんが夕日ゆうひなかで、にこにこわらう。
 その笑顔えがおが、とっても九里きゅうりくんにていて、わたしはむねがドキドキした。

「そう、ぼく天狗てんぐもりからしてくれた……はじめての、人間にんげんともだちだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フラワーキャッチャー

東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。 実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。 けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。 これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。   恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。 お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。 クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。 合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。 児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

占い探偵 ユーコちゃん!

サツキユキオ
児童書・童話
ヒナゲシ学園中等部にはとある噂がある。生徒会室横の第2資料室に探偵がいるというのだ。その噂を頼りにやって来た中等部2年B組のリョウ、彼女が部屋で見たものとは──。

黒地蔵

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。 そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。 しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。 なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。 改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

処理中です...