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第10話:天狗の家族
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わたしは天狗の森に入ってから、自分の失敗に気づいた。
わたしは、九里くんがいないと森から出られない……!
そのことをすっかり忘れていた。
わたしは前回、一人で森を出られなくて九里くんに出口まで連れて行ってもらったんだった。
このまま九里くんの家も見つからず、森からも出られなかったら……?
だめだめ! そんな弱気なこと考えちゃ!
わたしはどうしても九里くんに会いたくて、自分で決めて森へ入ったんだから。
家が見つからないなら、見つかるまでさがせばいいだけ。
わたしは止めていた足を動かして、先に進む。
けれど、いくら進んでも見えるのは木ばかり。
ぜんぜん景色は変わらないし、自分が前に進んでいるという感覚もない。
ずんずん前に進んでいた足も、だんだんおそくなってくる。
わたしは進んでるの? もどってるの?
まっすぐ歩いているはずなのに、その方向もよくわからなくなってくる。
ついにわたしは、足を止めた。
歩くのがつかれたっていうのもあるし、どれだけ進んでも進んでいないみたいで、こわくなっちゃったから。
「九里くん……」
口からかってに九里くんの名前が出てくる。
九里くんに会いたい。会ってあやまりたい。
わたしのせいで、学校に来られなくなってごめんなさいって。
学校にいる時の九里くんは、本当に楽しそうだった。
みんなと仲がよくて、いつも笑っていて、算数のテストはちょっと苦手だったみたいだけど……。
天狗だってことを忘れちゃうくらい、九里くんは人間の男の子と同じだった。
「ごめんね、わたしのせいだ……」
ぽたっ、と自分の足元になにかが落ちた。
茶色の土が、水を吸って黒色になる。
わたし、泣いてるんだ。
ほっぺたをつたって、ぽたぽたとなみだが落ちる。
九里くんがいなくて悲しいから。
自分のせいで九里くんが怒られちゃったから。
九里くんの力になれない自分がいやだから。
弱い自分が、わたしはだいきらいだ。
「僕は君が弱い人間だとは思わないけれどね」
きゅうに、男の人の声がした。
「だれ……っ?」
わたしの声が、風に消される。
あの時と同じだ!
台風みたいに強い風で、足元の葉っぱがぐるぐると飛ぶ。
目も開けていられないような強い風。
わたしは自分が飛ばされないように、顔をうででかくしてしゃがんだ。
Tシャツのそでから出ているうでに飛んできた葉っぱが当たって痛い。
風はびゅうびゅうと音を立てて、木をゆらしている。
木も、風にゆらされてミシミシと音を立てていた。
ふっと、風が止んだ。
おそるおそる顔を上げる。
うでにはりついていた葉っぱをはがしながら、少し先に立つ人かげを見る。
お医者さんみたいな白衣を着た、男の人。
茶色の髪の毛を後ろでひとつに結んでいて、目は……九里くんと同じ赤色。でも九里くんみたいにするどくない。まんまるで、ビー玉みたい。
わたしよりずっと年上のお兄さんに見えるけど、クラスの子のお父さんよりは若いと思う。たぶん。
その人は顔を上げたわたしに向かって歩いてきて、手を出してきた。
大きな手のひらですっぽり手をつつまれて、引っぱられる。
「頭に葉っぱがついてる」
立ち上がったわたしは、ぶるぶると頭をふった。とたんに頭の上からひらひらと葉っぱが落ちてくる。
目の前に立つ人を見上げる。
九里くんよりも、もっとずっと身長が高くて、近くで見ると見上げた首が痛い。
ちょっとはなれて首が痛くない位置に立つと、その人はふふっと笑った。
「はじめまして。君が、花向ひな子さんだね?」
「どうして、わたしの名前……」
赤い目がわたしの顔をのぞきこむ。
なんだか、九里くんにそっくり。
えっ? もしかして、この人……。
「あれ、九里から聞いてない? 僕は九遠。九里の兄で、九萬坊天狗の末裔だ」
わたしは、九里くんがいないと森から出られない……!
そのことをすっかり忘れていた。
わたしは前回、一人で森を出られなくて九里くんに出口まで連れて行ってもらったんだった。
このまま九里くんの家も見つからず、森からも出られなかったら……?
だめだめ! そんな弱気なこと考えちゃ!
わたしはどうしても九里くんに会いたくて、自分で決めて森へ入ったんだから。
家が見つからないなら、見つかるまでさがせばいいだけ。
わたしは止めていた足を動かして、先に進む。
けれど、いくら進んでも見えるのは木ばかり。
ぜんぜん景色は変わらないし、自分が前に進んでいるという感覚もない。
ずんずん前に進んでいた足も、だんだんおそくなってくる。
わたしは進んでるの? もどってるの?
まっすぐ歩いているはずなのに、その方向もよくわからなくなってくる。
ついにわたしは、足を止めた。
歩くのがつかれたっていうのもあるし、どれだけ進んでも進んでいないみたいで、こわくなっちゃったから。
「九里くん……」
口からかってに九里くんの名前が出てくる。
九里くんに会いたい。会ってあやまりたい。
わたしのせいで、学校に来られなくなってごめんなさいって。
学校にいる時の九里くんは、本当に楽しそうだった。
みんなと仲がよくて、いつも笑っていて、算数のテストはちょっと苦手だったみたいだけど……。
天狗だってことを忘れちゃうくらい、九里くんは人間の男の子と同じだった。
「ごめんね、わたしのせいだ……」
ぽたっ、と自分の足元になにかが落ちた。
茶色の土が、水を吸って黒色になる。
わたし、泣いてるんだ。
ほっぺたをつたって、ぽたぽたとなみだが落ちる。
九里くんがいなくて悲しいから。
自分のせいで九里くんが怒られちゃったから。
九里くんの力になれない自分がいやだから。
弱い自分が、わたしはだいきらいだ。
「僕は君が弱い人間だとは思わないけれどね」
きゅうに、男の人の声がした。
「だれ……っ?」
わたしの声が、風に消される。
あの時と同じだ!
台風みたいに強い風で、足元の葉っぱがぐるぐると飛ぶ。
目も開けていられないような強い風。
わたしは自分が飛ばされないように、顔をうででかくしてしゃがんだ。
Tシャツのそでから出ているうでに飛んできた葉っぱが当たって痛い。
風はびゅうびゅうと音を立てて、木をゆらしている。
木も、風にゆらされてミシミシと音を立てていた。
ふっと、風が止んだ。
おそるおそる顔を上げる。
うでにはりついていた葉っぱをはがしながら、少し先に立つ人かげを見る。
お医者さんみたいな白衣を着た、男の人。
茶色の髪の毛を後ろでひとつに結んでいて、目は……九里くんと同じ赤色。でも九里くんみたいにするどくない。まんまるで、ビー玉みたい。
わたしよりずっと年上のお兄さんに見えるけど、クラスの子のお父さんよりは若いと思う。たぶん。
その人は顔を上げたわたしに向かって歩いてきて、手を出してきた。
大きな手のひらですっぽり手をつつまれて、引っぱられる。
「頭に葉っぱがついてる」
立ち上がったわたしは、ぶるぶると頭をふった。とたんに頭の上からひらひらと葉っぱが落ちてくる。
目の前に立つ人を見上げる。
九里くんよりも、もっとずっと身長が高くて、近くで見ると見上げた首が痛い。
ちょっとはなれて首が痛くない位置に立つと、その人はふふっと笑った。
「はじめまして。君が、花向ひな子さんだね?」
「どうして、わたしの名前……」
赤い目がわたしの顔をのぞきこむ。
なんだか、九里くんにそっくり。
えっ? もしかして、この人……。
「あれ、九里から聞いてない? 僕は九遠。九里の兄で、九萬坊天狗の末裔だ」
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