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第8話:世界でいちばんの味方
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九里くんが転校してきてから、二か月がたった。
二か月の間に、九里くんはクラスのみんなと仲よくなった。
昼休みになれば男の子たちはまよわず九里くんをさそってサッカーをやってるし、女の子たちはだれがいちばんさいしょに九里くんに告白するかを相談している。
でも、クラスのみんなと仲よくなっても九里くんはかならずわたしに声をかけて、一緒に帰ってくれた。
九里くんのおかげで、わたしはクラスの子に無視されることも少なくなっていた。
みくたちの目があるから仲よく一緒に遊ぶところまではいかないけど、みんな朝のあいさつくらいはしてくれる。
みくたちは……九里くんと話すことはあっても、わたしには絶対に声をかけない。
というか、九里くんが転校してくる前よりきらわれている気がする。
ちょっと目が合っただけですぐにらんでくるんだから。
この二か月の間、わたしはしあわせなはずだった。
けれど、しあわせは長くはつづかない。
そのことをわたしはずっと前から知っていたはずなのに。
「ひな子、さいきん調子乗ってない?」
「そんなこと、ないよ……」
「うそだー! いっつもきゅーりくんのあとついて回ってさー」
女子トイレの奥で、わたしはみくたちのグループにおいつめられていた。
四人に囲まれてにげ道はない。
みくはきげんがよくないのか、わたしの髪を片手でぎゅっとつかむ。
「やめてっ……!」
無理に髪の毛を引っぱられて、頭がじんじんと痛い。
「あははっ、どうする? きゅーりくんよぶ?」
花音ちゃんのポニーテールが目の前でゆれる。
だれかきて……!
そんなことを考えるけれど、だれもこない。
もちろん、九里くんも助けにはこられない。
だってここは、女子トイレだから。
男の子の九里くんが女子トイレに入れるわけがない。
「ひな子さあ、きゅーりくんにやさしくしてもらってかんちがいしてるんじゃない?」
みくが、わたしの髪を引っぱったまま言う。
「かんちがいって、なに……?」
「だからー、ひな子さいきんクラスのみんなにあいさつとかしちゃってさ、みんなと友だちになれそうとか思ってるんじゃないの?」
背中を冷たい汗が流れていく。
わたしは、みんなと友だちになりたいと思っちゃいけないの?
そんなこと、みくには言い返せない。
みくがまんまるの大きな目で、わたしの顔をのぞきこむ。
「うちのクラスに、ひな子と友だちになりたい人なんているわけないじゃん」
みくがわたしの前で、にっこりと笑う。
「きゅーりくんもひな子にまとわりつかれて、めいわくしてるんじゃない?」
メイメイが笑いながら言う。
「わ、私も、そう思う……」
かまちゃんまで、そんなこと言うんだ。3年生の時は、あんなに仲がよかったのに。
じわっと浮かんできたなみだを、無理やり目の中に引っこめる。
ぎゅっと目をつむって、まちがってもみくたちに泣いてるところを見られないように。
頭の中に浮かんでくるのは、九里くんの笑顔だ。
いつも明るくて、わたしにもやさしくて、絶対に人をバカにしたりしない九里くん。
わたしは九里くんのじゃまをしてるのかな?
九里くんは、ほんとはわたしのことなんて……。
「あたしが、代わりに言ってあげようか? ひな子がきゅーりくんと絶交したがってるって――」
「それはだめ!!」
うるさっ、とみくがつぶやいて、わたしの髪の毛から手をはなす。
わたしは顔を上げ、ぐっと手をにぎりしめて、みくを見た。
「九里くんはわたしの友だちなの! わたしが友だちになってほしいって言ったの! 絶対、みくに言われたって、絶交なんかしない!」
力いっぱい、みくを見る。
絶対、みくに負けたりなんかしない。
九里くんがいなくても、わたしは自分の力で、みくに立ち向かってみせる!
「なによ、親に捨てられたくせに……!」
みくが手をふりあげた。
叩かれる!
せまってくる手のひらがこわくて、わたしはぎゅっと目をとじた。
けれど、いくら待っても痛くない。
ちょっとだけ、目を開ける。
うっすらと見えたのは、パイナップルの絵が描かれたTシャツで……。
「よく言った、ひな子。我はおまえのような友を持ててうれしいぞ」
みくのふりあげたうでをぎゅっとつかんでいるのは、まちがいなく九里くんだ。
なんで? ここ女子トイレだよ?
「どうして……っ」
目の前が、じわっとなみだでにじむ。
九里くんの顔もぼやけていて、よくわからない。
でも、九里くんは笑っているような気がした。
九里くんが空いた手をわたしの頭の上にのせて、ぽんぽんとなでる。
「安心するがよい。だれがなんと言おうと、我がひな子を見捨てることなどありはしない」
やさしい声が、ゆっくりと体にしみこんでくる。
「親が捨てようと、世界がひな子をきらおうと……我だけは永遠に、ひな子のそばにいる」
ここが女子トイレだということも忘れて。
わたしは九里くんのまぶしい笑顔を見ていた。
二か月の間に、九里くんはクラスのみんなと仲よくなった。
昼休みになれば男の子たちはまよわず九里くんをさそってサッカーをやってるし、女の子たちはだれがいちばんさいしょに九里くんに告白するかを相談している。
でも、クラスのみんなと仲よくなっても九里くんはかならずわたしに声をかけて、一緒に帰ってくれた。
九里くんのおかげで、わたしはクラスの子に無視されることも少なくなっていた。
みくたちの目があるから仲よく一緒に遊ぶところまではいかないけど、みんな朝のあいさつくらいはしてくれる。
みくたちは……九里くんと話すことはあっても、わたしには絶対に声をかけない。
というか、九里くんが転校してくる前よりきらわれている気がする。
ちょっと目が合っただけですぐにらんでくるんだから。
この二か月の間、わたしはしあわせなはずだった。
けれど、しあわせは長くはつづかない。
そのことをわたしはずっと前から知っていたはずなのに。
「ひな子、さいきん調子乗ってない?」
「そんなこと、ないよ……」
「うそだー! いっつもきゅーりくんのあとついて回ってさー」
女子トイレの奥で、わたしはみくたちのグループにおいつめられていた。
四人に囲まれてにげ道はない。
みくはきげんがよくないのか、わたしの髪を片手でぎゅっとつかむ。
「やめてっ……!」
無理に髪の毛を引っぱられて、頭がじんじんと痛い。
「あははっ、どうする? きゅーりくんよぶ?」
花音ちゃんのポニーテールが目の前でゆれる。
だれかきて……!
そんなことを考えるけれど、だれもこない。
もちろん、九里くんも助けにはこられない。
だってここは、女子トイレだから。
男の子の九里くんが女子トイレに入れるわけがない。
「ひな子さあ、きゅーりくんにやさしくしてもらってかんちがいしてるんじゃない?」
みくが、わたしの髪を引っぱったまま言う。
「かんちがいって、なに……?」
「だからー、ひな子さいきんクラスのみんなにあいさつとかしちゃってさ、みんなと友だちになれそうとか思ってるんじゃないの?」
背中を冷たい汗が流れていく。
わたしは、みんなと友だちになりたいと思っちゃいけないの?
そんなこと、みくには言い返せない。
みくがまんまるの大きな目で、わたしの顔をのぞきこむ。
「うちのクラスに、ひな子と友だちになりたい人なんているわけないじゃん」
みくがわたしの前で、にっこりと笑う。
「きゅーりくんもひな子にまとわりつかれて、めいわくしてるんじゃない?」
メイメイが笑いながら言う。
「わ、私も、そう思う……」
かまちゃんまで、そんなこと言うんだ。3年生の時は、あんなに仲がよかったのに。
じわっと浮かんできたなみだを、無理やり目の中に引っこめる。
ぎゅっと目をつむって、まちがってもみくたちに泣いてるところを見られないように。
頭の中に浮かんでくるのは、九里くんの笑顔だ。
いつも明るくて、わたしにもやさしくて、絶対に人をバカにしたりしない九里くん。
わたしは九里くんのじゃまをしてるのかな?
九里くんは、ほんとはわたしのことなんて……。
「あたしが、代わりに言ってあげようか? ひな子がきゅーりくんと絶交したがってるって――」
「それはだめ!!」
うるさっ、とみくがつぶやいて、わたしの髪の毛から手をはなす。
わたしは顔を上げ、ぐっと手をにぎりしめて、みくを見た。
「九里くんはわたしの友だちなの! わたしが友だちになってほしいって言ったの! 絶対、みくに言われたって、絶交なんかしない!」
力いっぱい、みくを見る。
絶対、みくに負けたりなんかしない。
九里くんがいなくても、わたしは自分の力で、みくに立ち向かってみせる!
「なによ、親に捨てられたくせに……!」
みくが手をふりあげた。
叩かれる!
せまってくる手のひらがこわくて、わたしはぎゅっと目をとじた。
けれど、いくら待っても痛くない。
ちょっとだけ、目を開ける。
うっすらと見えたのは、パイナップルの絵が描かれたTシャツで……。
「よく言った、ひな子。我はおまえのような友を持ててうれしいぞ」
みくのふりあげたうでをぎゅっとつかんでいるのは、まちがいなく九里くんだ。
なんで? ここ女子トイレだよ?
「どうして……っ」
目の前が、じわっとなみだでにじむ。
九里くんの顔もぼやけていて、よくわからない。
でも、九里くんは笑っているような気がした。
九里くんが空いた手をわたしの頭の上にのせて、ぽんぽんとなでる。
「安心するがよい。だれがなんと言おうと、我がひな子を見捨てることなどありはしない」
やさしい声が、ゆっくりと体にしみこんでくる。
「親が捨てようと、世界がひな子をきらおうと……我だけは永遠に、ひな子のそばにいる」
ここが女子トイレだということも忘れて。
わたしは九里くんのまぶしい笑顔を見ていた。
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