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第5話:消えたい毎日
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次の日。
わたしは朝から、ぐったりとつかれていた。
おばあちゃんは心配性すぎるよ……。
昨日、わたしは天狗の男の子の案内で、やっと天狗の森をぬけ出すことができたんだけど……。
家についたらもう夕方の五時で、おばあちゃんは「あとすこしおそかったらさがしにいくところだったんだよ」と言って、怒った顔をした。
おばあちゃんはそれから、わたしがどこへ行ってこんなにおそくなったのかを聞き出そうとしたけれど、わたしは笑ってごまかすしかなかった。
だって、天狗の森へ入った話をしたら、みくたちにいじめられていることも話さなきゃいけない。
学校でいじめられていることを、おばあちゃんには知られたくなかった。
いまでもおばあちゃんは、お父さんとお母さんとはなればなれになったわたしを、心配しすぎているから。
これいじょう、おばあちゃんに心配をかけるわけにはいかないし、なにより天狗の森へ入ったことがわかったら、おばあちゃんはすごく怒るはず。
もしかしたら、わたしを森へ閉じこめたみくたちに怒って、家まで行っちゃうかもしれない。
――あの子、花向さんのところの……。
――ああ、お母さんが子どもを置いて出て行ったっていう……。
近所の人がそうやってうわさをするたびに、おばあちゃんは悲しそうな顔をする。
わたしが2年生の時に名字が変わって「花向ひな子」になった時も、おばあちゃんはなにも言わずに泣いてるみたいな顔をした。
おばあちゃんのためにも、わたしががんばらないと!
気合を入れて、5年2組の教室のドアを開ける。
でも、わたしを待っていたのは……。
「あれ……?」
わたしの机がない……?
昨日まで、そこにあったはずのわたしの机。
いまはなにもない。みんなの机はちゃんと並んでるのに、わたしの机だけがない。
階段のとちゅうの広いところみたいに、ぽっかりと変な空間ができている。
くすくす……。
まわりから小さな笑い声が聞こえる。
はっとふり向くと、みくをリーダーにしたいつもの四人組がこっちを見て笑っていた。
他の人は……みんな知らんぷりをしてる。だれもわたしのほうを見ようともしないし、助けてもくれない。
じわっとなみだがうかんでくる感じがして、わたしはあわてて下を向いた。
なんでわたしが、こんな目にあわなきゃいけないの?
お父さんとお母さんがいないから?
おばあちゃんと一緒に住んでるから?
「朝の会はじめるぞー」
担任の先生が入ってきて、みんながぞろぞろと席につく。
わたしは……座るところがない。だって、机もイスもない。
先生が立ったままのわたしに気づいて、こっちを見た。
「なんだ、花向。座らないのか?」
またクラスのどこかから、くすくすと笑う声がする。
先生はわたしの机がなくなってることに気づいてないの?
座る場所がないって言いたいのに、声がのどのところで止まって、なにも言えない。
「おまえが座らないと、朝の会はじめられないだろー?」
先生が笑いながら言うから、わたしは引っこんだなみだがまた出てきそうになった。
担任の先生は男で、体育の先生もやってる。
みくや花音ちゃんみたいな明るい子にはやさしいけど、わたしみたいな声の小さい子には、すぐ怒る。
先生はそうやっていつも、みくたちと一緒にわたしをいじめてる。
この世界に、学校に、わたしを助けてくれる人はいない。
――ひな子、我はこの恩を忘れぬ。我の命つづくかぎり、おまえを守ってやろう。
あの子はたしかにそう言った。
でも、現実はどう……?
ここに、あの子はいない。
学校にきたら、わたしはいつもひとりぼっちだ。
やっぱり、天狗のいうことなんて信じるんじゃなかった!
教室で一人立たされたまま、わたしは静かに泣いた。
もう、どうでもいい。
わたしがゆっくり教室の床に座ろうとした時。
「う、浮いてる!」
クラスの子の大きな声がした。
びっくりして、顔を上げる。
「机が浮いてるんだって!」
他の子も、先生までもがおどろいた顔をして、窓の外を見ている。
わたしもつられて窓の外を見て――。
「え……?」
びっくりした。泣いてることも忘れるくらい。
それもそのはず……。
窓から見えるところに、机とイスがぷかぷかと浮かんでいた。
わたしは朝から、ぐったりとつかれていた。
おばあちゃんは心配性すぎるよ……。
昨日、わたしは天狗の男の子の案内で、やっと天狗の森をぬけ出すことができたんだけど……。
家についたらもう夕方の五時で、おばあちゃんは「あとすこしおそかったらさがしにいくところだったんだよ」と言って、怒った顔をした。
おばあちゃんはそれから、わたしがどこへ行ってこんなにおそくなったのかを聞き出そうとしたけれど、わたしは笑ってごまかすしかなかった。
だって、天狗の森へ入った話をしたら、みくたちにいじめられていることも話さなきゃいけない。
学校でいじめられていることを、おばあちゃんには知られたくなかった。
いまでもおばあちゃんは、お父さんとお母さんとはなればなれになったわたしを、心配しすぎているから。
これいじょう、おばあちゃんに心配をかけるわけにはいかないし、なにより天狗の森へ入ったことがわかったら、おばあちゃんはすごく怒るはず。
もしかしたら、わたしを森へ閉じこめたみくたちに怒って、家まで行っちゃうかもしれない。
――あの子、花向さんのところの……。
――ああ、お母さんが子どもを置いて出て行ったっていう……。
近所の人がそうやってうわさをするたびに、おばあちゃんは悲しそうな顔をする。
わたしが2年生の時に名字が変わって「花向ひな子」になった時も、おばあちゃんはなにも言わずに泣いてるみたいな顔をした。
おばあちゃんのためにも、わたしががんばらないと!
気合を入れて、5年2組の教室のドアを開ける。
でも、わたしを待っていたのは……。
「あれ……?」
わたしの机がない……?
昨日まで、そこにあったはずのわたしの机。
いまはなにもない。みんなの机はちゃんと並んでるのに、わたしの机だけがない。
階段のとちゅうの広いところみたいに、ぽっかりと変な空間ができている。
くすくす……。
まわりから小さな笑い声が聞こえる。
はっとふり向くと、みくをリーダーにしたいつもの四人組がこっちを見て笑っていた。
他の人は……みんな知らんぷりをしてる。だれもわたしのほうを見ようともしないし、助けてもくれない。
じわっとなみだがうかんでくる感じがして、わたしはあわてて下を向いた。
なんでわたしが、こんな目にあわなきゃいけないの?
お父さんとお母さんがいないから?
おばあちゃんと一緒に住んでるから?
「朝の会はじめるぞー」
担任の先生が入ってきて、みんながぞろぞろと席につく。
わたしは……座るところがない。だって、机もイスもない。
先生が立ったままのわたしに気づいて、こっちを見た。
「なんだ、花向。座らないのか?」
またクラスのどこかから、くすくすと笑う声がする。
先生はわたしの机がなくなってることに気づいてないの?
座る場所がないって言いたいのに、声がのどのところで止まって、なにも言えない。
「おまえが座らないと、朝の会はじめられないだろー?」
先生が笑いながら言うから、わたしは引っこんだなみだがまた出てきそうになった。
担任の先生は男で、体育の先生もやってる。
みくや花音ちゃんみたいな明るい子にはやさしいけど、わたしみたいな声の小さい子には、すぐ怒る。
先生はそうやっていつも、みくたちと一緒にわたしをいじめてる。
この世界に、学校に、わたしを助けてくれる人はいない。
――ひな子、我はこの恩を忘れぬ。我の命つづくかぎり、おまえを守ってやろう。
あの子はたしかにそう言った。
でも、現実はどう……?
ここに、あの子はいない。
学校にきたら、わたしはいつもひとりぼっちだ。
やっぱり、天狗のいうことなんて信じるんじゃなかった!
教室で一人立たされたまま、わたしは静かに泣いた。
もう、どうでもいい。
わたしがゆっくり教室の床に座ろうとした時。
「う、浮いてる!」
クラスの子の大きな声がした。
びっくりして、顔を上げる。
「机が浮いてるんだって!」
他の子も、先生までもがおどろいた顔をして、窓の外を見ている。
わたしもつられて窓の外を見て――。
「え……?」
びっくりした。泣いてることも忘れるくらい。
それもそのはず……。
窓から見えるところに、机とイスがぷかぷかと浮かんでいた。
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