上 下
44 / 88

しおりを挟む
 WEBカメラとプリンターを駆使した荒稼ぎは、銀貨325枚となっていた。ほんの4時間くらいでである。でも実際写真とったのは30人くらいだったような。って、半分以上あの見本というかブロマイドの売り上げなのか……。まったく、どれくらいの値段で売り払ったというのか。テーブルの方を気にする余裕すらなかったからなあ。
 しかし、額縁とかに飾られたらどうしよう、俺の女装が後世に残ることになってしまう……。昔のプリンターなら色落ちして消えてくれただろうが、街猫写真をプリントアウトする為に買い換えたプリンターが仇になりそうだ。
 
「北の街道を回るんでしたら、駅馬車を使うといいですよ」
とルカさんがお勧めしてくれたので、今回は馬車に乗ってみることにする。なにしろ、北の海沿いの街道になるので、これからの季節だと風が寒いし、髪とかバサバサになっちゃいますよ、と経験者の言葉らしいので素直に従おう。

 それに今まで徒歩の旅だったので、ちょっと馬車も楽しそうだ。フローリアは自由にさせてあげられないけど、人目があるときは由香里さんの所で遊んでいてもらってもいいだろう。由香里さん子供すきだし、フローリアとも相性良さそうだしな。

 朝、イルカ亭のダイニングで、またミルちゃんとサービス朝ごはんを食べる。ミルちゃんは今日フローリアと別れるというのに、ニコニコと元気だ。
「あ、そうだユキお姉ちゃんも見て」
と、部屋から鉢植えを持ってくる、フローリアに自慢したがっていた草花かな?
「これ、フローリアちゃんから貰った種なの。もう芽が出たの」  
って、マジで芽が出てる。梅の芽なんて見たことないけど、ていうか梅干の種から芽が出るとかどんんだけファンタジーだよ、ってファンタジー世界だった。
「こうやってね、いーこいーこすると育つのよ」
ってフローリアが鉢植えに抱きつくと、むくっっと芽がまた伸びて、葉が開いた。フローリアさん、そんな事も出来たのか。旅の間でもスプラウト食べ放題じゃないか。
「これね、ミルが大きくするってフローリアちゃんと約束したの。だからまたウチに見に来てね」
とミルちゃんに笑顔で頼まれた。喜んで!!と心の中で叫びつつ、
「うん、約束ね」
って二人で笑った。

 旅立ちにミルちゃんは泣かせなかったが。扉の向うに立っているイルさんを泣かしてしまっているようだ。あ、そうだ。
「ちょっとお願いがあるんだけど」
とイルカ亭の3人に並んでもらって写真を撮った。プリントアウトしたものはミルちゃんに渡す。写真を見たミルちゃんは、フローリアと撮って欲しいと頼んできたので撮ってあげた。彼女ならフローリアの存在を喧伝することもないだろう。フローリアが肩にのった写真をあげると、嬉しそうにしていたミルちゃんの目から涙がこぼれ、結局フローリアとまた抱き合って泣いていた。

 駅馬車は街の北から出るらしい。ぽてぽてとその辺りの店などひやかしつつ、北に向かった。見ると街道脇の所に大きな馬車が止められている。その脇に御者らしき男の人が立って、4頭の馬たちに水を飲ませていた。俺が近づくと、
「嬢ちゃん、駅馬車に用かい?」
「はい、クエリアまで行きたいなって思ってます」
「一人旅か……、まあいいが、大人も子供も一人20銀貨だ。あと途中のアスリの街まで夜休んで1日、アスリの街を次の日でて、夜にはクエリアに着く。間に食うメシとかは自分で用意してくれ。水は途中の休憩の時にでも飲める」
とぶっきらぼうに教えてくれた。昼に出るというので、その頃にみな食事を済ませて、食べ物の準備をしてから集まるという。教えてくれてありがとうと礼をした。

「じゃあ私も準備してきます」
「ああ、水は飲みすぎるなよ?」
セクハラ!! とか思ったけど、みんなお花摘みばっかり行ってたら進めないから業務上の必要な説明だった。そして、忘れかけていたが同性だった。

 フローリアは由香里ねーさんの所へ遊びに行かせた。フローリアも馬車の旅といってちょっと興味がありそうだったが、グレイスで乗った馬車みたいにぽむぽむできないぞ?って言ったら諦めた。
『馬車の旅、見たいよゆっくん!!』
って由香里ねーさんにも言われたけど、昨日の今日だし諦めていただいた。その分、フローリアと遊んでやってくれと頼む。そしてくれぐれも外にだけは出さないようにお願いした。マジで。
 フローリアは俺のベットでぽむぽむして待っててくれ。腰を労わる低反発クッションだけど、こっちの世界のベットよりも柔らかいと思うからな。

 由香里ねーさんのおにぎりを食べて、また街をぶらぶらして時間を潰して駅馬車の所に戻る。さっきは馬車から外されていた4頭の馬たちが馬車に繋がれている。もう馬車には何人か人が乗っているようだ。
「よう、嬢ちゃん。やっぱり乗るんだな。荷物あまり持って無そうだがメシとか大丈夫なのか?」
「大丈夫です。小食なんで」
銀貨20枚を渡して、馬車に乗せてもらう。

 駅馬車の中には窓の外を覗いている子供づれの夫婦と、大事そうに荷物を抱えた商人。あと傭兵か、冒険者かといった風体の男二人が乗っていた。二人が帯剣して乗ってるのは護衛ってことなのかね。窓から周囲を警戒してる感がある。なんかプロっぽい感じがする。あんな雰囲気だすとかずるい、G級ユキちゃんはまだ仕事達成率0パーセントだというのに。

 そして、駅馬車は満席になることなく走り出した。車輪がごとごとと地面の振動を伝えてくる。周りの風景が少しづつ動き始めた。あー、なんていうか旅の始まる感が堪らないわ。実際、ここまでの旅って半分以上逃げ出して街をでているから、しかも自分の足じゃないってのは感慨深い。

 えっと駅馬車後悔です、まだ数時間もたっていないが。なんかこの振動が合わないのか、俺の尻がデリケートなのか。マジお尻痛いです。この世界にきてから久々じゃないだろうか、この痛みってヤツは。グレイスで乗った馬車がいかに高級だったのか、比較対象がなかったからわからなかったが。
これがランクの差って奴だろう。
 ほんと、フローリアに手噛まれて以来ですよ、この私に痛みを味あわせるなんて。周りを見てもこんなキツそうな顔してないし、慣れてるのだろうか。部屋からクッションでも出したいけど、ポケットを通らない。そうだ!、お尻に触れなければいいんだ。と空気イスでがんばろう。って現実逃避してしまった。
「あのおねーちゃん、もじもじしてるけどおトイレなのかな?」
とか後ろの子が小さな声で隣のお母さんに話しかけながら、俺を指差しているようだ。その小さな声が皆に聞こえてしまったのか、チラチラと視線を感じる。やめて、見ないで!!。

俺は羞恥とお尻の痛みの二重苦に苦しみながら、休憩と御者の人が告げてくれるその時をひたすらに待つのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

解放の砦

さいはて旅行社
ファンタジー
その世界は人知れず、緩慢に滅びの道を進んでいた。 そこは剣と魔法のファンタジー世界。 転生して、リアムがものごころがついて喜んだのも、つかの間。 残念ながら、派手な攻撃魔法を使えるわけではなかった。 その上、待っていたのは貧しい男爵家の三男として生まれ、しかも魔物討伐に、事務作業、家事に、弟の世話と、忙しく地味に辛い日々。 けれど、この世界にはリアムに愛情を注いでくれる母親がいた。 それだけでリアムは幸せだった。 前世では家族にも仕事にも恵まれなかったから。 リアムは冒険者である最愛の母親を支えるために手伝いを頑張っていた。 だが、リアムが八歳のある日、母親が魔物に殺されてしまう。 母が亡くなってからも、クズ親父と二人のクソ兄貴たちとは冷えた家族関係のまま、リアムの冒険者生活は続いていく。 いつか和解をすることになるのか、はたまた。 B級冒険者の母親がやっていた砦の管理者を継いで、書類作成確認等の事務処理作業に精を出す。砦の守護獣である気分屋のクロとツンツンなシロ様にかまわれながら、A級、B級冒険者のスーパーアスリート超の身体能力を持っている脳筋たちに囲まれる。 平穏無事を祈りながらも、砦ではなぜか事件が起こり、騒がしい日々が続く。 前世で死んだ後に、 「キミは世界から排除されて可哀想だったから、次の人生ではオマケをあげよう」 そんな神様の言葉を、ほんの少しは楽しみにしていたのに。。。 オマケって何だったんだーーーっ、と神に問いたくなる境遇がリアムにはさらに待っていた。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...