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第八部

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 譲位を促す書簡を送って、3ヶ月後。

「……以上をもって、エルドール王国国王ディークニクトに帝位を禅譲する。後日我が帝都にて、戴冠の儀を執り行う」
「はっ! かしこまりました」

 一応、俺の方が下という事になっているので、跪いて使者からの言葉を拝聴する。
 そう言っても、禅譲しろとやんわりと催促したのは、こちらだが。
 そんな不遜な事は口が裂けても言わないが、臣下も使者もこれが茶番だという事は分かっている。
 使者と俺の茶番を見終わった臣下たちは、立ち上がって万歳を叫び始めた。
 割れんばかりの拍手と、万歳の中俺は使者の元に悠然と歩いて近づき、書簡を受け取った。
 これで、戦乱は終わったのだ。
 長かった戦いに幕を下ろした俺は、1ヶ月後帝国へと赴いて戴冠の儀を執り行った。
 全てが終わって、帝都で用意されていた部屋へと入ると……。

「ここは、……久しぶりに来たな」

 そう言いながら、真っ白いそう神を自称する奴と会う場所だ。
 真っ白い何もない空間に、俺はまた放り込まれたのだ。

「まだ約束をこれから果たす所なのに、なんでまた呼び出されたんだ?」

 俺は、訝しみながら周囲の気配を探っていた。
 まぁ、探ったところであいつの気配は分からない。
 気づいたら目の前に居た。
 そんな感じで現れるのが、奴なのだ。
 俺は、しばらく周囲を警戒していたが徐々にいつもと違う気がしてきた。

「遅い……、いつもならこの場所に飛ばされた瞬間に出てくるのに」

 全く姿を現さない自称神に、俺は何とも言えない不安を感じていた。
 まさか、約束を果たさせないためにこっちに強制移動させて、幽閉する気だろうか。
 俺の中で疑問が大きくなって来たのと同時に、突然目の前が光り輝きだした。
 一瞬の間だがまぶしい光に目がくらんだが、次の瞬間に現れたのは神々しいと言っても差し支えない、そんな美女だった。

「貴女は? 今まで俺が対峙していた奴とは違いますよね?」

 俺が目の前の美女に問いかけると、彼女はふっと優しく微笑みながら首を縦に振ってきた。

「エルフの王よ。汝は約定を果たされました」
「約定? 確か貴女とは違う奴からは、3代続く王朝を作れと言われましたが?」

 疑問を投げかけると、美女はふっと笑いながら一人の男をどこからともなく出してきた。
 その男は、まぁなんというか美男子ではあるんだが……。

「その残念な服装の男が、俺と約定を交わした奴ですか?」
「その通りです。汝が約定を交わしたこの者は、私の代理人でした」
「代理人?」

 俺がそう言って、「神様」と書かれたTシャツを着た美男子? に視線を送ると、奴はスッと目をそらした。
 この野郎め、代理人って事は本来なら約束を曲げることのできない奴じゃないか。
 そして、今のこの状況。
 恐らく奴のやってきた事がバレてしまったんだろう。
 そして、目の前の美女は……。

「私の代理人……という事は、貴女は女神であると?」
「その通りです。聡いものは話が早いですね」
「で、その代理人が暴走していたという事ですか?」
「えぇ、彼に私の世界の管理を任せていたのですが……」

 女神がそう言って、男の方をチラリと見る。
 その視線を感じた瞬間、男は急に冷や汗が見えるくらい焦り始めた。
 ただ、口をパクパクと動かすだけで声は聞こえない。
 そんな男の様子に、俺が不思議そうにしていると女神が話を続けてきた。

「この者が、汝に語り掛けていたのは私の能力を介してです。その力を今は私が取り上げたので、聞こえませんね」

 女神がそう言って、スッと指を男の方に向けると

「だから! 私は貴女様の代理でしっかりと管理をしていたと、ただ少しのスパイスが欲しくて!」

 突然、男から声が聞こえだした。
 何とも不思議な状況に俺が付いて来れなくなっていると、女神は俺の方を向いて話し始めた。

「さて、まずは汝に謝らねばなりません。この者は元の世界に戻すと言ったのですが、それは私でもできません」
「え? いや、だって異世界からの来訪者は帰すことができるのでは?」
「残念ながら、汝は既に死に生き返ってしまっています。それはこの世界の輪に入ったことになるのです」
「世界の輪?」
「そうですね……、汝の世界で言う『輪廻』という輪です」

 輪廻、それは魂が循環するという考え方だ。
 もしそうだというのなら、俺は……。

「永遠にこの世界の住人に、この世界の魂になると?」
「そう言うことになります。ただ、安心なさい。汝の記憶は今世で終わりです。来世へと引き継がれることはありません」
「……そう、ですか」

 俺が、そう言うと女神は再び俺に話しかけてきた。

「ただ、汝は約定を果たしました。この大陸の統一。この世界の制覇という約定を」
「……最初の約定は、統一だけだったんですか?」
「えぇ、この世界は長きにわたる戦乱で人心が荒廃していました。だから私は、この者に統一できる者を支援する様にと仕事を与えたのですが……」
「その約束を果たさず、俺達の命をおもちゃにしていたと?」

 そう言うと、女神は再び頷いてきた。
 全くもって、勝手すぎるじゃないか! と憤りたいが……。
 流石に俺も、彼女を相手に勝てる気など一切しない。

「賢明な汝に、この者への罰を与えることを許します」
「な! 私は貴女様との約定を守ろうとしていたのに! なのに罰など!」

 女神がそう言うと、男は驚きに目を剥き泣き叫び始めた。
 罰を与えることを許す、か……。
 そんな男の様子を見ながら、俺は少し考え込んだ。
 この男の嫌がりそうなこと、この男に与える罰。
 何が良いのだろうかと。

「女神様、一つ確認です。罰はいくつか出しても良いのでしょうか?」
「えぇ、汝の好きに出して構いません。ただし、仮にも神の端に連なる者、死だけは既に超越していますよ」
「分かりました。では、奴に与える罰は……」

 俺が奴に罰を伝えると、奴は先ほどまでの青くなっていた顔を更に青ざめさせていた。
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