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第八部
8-5
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獣王国 アーネット
敵軍発見の報が、黒騎士からもたらされた。
流石は、伝説的な用兵家と言ったところか。
「よし、黒騎士の情報を基に作戦を構築するぞ! 敵の位置はこの森の裏。突っ切ってでも来ない限り2日は接敵しない」
そう言って俺が、地図上の部隊を指で指し示した。
俺達が居るのは、少し勾配のある平地だ。
そして、横には大きな森がある。
黒騎士たちが発見したのが、この森の反対側。
街道の地図から考えて、2日と出した。
ちなみに、この地図はバハムートによる上空偵察で出来たものだ。
「では今後だが、森側への警戒を強めつつこの街道を行く。相手との接敵地点が街道の端だ。急ぎたいところだが、ここにそこまでの戦術的な重要性はないから、慌てず進もう」
俺がそう言うと、将たちは頷いてきた。
「あと、黒騎士には引き続き遊軍として動き続けるように指示を出せ。補給物資を5日分持たせて帰らせろ」
「5日分も要りますか?」
俺が指示を出そうとすると、一人の将が口を挟んできた。
俺がジロリと睨むと、そいつは一瞬臆した表情を見せたが、すぐに言葉を続けた。
「私が思いますに、アーネット様は黒騎士を特別扱いされ過ぎではないかと」
「ほぅ、私が奴に私情を挟み、特別扱いしていると?」
「えぇ、それに黒騎士の報告では部隊を下げたのですよね? 私ならそこに留まり、敵の後方ないし、側面を奇襲します」
なるほど、大分ディーの薫陶よろしく戦術、戦略を将には学ばせているはずだが騎兵の運用を知らんときたか。
俺は、ため息を吐きたいのを我慢して声を挙げた奴の所属を問うことにした。
「お前の言う事は分かったが、お前は今どこで何を率いている?」
「私は、前軍で歩兵を率いております」
歩兵か、確かに歩兵なら奇襲と言う選択も無しではない。
「なるほど、確かに『お前の』部隊なら問題なく行けるかもしれんな。だが、黒騎士に任せたのは騎兵だ。騎兵の最大の特徴はなんだ?」
「騎兵の最大の特徴は、迂回戦術による奇襲です」
「それだけか?」
「それ以外なら、他の兵種でもどうにかできます」
そうか……、こいつは騎兵を分かっていないのだな。
俺が半ばあきらめながら、口を開いた。
「……それは、一つの見方だけを拡大したものだな」
「どういう意味ですか?」
「騎兵とは、迂回戦術も確かに重要だ。ただ、その為に必要なものがあるだろう? どうやって迂回する?」
「それは機動力で相手を上回り――」
「そう、その機動力だ」
俺がそう言い切ると、一瞬何を言っているのか分からないといった表情を見せたが、すぐに自分の間違いに気づいたのだろう。
「……黒騎士は、森の中」
「分かったようだな。奴は機動力が削がれている状況で、敵に見つかりたくなかった。だから一旦下がったんだ」
俺がそこまで言うと、異議がないのか自分の無知を恥じたのか引き下がった。
そんな様子を見届けてから、俺は全体を見渡した。
「さて、他に意見のある者は居るか?」
俺が、最後の確認をすると全員が首を横に振ってきた。
「では、今すぐ行動を開始する。全軍進軍準備が整い次第、出発する」
俺がそう言うと、全員が動き始めるのだった。
獣王国 白虎隊
「ダラダラ動くな! さっさと歩け!」
督戦隊の声が、あちこちから響く。
だが、いくら督戦隊を組んでも簡単には士気が上がらない。
何せ、道行く村々から徴兵した人族の兵なのだ。
我ら獣人の戦士の様に、いついかなる時も戦う姿勢などないのだ。
そんな兵たちの様子を見ながら、私は白虎隊の全員と今後の相談をしていた。
「さて、今後の方針だが……。敵の進軍経路から考えて、恐らく2日後にここで当たる」
そう言って指差された場所を見ると、そこは森の側面を走る街道と街道をつなぐ場所だ。
多少の勾配があることを考えれば、できれば早めに欲しい場所でもある。
特にこちらの軍は、士気が低い。
負け戦の臭いなんかさせたら、督戦隊を組んでいても人族が逃げ出すのは明白だ。
「あと、どうやらハエがぶんぶんと周りを飛び回っているらしい」
「ハエ? あぁ、兎人たちが聞きつけた、馬と人らしきものの足音か」
「うむ、音の周辺を探させたら草木を踏み折った後が見えた」
「という事は……、居るんだね?」
「それも、かなりの数かもしれないと」
その報告を聞いて、私は一瞬考え込んだ。
恐らく敵の狙いは、後方だろう。
我らが接敵した頃合いに後ろから突っ込んでくる可能性が高い。
だが、こちらもそう簡単に黙ってやられる訳にはいかない。
「敵の友軍の動きは、後方からの襲撃だろう。数は分からんが、馬の可能性は高い。槍兵を後ろに配置して、奇襲に備えさせよう」
「それが良いな」
私の発案に、全員が頷いた。
「では、このままの速度を維持して進むぞ」
「「おう!」」
敵軍発見の報が、黒騎士からもたらされた。
流石は、伝説的な用兵家と言ったところか。
「よし、黒騎士の情報を基に作戦を構築するぞ! 敵の位置はこの森の裏。突っ切ってでも来ない限り2日は接敵しない」
そう言って俺が、地図上の部隊を指で指し示した。
俺達が居るのは、少し勾配のある平地だ。
そして、横には大きな森がある。
黒騎士たちが発見したのが、この森の反対側。
街道の地図から考えて、2日と出した。
ちなみに、この地図はバハムートによる上空偵察で出来たものだ。
「では今後だが、森側への警戒を強めつつこの街道を行く。相手との接敵地点が街道の端だ。急ぎたいところだが、ここにそこまでの戦術的な重要性はないから、慌てず進もう」
俺がそう言うと、将たちは頷いてきた。
「あと、黒騎士には引き続き遊軍として動き続けるように指示を出せ。補給物資を5日分持たせて帰らせろ」
「5日分も要りますか?」
俺が指示を出そうとすると、一人の将が口を挟んできた。
俺がジロリと睨むと、そいつは一瞬臆した表情を見せたが、すぐに言葉を続けた。
「私が思いますに、アーネット様は黒騎士を特別扱いされ過ぎではないかと」
「ほぅ、私が奴に私情を挟み、特別扱いしていると?」
「えぇ、それに黒騎士の報告では部隊を下げたのですよね? 私ならそこに留まり、敵の後方ないし、側面を奇襲します」
なるほど、大分ディーの薫陶よろしく戦術、戦略を将には学ばせているはずだが騎兵の運用を知らんときたか。
俺は、ため息を吐きたいのを我慢して声を挙げた奴の所属を問うことにした。
「お前の言う事は分かったが、お前は今どこで何を率いている?」
「私は、前軍で歩兵を率いております」
歩兵か、確かに歩兵なら奇襲と言う選択も無しではない。
「なるほど、確かに『お前の』部隊なら問題なく行けるかもしれんな。だが、黒騎士に任せたのは騎兵だ。騎兵の最大の特徴はなんだ?」
「騎兵の最大の特徴は、迂回戦術による奇襲です」
「それだけか?」
「それ以外なら、他の兵種でもどうにかできます」
そうか……、こいつは騎兵を分かっていないのだな。
俺が半ばあきらめながら、口を開いた。
「……それは、一つの見方だけを拡大したものだな」
「どういう意味ですか?」
「騎兵とは、迂回戦術も確かに重要だ。ただ、その為に必要なものがあるだろう? どうやって迂回する?」
「それは機動力で相手を上回り――」
「そう、その機動力だ」
俺がそう言い切ると、一瞬何を言っているのか分からないといった表情を見せたが、すぐに自分の間違いに気づいたのだろう。
「……黒騎士は、森の中」
「分かったようだな。奴は機動力が削がれている状況で、敵に見つかりたくなかった。だから一旦下がったんだ」
俺がそこまで言うと、異議がないのか自分の無知を恥じたのか引き下がった。
そんな様子を見届けてから、俺は全体を見渡した。
「さて、他に意見のある者は居るか?」
俺が、最後の確認をすると全員が首を横に振ってきた。
「では、今すぐ行動を開始する。全軍進軍準備が整い次第、出発する」
俺がそう言うと、全員が動き始めるのだった。
獣王国 白虎隊
「ダラダラ動くな! さっさと歩け!」
督戦隊の声が、あちこちから響く。
だが、いくら督戦隊を組んでも簡単には士気が上がらない。
何せ、道行く村々から徴兵した人族の兵なのだ。
我ら獣人の戦士の様に、いついかなる時も戦う姿勢などないのだ。
そんな兵たちの様子を見ながら、私は白虎隊の全員と今後の相談をしていた。
「さて、今後の方針だが……。敵の進軍経路から考えて、恐らく2日後にここで当たる」
そう言って指差された場所を見ると、そこは森の側面を走る街道と街道をつなぐ場所だ。
多少の勾配があることを考えれば、できれば早めに欲しい場所でもある。
特にこちらの軍は、士気が低い。
負け戦の臭いなんかさせたら、督戦隊を組んでいても人族が逃げ出すのは明白だ。
「あと、どうやらハエがぶんぶんと周りを飛び回っているらしい」
「ハエ? あぁ、兎人たちが聞きつけた、馬と人らしきものの足音か」
「うむ、音の周辺を探させたら草木を踏み折った後が見えた」
「という事は……、居るんだね?」
「それも、かなりの数かもしれないと」
その報告を聞いて、私は一瞬考え込んだ。
恐らく敵の狙いは、後方だろう。
我らが接敵した頃合いに後ろから突っ込んでくる可能性が高い。
だが、こちらもそう簡単に黙ってやられる訳にはいかない。
「敵の友軍の動きは、後方からの襲撃だろう。数は分からんが、馬の可能性は高い。槍兵を後ろに配置して、奇襲に備えさせよう」
「それが良いな」
私の発案に、全員が頷いた。
「では、このままの速度を維持して進むぞ」
「「おう!」」
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