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第八部
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男は、黒い鎧を全身に纏い、フルフェイスの兜を付けていた。
もちろん、王である俺の前で通常であれば面甲くらいは上げるものだ。
ただ、そいつに関しては俺が特別に許している、という事になっている。
男は、そのまま俺達が見ている地図の近くまで来ると一点を指差してきた。
「獣王国の首都へ向かえと?」
彼が指さしたのは、獣王国の首都ウンム・ウォンである。
確かに、攻囲している敵が3万と多めの数だ。
それに、城内の兵は一度敗退しているという事もあって、数はかなり減っているだろう。
そんな中に、1~2万程度の兵力で攻めても下手をすれば鎧袖一触。
という事態になってもおかしくない。
「囲魏救趙か……」
俺がそう言うと、彼はコクンと頷いてきた。
確かに敵が集中している場所に向かうよりも、敵の本営に向かって動く方が効率的だし、何よりも相手を疲弊させられる。
「よし、黒騎士の案を採用する! 全軍準備を整えて獣王国の国境を超えよ!」
俺が、命令を発すると先ほどまで張りつめていたのだろう、エルフリーデは少し安心した顔になった。
ただ、彼女には悪いが帝都が持たなければ意味はない。
最悪の場合、奴らがこちらに雪崩を打ってくるかもしれない。
そうならなければ良いのだが……。
獣王軍 エルババ
「……まだか?」
俺の不機嫌な声が聞こえると、一人の将が前に進み出てきた。
「獣王様、帝都は高い城壁と堀に囲まれております。攻城兵器を持たない我らでは、そう簡単に落とすことはかないません」
「ではどうしろと言うのだ? この地に来て既に3週間! このままではあの王国が、エルドール王ディークニクトが来るんだぞ!?」
俺が、少々ヒステリック気味にそう言うと男は跪いたまま答えてきた。
「獣王様、それはまずありえません。奴らは先年にクルサンドへ10万の大軍を遠征に向かわせました。恐らく食料の消費はバカになりません。その証拠に、此度の戦では暫く静観をするとまで言ってきています」
「馬鹿者が! そんな紙切れ一枚の、口約束と変わらんものを信じてどうする!?」
俺がそう言うと、流石に何も言えなくなったのかうな垂れるだけになった。
そんな男の様子を見た俺は、手で下がるように指示を出して考え始めた。
3万の軍を維持するために、食料などはある。
ただ、問題は将の数だ。
エルドールとの先の戦いで、兵も多数失った。
だが、一番痛いのはそこではなく、一緒に失った将だ。
兵と違って、将は経験を擁する。
もちろん兵にも経験は要るが、将の場合はその何倍、何十倍もの経験が必要なのだ。
現にさっき進言してきた者も、新参だ。
先の戦で死んだ将の子をとりあえず、将として運用しているだけだ。
「くそ……、ここまで将の不足で頭を悩ますとは……」
一応、古参の将を城の守りなどに残してはいる。
ただ、何か嫌な予感がするのだ。
早くこの城を、帝都を落として支配せねばならないと警鐘を鳴らすのだ。
特に、何もせずに飛び立ったあの鋼鉄の鳥。
魔導兵器とか言ったか、あれが何もせずにどこかへ行くとは思えない。
「……考える可能性があり過ぎる」
俺が、思案を巡らせていると報告の兵が息を切らせて入ってきた。
「急報です! 敵が我が首都を目指して進軍! 国境軍は既に崩壊して撤退しております!」
「なに!? 国境に居たバハールはどうした!? あいつの守備を抜いたというのか!?」
バハールは、かつて俺が攻めても簡単に落とせなかった城を守護していた男だ。
国境には、城を建築させて守らせていたが、まさかそんなにすぐに落ちるとは……。
「ここは退くべきではないか?」
「何を言っている! 今まさに我らは帝都を、あの帝国を打ち倒すところまで来たのだぞ!? しかもあちらの将軍まで討ち取ってだ! なのにここで引き返してどうしろというのだ!?」
「いやいや、そこは違うだろ。首都が落ちては……」
喧々諤々とはこの事だろう。
意見は、完全に二つに割れてしまった。
敵城を落とすか、諦めるか。
答えの出ない言い合いは、俺を無視して白熱していくばかりだった。
「静まれ! まずは敵兵の詳細だ。どれくらいの兵を奴らは連れてきたんだ?」
俺が、最大限威圧しながら報告の兵に問うと、彼は震えながら数字を読み上げた。
「ややや、約2万、程度と……」
「2万!? たったのか!?」
「ひぃぃ!」
国境に配置したのは、1万ちょっと。
それをすぐさま抜いて行ったと聞いた時、5万は居るだろうと考えていた。
だが、2万程度なら話は違う。
「相手が2万程度なら、兵を二つに分ければどうにかなる! 誰ぞ兵を率いて首都防衛に名乗りを挙げるものは居らんか!?」
俺が、そう言って叫ぶと将が数名出てきた。
全員が、白銀の鎧を見に纏った猫人系で固められた部隊「白虎」
俺の側近の中でも、選りすぐって新規に創設した親衛隊に近い部隊の指揮官たちだ。
彼らは、跪くとすぐさま声を挙げた。
「その任務、我らにお任せいただけませんか!?」
「その意気やよし! 我が国に白虎ありと見せつけてこい! 兵はこちらから半数を、途中で補充も認める! 最速で敵を撃破して来てみせろ!」
「はっ!」
俺の命令が発せらると同時に、彼らはすぐさま兵を率いて出発した。
彼らに任せれば、後はどうにかなるだろう。
後は、俺が城を落とせばいいだけだ。
もちろん、王である俺の前で通常であれば面甲くらいは上げるものだ。
ただ、そいつに関しては俺が特別に許している、という事になっている。
男は、そのまま俺達が見ている地図の近くまで来ると一点を指差してきた。
「獣王国の首都へ向かえと?」
彼が指さしたのは、獣王国の首都ウンム・ウォンである。
確かに、攻囲している敵が3万と多めの数だ。
それに、城内の兵は一度敗退しているという事もあって、数はかなり減っているだろう。
そんな中に、1~2万程度の兵力で攻めても下手をすれば鎧袖一触。
という事態になってもおかしくない。
「囲魏救趙か……」
俺がそう言うと、彼はコクンと頷いてきた。
確かに敵が集中している場所に向かうよりも、敵の本営に向かって動く方が効率的だし、何よりも相手を疲弊させられる。
「よし、黒騎士の案を採用する! 全軍準備を整えて獣王国の国境を超えよ!」
俺が、命令を発すると先ほどまで張りつめていたのだろう、エルフリーデは少し安心した顔になった。
ただ、彼女には悪いが帝都が持たなければ意味はない。
最悪の場合、奴らがこちらに雪崩を打ってくるかもしれない。
そうならなければ良いのだが……。
獣王軍 エルババ
「……まだか?」
俺の不機嫌な声が聞こえると、一人の将が前に進み出てきた。
「獣王様、帝都は高い城壁と堀に囲まれております。攻城兵器を持たない我らでは、そう簡単に落とすことはかないません」
「ではどうしろと言うのだ? この地に来て既に3週間! このままではあの王国が、エルドール王ディークニクトが来るんだぞ!?」
俺が、少々ヒステリック気味にそう言うと男は跪いたまま答えてきた。
「獣王様、それはまずありえません。奴らは先年にクルサンドへ10万の大軍を遠征に向かわせました。恐らく食料の消費はバカになりません。その証拠に、此度の戦では暫く静観をするとまで言ってきています」
「馬鹿者が! そんな紙切れ一枚の、口約束と変わらんものを信じてどうする!?」
俺がそう言うと、流石に何も言えなくなったのかうな垂れるだけになった。
そんな男の様子を見た俺は、手で下がるように指示を出して考え始めた。
3万の軍を維持するために、食料などはある。
ただ、問題は将の数だ。
エルドールとの先の戦いで、兵も多数失った。
だが、一番痛いのはそこではなく、一緒に失った将だ。
兵と違って、将は経験を擁する。
もちろん兵にも経験は要るが、将の場合はその何倍、何十倍もの経験が必要なのだ。
現にさっき進言してきた者も、新参だ。
先の戦で死んだ将の子をとりあえず、将として運用しているだけだ。
「くそ……、ここまで将の不足で頭を悩ますとは……」
一応、古参の将を城の守りなどに残してはいる。
ただ、何か嫌な予感がするのだ。
早くこの城を、帝都を落として支配せねばならないと警鐘を鳴らすのだ。
特に、何もせずに飛び立ったあの鋼鉄の鳥。
魔導兵器とか言ったか、あれが何もせずにどこかへ行くとは思えない。
「……考える可能性があり過ぎる」
俺が、思案を巡らせていると報告の兵が息を切らせて入ってきた。
「急報です! 敵が我が首都を目指して進軍! 国境軍は既に崩壊して撤退しております!」
「なに!? 国境に居たバハールはどうした!? あいつの守備を抜いたというのか!?」
バハールは、かつて俺が攻めても簡単に落とせなかった城を守護していた男だ。
国境には、城を建築させて守らせていたが、まさかそんなにすぐに落ちるとは……。
「ここは退くべきではないか?」
「何を言っている! 今まさに我らは帝都を、あの帝国を打ち倒すところまで来たのだぞ!? しかもあちらの将軍まで討ち取ってだ! なのにここで引き返してどうしろというのだ!?」
「いやいや、そこは違うだろ。首都が落ちては……」
喧々諤々とはこの事だろう。
意見は、完全に二つに割れてしまった。
敵城を落とすか、諦めるか。
答えの出ない言い合いは、俺を無視して白熱していくばかりだった。
「静まれ! まずは敵兵の詳細だ。どれくらいの兵を奴らは連れてきたんだ?」
俺が、最大限威圧しながら報告の兵に問うと、彼は震えながら数字を読み上げた。
「ややや、約2万、程度と……」
「2万!? たったのか!?」
「ひぃぃ!」
国境に配置したのは、1万ちょっと。
それをすぐさま抜いて行ったと聞いた時、5万は居るだろうと考えていた。
だが、2万程度なら話は違う。
「相手が2万程度なら、兵を二つに分ければどうにかなる! 誰ぞ兵を率いて首都防衛に名乗りを挙げるものは居らんか!?」
俺が、そう言って叫ぶと将が数名出てきた。
全員が、白銀の鎧を見に纏った猫人系で固められた部隊「白虎」
俺の側近の中でも、選りすぐって新規に創設した親衛隊に近い部隊の指揮官たちだ。
彼らは、跪くとすぐさま声を挙げた。
「その任務、我らにお任せいただけませんか!?」
「その意気やよし! 我が国に白虎ありと見せつけてこい! 兵はこちらから半数を、途中で補充も認める! 最速で敵を撃破して来てみせろ!」
「はっ!」
俺の命令が発せらると同時に、彼らはすぐさま兵を率いて出発した。
彼らに任せれば、後はどうにかなるだろう。
後は、俺が城を落とせばいいだけだ。
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