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第七部
7-13
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クルサンド国 ディークニクト
帝国を経由して北方に進むこと数百キロ。
ここまで来るだけで、相当な物資が必要だった。
今回は賊の討伐と言う事で、兵士は5千人程度。
これでも往時の北方諸領土連合が動員できる最大兵力だと聞いている。
そして、そんな俺達を出迎えたのは40半ばくらいのえらく物腰の低い男だった。
「これはこれは、よくおいで下さいました。私が、クルサンド国の王、クルクス王です。ささ、どうぞ」
「クルクス王、我らは同じ王位を持つ者。そこまでへりくだらずとも」
「ありがとうございます。ですが、私の方が遥かに若輩。そして、王としてもこの新生国家の出来立ての王です。エルドールという大国をまとめ上げておられるディークニクト王には遠く及びませんから」
一々、面倒な男だな。
俺は、内心そう思いながらも話を続けた。
「さて、そんな挨拶もいいがまずは賊だ。相手はどこに居て、どれくらいの規模かそれくらいは分かっているのだろう?」
「い、いえ、それが相手の襲ってくる場所は分かるのですが……」
そう前置きをすると、クルクス王はこれまでの経緯を話し始めた。
「……要するに、相手の規模も住処も分からず、大まかにこの辺りだろうという目星しかついておらんと?」
俺が、そう言って睨みつけると、クルクス王は委縮して額の汗を拭いながら謝ってきた。
「すみません、すみません。こちらも偵察などをさせているのですが、相手の方が上手なのか、一瞬で見つけてはこちらの偵察兵を追い返してしまうのです」
「……はぁ、状況は分かった。致し方ない我が軍はこの主要街道を進んで直接相対してこよう」
「すみませんが、よろしくお願いいたします。ただ、この時期はあちこちで崖崩れが起こりますので、気を付けてください」
敵の情報が無いうえに、更に悪路を進めと。
まったくこの国はどうなっているのやら……。
そんな事を考えながらも、俺は連れてきた兵たちの元へと戻ると、出発の号令をかけるのだった。
出発してから数日後、それまで主要街道をずっと進んでいたのだが、突然渋滞が起こっていた。
「まさか本当に渋滞が起こっているとはな……」
「如何されますか?」
「とりあえず、兵に様子を見に行かせろ。一騎で往復するくらいの余裕はあるだろう」
俺がそう言うと、手近に居た騎兵一人に指示が飛ぶ。
指示を受けた騎兵は、すぐさま馬をかけて飛び出した。
それから1日後。
ようやく帰ってきた騎兵から、面倒な報告を受けた。
「陛下、この先ですがずっと渋滞を続けており、あの山の上の道も塞がっておりました」
「それはまた面倒な、こんな所で立ち往生できるだけの兵糧は無いからな……、迂回路を探せ! 手当たり次第に商人などに聞くんだ」
俺が、命令を飛ばすのとほぼ同時に、良い情報があると商人がやってきた。
良い情報かどうか分からないが、無駄に時間を使うよりも良いだろうと考えた俺は、すぐさま商人を目の前に通した。
「お前が、情報があると言ってきた商人だな? どのような情報だ」
「へい、皆さまに差し上げる情報ですが、迂回路に関する情報です」
「ほぅ、迂回路だと? この辺りにはそんな道があるのか?」
「へい、ここから後ろに数キロ行ったところに小道があります。その小道をずっと進んでいけば、あの山を越えて行けます」
「なるほど、ではなぜお前たちは使わない?」
「へい、あの道はぬかるみがひどい場所がありまして、私どもでは立ち往生した時に何ともしようがなくなってしまうのです。その点軍の方でしたら、問題なく進めるかと」
なるほど、確かに話の筋は通っている。
だが、何か胡散臭くもあるんだよな。
俺は、そんな一抹の不安を感じながらも情報を流してきた商人にお礼をして、小道へと向かった。
そして、商人の言う通り小道は、確かにあった。
だが、あまりにも狭く、兵たちを2列にするのがやっとという所だった。
「こう狭いとどうしようにもならないな」
「ですが、この道を行かねばなりますまい」
「あぁ、後は道がどうなっているかだが、地図には何か描かれているか?」
「いえ、どうやら地元民だけが知っているくらいの道の様で」
「なるほどな。このまま前進しよう。ただし、開けた場所まで行ったら一旦停止する様に指示を出せ」
俺がそう言うと、先頭へと命令が届けられた。
俺の隣では、キースがうっつらうっつらしながらも忠告をしてきた。
「陛下……恐らく罠かと……」
「あぁ、十中八九罠だ。ただ、ここを食い破らねばならない」
「では、主力を私が……、陛下は迂回部隊を……」
「しかし、それではお前が……」
「老骨最後のご奉公……。そろそろ天に召されてもよい頃合いですぞ……」
鬼と謳われた将軍も、老いには勝てず最近は日々の半分を寝ながら過ごしていると聞いていた。
今回の遠征でも彼には家でゆっくりしてもらっていようと、カレドかトリスタンを連れて行く予定だった。
だが、何故か彼は自分が行くと言い張ったのだ。
もしかしたら、何かを感じたのかもしれない。
ただ、齢70を過ぎてなお馬上でうたた寝できるバランスは、恐ろしいものがある。
帝国を経由して北方に進むこと数百キロ。
ここまで来るだけで、相当な物資が必要だった。
今回は賊の討伐と言う事で、兵士は5千人程度。
これでも往時の北方諸領土連合が動員できる最大兵力だと聞いている。
そして、そんな俺達を出迎えたのは40半ばくらいのえらく物腰の低い男だった。
「これはこれは、よくおいで下さいました。私が、クルサンド国の王、クルクス王です。ささ、どうぞ」
「クルクス王、我らは同じ王位を持つ者。そこまでへりくだらずとも」
「ありがとうございます。ですが、私の方が遥かに若輩。そして、王としてもこの新生国家の出来立ての王です。エルドールという大国をまとめ上げておられるディークニクト王には遠く及びませんから」
一々、面倒な男だな。
俺は、内心そう思いながらも話を続けた。
「さて、そんな挨拶もいいがまずは賊だ。相手はどこに居て、どれくらいの規模かそれくらいは分かっているのだろう?」
「い、いえ、それが相手の襲ってくる場所は分かるのですが……」
そう前置きをすると、クルクス王はこれまでの経緯を話し始めた。
「……要するに、相手の規模も住処も分からず、大まかにこの辺りだろうという目星しかついておらんと?」
俺が、そう言って睨みつけると、クルクス王は委縮して額の汗を拭いながら謝ってきた。
「すみません、すみません。こちらも偵察などをさせているのですが、相手の方が上手なのか、一瞬で見つけてはこちらの偵察兵を追い返してしまうのです」
「……はぁ、状況は分かった。致し方ない我が軍はこの主要街道を進んで直接相対してこよう」
「すみませんが、よろしくお願いいたします。ただ、この時期はあちこちで崖崩れが起こりますので、気を付けてください」
敵の情報が無いうえに、更に悪路を進めと。
まったくこの国はどうなっているのやら……。
そんな事を考えながらも、俺は連れてきた兵たちの元へと戻ると、出発の号令をかけるのだった。
出発してから数日後、それまで主要街道をずっと進んでいたのだが、突然渋滞が起こっていた。
「まさか本当に渋滞が起こっているとはな……」
「如何されますか?」
「とりあえず、兵に様子を見に行かせろ。一騎で往復するくらいの余裕はあるだろう」
俺がそう言うと、手近に居た騎兵一人に指示が飛ぶ。
指示を受けた騎兵は、すぐさま馬をかけて飛び出した。
それから1日後。
ようやく帰ってきた騎兵から、面倒な報告を受けた。
「陛下、この先ですがずっと渋滞を続けており、あの山の上の道も塞がっておりました」
「それはまた面倒な、こんな所で立ち往生できるだけの兵糧は無いからな……、迂回路を探せ! 手当たり次第に商人などに聞くんだ」
俺が、命令を飛ばすのとほぼ同時に、良い情報があると商人がやってきた。
良い情報かどうか分からないが、無駄に時間を使うよりも良いだろうと考えた俺は、すぐさま商人を目の前に通した。
「お前が、情報があると言ってきた商人だな? どのような情報だ」
「へい、皆さまに差し上げる情報ですが、迂回路に関する情報です」
「ほぅ、迂回路だと? この辺りにはそんな道があるのか?」
「へい、ここから後ろに数キロ行ったところに小道があります。その小道をずっと進んでいけば、あの山を越えて行けます」
「なるほど、ではなぜお前たちは使わない?」
「へい、あの道はぬかるみがひどい場所がありまして、私どもでは立ち往生した時に何ともしようがなくなってしまうのです。その点軍の方でしたら、問題なく進めるかと」
なるほど、確かに話の筋は通っている。
だが、何か胡散臭くもあるんだよな。
俺は、そんな一抹の不安を感じながらも情報を流してきた商人にお礼をして、小道へと向かった。
そして、商人の言う通り小道は、確かにあった。
だが、あまりにも狭く、兵たちを2列にするのがやっとという所だった。
「こう狭いとどうしようにもならないな」
「ですが、この道を行かねばなりますまい」
「あぁ、後は道がどうなっているかだが、地図には何か描かれているか?」
「いえ、どうやら地元民だけが知っているくらいの道の様で」
「なるほどな。このまま前進しよう。ただし、開けた場所まで行ったら一旦停止する様に指示を出せ」
俺がそう言うと、先頭へと命令が届けられた。
俺の隣では、キースがうっつらうっつらしながらも忠告をしてきた。
「陛下……恐らく罠かと……」
「あぁ、十中八九罠だ。ただ、ここを食い破らねばならない」
「では、主力を私が……、陛下は迂回部隊を……」
「しかし、それではお前が……」
「老骨最後のご奉公……。そろそろ天に召されてもよい頃合いですぞ……」
鬼と謳われた将軍も、老いには勝てず最近は日々の半分を寝ながら過ごしていると聞いていた。
今回の遠征でも彼には家でゆっくりしてもらっていようと、カレドかトリスタンを連れて行く予定だった。
だが、何故か彼は自分が行くと言い張ったのだ。
もしかしたら、何かを感じたのかもしれない。
ただ、齢70を過ぎてなお馬上でうたた寝できるバランスは、恐ろしいものがある。
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