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第七部

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 突然の申し出に、トリスタンは若干の狼狽を見せながらも俺の方を見てきた。

「えっと、陛下? 受けても良いのかな?」

 こいつは、相変わらず敬語が使えないが、まぁ今回の場合は致し方ないだろう。
 何せ腕試しで戦ってくれと言われるのは、アーネットが基本であってトリスタンが指名されることはほぼない。
 だからと言ってはなんだが、今回のこれも狼狽しての失言程度で見られる。

「トリスタンが、決めたら良い。そこは任せる」
「うぅ……、分かった。えっとウルリッヒ将軍、俺で良かったらお相手します」

 トリスタンが、了承の旨を伝えるとウルリッヒはにこやかな笑みと共に「こちらへ」と言って先導してきた。
 彼の案内にしたがって、俺達が屋敷の中を移動すると大きなホールの様な部屋についた。

「ここは、練武場として使っている場所です。一応周囲に魔法で半永久的な防御魔法をかけているので、多少の衝撃では潰れない仕様になっています」
「ほぉ……、これはまたしっかりとした造りだな」

 防御魔法だけではなく、恐らくかなり厚い石で作っているのだろう。
 扉はそこまでの厚さはないが、壁が少なくとも1メートル以上はある。

「流石に私でも、この壁は突き破れませんので大丈夫だとは思うのですが、名にし負うアーネット殿では持たない可能性がありまして……」
「それで、トリスタンだと?」
「いえいえ! 確かにそれもありますが、トリスタン殿の方が技の冴えがあると伺っておりますので」
「……ふむ、トリスタン? 全力を出したら壊れそうか?」

 俺が、トリスタンに問いかける。
 すると、彼は壁や床を触りながら少し考えてから答えた。

「そうだな……、これだと壊るかもしれないな。ウルリッヒ将軍、一度全力で叩きつけても構わないかな?」

 トリスタンは、そう言うと最近よく使っている大剣を手にして許可を求めた。
 もっとも、大剣と言ってもトリスタンが持っているのは、もっと武骨で荒々しい鉄の塊の様な物だが。

「え、えぇ、どうぞ。試して頂いてからで構いませんよ」
「それじゃ、遠慮なく。……はぁぁぁぁぁ!」

 トリスタンが、許可を得るのと同時に気合と全力を込めて叩きつけると、激しい金属音と共に衝撃が走る。
 その瞬間、周囲に展開されていたであろう何かが音もなく消えた。

「ふむ、これ以上は無理だな。魔法が霧散してしまった」
「そうだね。これはもう一度張り直さないとダメだね」

 俺達二人が、そう言うとウルリッヒが若干引きつった笑顔で問い返してきた。

「う、嘘ですよね? ここ一応かなり高いレベルの防御魔法を張っているんですけど……」
「いや、すまないが防御魔法が完全に消し飛んでいる。証拠と言ってはなんだが、トリスタン床に武器を突き立ててみせてあげなさい」

 俺がそう言うと、トリスタンが刃の部分を下にして床に突き立てた。
 すると、先ほどまでははじき返していたであろう武器の先端がひび割れと共に床に入り込んだのだ。

「な、破魔の効果でもあるのですか? この武器には……」
「いや、無いな。至って普通の武器だ。強いて言うなら、使い手の魔力がそれなりにあったせいでもあるが」
「……い、致し方ないですね。防御魔法が無いのでは、お互いに全力を出せません。ですので、本日は諦めさせて頂きましょう」
「そうしてくれると助かる」

 俺がそう言うと、ウルリッヒは再び俺達を先導して部屋へと案内してくれた。
 その後は、ウルリッヒからの歓待を受けて俺達はゆっくりと休み、翌日には帝都への移動を再開した。
 ウルリッヒの領内から王都までは、数日の距離で特に何も問題なく進んだ。

「エルドール王、あそこに見えますのが帝都です」

 ウルリッヒが、そう言って指差す先に見えるのは荘厳で巨大な都市だった。

「ほぉ、俺たちの王都もそれなりに大きいと思っていたが、こちらは歴史がある分重みが違うな」
「人族だけでなく、獣人も魚人もドワーフも居ります」

 この国は、本当に多種多様な種族が居る。
 もっとも、個人主義的な部分が大きい魔人族は居ないが。

「では、私は一足先に帝城へと参内し、到着を先触れしてまいります」
「ウルリッヒ将軍、なにからなにまで、感謝する」
「いえいえ、私にできることはこれくらいですからな」

 そう言うと、ウルリッヒは一人先行して帝都へと入って行くのだった。
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