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第七部

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「面白くないな……」

 私がそう呟くと、隣に居る気配が一瞬ビクッと震える。
 その気配を感じながらも、無視して私は目の前で光っている箱を凝視していた。
 箱の中には、エルドール王国、ランドバル帝国、シャイダー獣王国、ジーパン魔法商業国家、北方諸領土連合国と文字が浮き出ていた。
 そして、その文字の近くにはそれぞれの領土を表すように光り輝く線で区切られている。
 ただ、その線の位置を見て私は不機嫌になっているのだ。

「これでは、エルドールの一人勝ちではないか。奴に約束を果たさせられない」

 私はそう言って、箱の中のエルドールを握りつぶそうとする……。
 だが、触れる直前にバチッ! という音共に手が弾かれてしまう。
 分かってはいるものの、やはり気分が最悪になる。
 私は、舌打ちをしつつ後ろで小さくなっている気配に向かって声をかけた。

「あれだけ特殊能力を渡したのに、全く使えないな君は……」
「ど、どうかお慈悲を! もう一度チャンスをください!」

 私が声をかけると、うずくまるように小さくなっている気配が必死に声を出してきた。
 ただ、私にはその気は既に無い。

「残念だけど、君にはもう用は無いよ。ちょっと早いけど約束通り元の世界に戻そう」
「そ、それは本当ですか!?」
「あぁ、もちろん転生の直前にね」
「ひぃっ! そ、それだけはご勘弁ください! また私にトラックに轢かれろと!? あの嫌な感覚をもう一度味わえというのですか!? 記憶をなくしても構いませんから、どうか、この世界で転生させてください!」
「……ごめんね~。もう要らないんだ、君は。さようなら、魔獣使いくん」

 私がそう言うと、怯える彼の気配が一瞬で遠のいた。
 地球のある世界へと、帰って行ったのだ。
 羽虫を片付けた私は、また箱の方へと向き直りながら左手を無造作に別次元に突っ込んだ。

「ルールとは言え、面倒だな……」

 そうぼやきながら、手を突っ込んだ先で一つの魂を引き上げようとかき回す。

「島津は本当に、当たりだったんだけど……、強すぎるのも考え物だよね」

 彼は、この永久戦争ゲームの番を全て染め上げてしまいかねない。
 そうなっては、ゲームが終わってしまうのだ。
 ゲームが終わる=世界が崩壊するということになる。
 そうなってしまっては……、そうこの身も危うくなるだろう。

「……っと、今回はこれにするか」

 考え事をしながらかきまぜた手を、ふと止めて一つの魂を引き上げる。

「……これは、なんとも意外な当りを引いたかもしれないな」

 私は、対面したその魂を見てほくそ笑むのだった。



エルドール王国 ディークニクト

 あれから、向こう10年。
 本当に何事もなく過ごしている。
 いや、何事かはあったか。
 友人でもあるウォルが死に、トーマン宰相も先年逝った。
 ウォルのところは、息子が家督を継いで兵を率いている。
 宰相は、クローリーがあとを継いだ。
 もっとも、宰相の後継は俺が決めたのではなく、トーマンの推薦という形になっているが。
 この10年の間に、世界のありようは徐々にだが変わってきている。
 一つは、魔導飛行船だ。
 ドロシー研究所謹製の門外不出の技術となっており、研究者には条件式の忘却魔法をかけているくらいだ。
 もう一つは、国の興亡だ。
 あれから帝国は、徐々に浸食されながらも一応国としての体面は保っている。
 その最も大きい部分は、あの国防将軍だろう。
 聞いた話、3人居た国防将軍のうち1人は死んだが、残り二人が東奔西走して守護しているという話だ。
 ただ、これもそろそろ限界が来るだろう。
 次いで、獣王国。
 こちらは、略奪と強姦の限りを尽くしていたせいもあって、元々帝国に居た人たちが流民となって各地に逃げ出した。
 その為、せっかく領地を広げたものの土地を運用するノウハウが足らず思ったよりも伸び悩んでいる。
 ちなみに、散って行った流民の大半はうちの領土へと向かって来ている。
 まぁ、その為に獣王国とは最近関係がギクシャクし始めている。
 あとの国は、まぁいつも通りと言ったところだろう。

「ディークニクト様、帝国から使者の方がお越しになられました」

 俺が地図を見ながら考えていると、伝令官が来客を告げてきた。

「ほう、帝国が? またぞろ食料の融通をしてくれとでも言って来たかな?」

 俺が、そんな事をぼやきながらも許可すると、謁見の間に使者が入ってきた。
 入ってきた使者を見た瞬間、食糧援助ではないことがハッキリと分かった。
 何せ、各地を歴戦してくすんでいるとはいえ、煌びやかな装飾に身を包んだこの男を俺は覚えている。

「国防将軍のアイゼナッハ殿だったかな?」
「ご拝謁だけでなく、ご記憶に留めて頂き感謝いたします」

 アイゼナッハは、そう言うと跪いた。

「して、今日は何の用があってのことかな? いつもの食糧援助の話では無かろう?」
「では、単刀直入に申し上げます」

 そう前置きした彼から語られたのは、あまりにも衝撃的な内容だった。
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