165 / 213
第七部
7-5
しおりを挟む
???? ???
「面白くないな……」
私がそう呟くと、隣に居る気配が一瞬ビクッと震える。
その気配を感じながらも、無視して私は目の前で光っている箱を凝視していた。
箱の中には、エルドール王国、ランドバル帝国、シャイダー獣王国、ジーパン魔法商業国家、北方諸領土連合国と文字が浮き出ていた。
そして、その文字の近くにはそれぞれの領土を表すように光り輝く線で区切られている。
ただ、その線の位置を見て私は不機嫌になっているのだ。
「これでは、エルドールの一人勝ちではないか。奴に約束を果たさせられない」
私はそう言って、箱の中のエルドールを握りつぶそうとする……。
だが、触れる直前にバチッ! という音共に手が弾かれてしまう。
分かってはいるものの、やはり気分が最悪になる。
私は、舌打ちをしつつ後ろで小さくなっている気配に向かって声をかけた。
「あれだけ特殊能力を渡したのに、全く使えないな君は……」
「ど、どうかお慈悲を! もう一度チャンスをください!」
私が声をかけると、うずくまるように小さくなっている気配が必死に声を出してきた。
ただ、私にはその気は既に無い。
「残念だけど、君にはもう用は無いよ。ちょっと早いけど約束通り元の世界に戻そう」
「そ、それは本当ですか!?」
「あぁ、もちろん転生の直前にね」
「ひぃっ! そ、それだけはご勘弁ください! また私にトラックに轢かれろと!? あの嫌な感覚をもう一度味わえというのですか!? 記憶をなくしても構いませんから、どうか、この世界で転生させてください!」
「……ごめんね~。もう要らないんだ、君は。さようなら、魔獣使いくん」
私がそう言うと、怯える彼の気配が一瞬で遠のいた。
地球のある世界へと、帰って行ったのだ。
羽虫を片付けた私は、また箱の方へと向き直りながら左手を無造作に別次元に突っ込んだ。
「ルールとは言え、面倒だな……」
そうぼやきながら、手を突っ込んだ先で一つの魂を引き上げようとかき回す。
「島津は本当に、当たりだったんだけど……、強すぎるのも考え物だよね」
彼は、この永久戦争ゲームの番を全て染め上げてしまいかねない。
そうなっては、ゲームが終わってしまうのだ。
ゲームが終わる=世界が崩壊するということになる。
そうなってしまっては……、そうこの身も危うくなるだろう。
「……っと、今回はこれにするか」
考え事をしながらかきまぜた手を、ふと止めて一つの魂を引き上げる。
「……これは、なんとも意外な当りを引いたかもしれないな」
私は、対面したその魂を見てほくそ笑むのだった。
エルドール王国 ディークニクト
あれから、向こう10年。
本当に何事もなく過ごしている。
いや、何事かはあったか。
友人でもあるウォルが死に、トーマン宰相も先年逝った。
ウォルのところは、息子が家督を継いで兵を率いている。
宰相は、クローリーがあとを継いだ。
もっとも、宰相の後継は俺が決めたのではなく、トーマンの推薦という形になっているが。
この10年の間に、世界のありようは徐々にだが変わってきている。
一つは、魔導飛行船だ。
ドロシー研究所謹製の門外不出の技術となっており、研究者には条件式の忘却魔法をかけているくらいだ。
もう一つは、国の興亡だ。
あれから帝国は、徐々に浸食されながらも一応国としての体面は保っている。
その最も大きい部分は、あの国防将軍だろう。
聞いた話、3人居た国防将軍のうち1人は死んだが、残り二人が東奔西走して守護しているという話だ。
ただ、これもそろそろ限界が来るだろう。
次いで、獣王国。
こちらは、略奪と強姦の限りを尽くしていたせいもあって、元々帝国に居た人たちが流民となって各地に逃げ出した。
その為、せっかく領地を広げたものの土地を運用するノウハウが足らず思ったよりも伸び悩んでいる。
ちなみに、散って行った流民の大半はうちの領土へと向かって来ている。
まぁ、その為に獣王国とは最近関係がギクシャクし始めている。
あとの国は、まぁいつも通りと言ったところだろう。
「ディークニクト様、帝国から使者の方がお越しになられました」
俺が地図を見ながら考えていると、伝令官が来客を告げてきた。
「ほう、帝国が? またぞろ食料の融通をしてくれとでも言って来たかな?」
俺が、そんな事をぼやきながらも許可すると、謁見の間に使者が入ってきた。
入ってきた使者を見た瞬間、食糧援助ではないことがハッキリと分かった。
何せ、各地を歴戦してくすんでいるとはいえ、煌びやかな装飾に身を包んだこの男を俺は覚えている。
「国防将軍のアイゼナッハ殿だったかな?」
「ご拝謁だけでなく、ご記憶に留めて頂き感謝いたします」
アイゼナッハは、そう言うと跪いた。
「して、今日は何の用があってのことかな? いつもの食糧援助の話では無かろう?」
「では、単刀直入に申し上げます」
そう前置きした彼から語られたのは、あまりにも衝撃的な内容だった。
「面白くないな……」
私がそう呟くと、隣に居る気配が一瞬ビクッと震える。
その気配を感じながらも、無視して私は目の前で光っている箱を凝視していた。
箱の中には、エルドール王国、ランドバル帝国、シャイダー獣王国、ジーパン魔法商業国家、北方諸領土連合国と文字が浮き出ていた。
そして、その文字の近くにはそれぞれの領土を表すように光り輝く線で区切られている。
ただ、その線の位置を見て私は不機嫌になっているのだ。
「これでは、エルドールの一人勝ちではないか。奴に約束を果たさせられない」
私はそう言って、箱の中のエルドールを握りつぶそうとする……。
だが、触れる直前にバチッ! という音共に手が弾かれてしまう。
分かってはいるものの、やはり気分が最悪になる。
私は、舌打ちをしつつ後ろで小さくなっている気配に向かって声をかけた。
「あれだけ特殊能力を渡したのに、全く使えないな君は……」
「ど、どうかお慈悲を! もう一度チャンスをください!」
私が声をかけると、うずくまるように小さくなっている気配が必死に声を出してきた。
ただ、私にはその気は既に無い。
「残念だけど、君にはもう用は無いよ。ちょっと早いけど約束通り元の世界に戻そう」
「そ、それは本当ですか!?」
「あぁ、もちろん転生の直前にね」
「ひぃっ! そ、それだけはご勘弁ください! また私にトラックに轢かれろと!? あの嫌な感覚をもう一度味わえというのですか!? 記憶をなくしても構いませんから、どうか、この世界で転生させてください!」
「……ごめんね~。もう要らないんだ、君は。さようなら、魔獣使いくん」
私がそう言うと、怯える彼の気配が一瞬で遠のいた。
地球のある世界へと、帰って行ったのだ。
羽虫を片付けた私は、また箱の方へと向き直りながら左手を無造作に別次元に突っ込んだ。
「ルールとは言え、面倒だな……」
そうぼやきながら、手を突っ込んだ先で一つの魂を引き上げようとかき回す。
「島津は本当に、当たりだったんだけど……、強すぎるのも考え物だよね」
彼は、この永久戦争ゲームの番を全て染め上げてしまいかねない。
そうなっては、ゲームが終わってしまうのだ。
ゲームが終わる=世界が崩壊するということになる。
そうなってしまっては……、そうこの身も危うくなるだろう。
「……っと、今回はこれにするか」
考え事をしながらかきまぜた手を、ふと止めて一つの魂を引き上げる。
「……これは、なんとも意外な当りを引いたかもしれないな」
私は、対面したその魂を見てほくそ笑むのだった。
エルドール王国 ディークニクト
あれから、向こう10年。
本当に何事もなく過ごしている。
いや、何事かはあったか。
友人でもあるウォルが死に、トーマン宰相も先年逝った。
ウォルのところは、息子が家督を継いで兵を率いている。
宰相は、クローリーがあとを継いだ。
もっとも、宰相の後継は俺が決めたのではなく、トーマンの推薦という形になっているが。
この10年の間に、世界のありようは徐々にだが変わってきている。
一つは、魔導飛行船だ。
ドロシー研究所謹製の門外不出の技術となっており、研究者には条件式の忘却魔法をかけているくらいだ。
もう一つは、国の興亡だ。
あれから帝国は、徐々に浸食されながらも一応国としての体面は保っている。
その最も大きい部分は、あの国防将軍だろう。
聞いた話、3人居た国防将軍のうち1人は死んだが、残り二人が東奔西走して守護しているという話だ。
ただ、これもそろそろ限界が来るだろう。
次いで、獣王国。
こちらは、略奪と強姦の限りを尽くしていたせいもあって、元々帝国に居た人たちが流民となって各地に逃げ出した。
その為、せっかく領地を広げたものの土地を運用するノウハウが足らず思ったよりも伸び悩んでいる。
ちなみに、散って行った流民の大半はうちの領土へと向かって来ている。
まぁ、その為に獣王国とは最近関係がギクシャクし始めている。
あとの国は、まぁいつも通りと言ったところだろう。
「ディークニクト様、帝国から使者の方がお越しになられました」
俺が地図を見ながら考えていると、伝令官が来客を告げてきた。
「ほう、帝国が? またぞろ食料の融通をしてくれとでも言って来たかな?」
俺が、そんな事をぼやきながらも許可すると、謁見の間に使者が入ってきた。
入ってきた使者を見た瞬間、食糧援助ではないことがハッキリと分かった。
何せ、各地を歴戦してくすんでいるとはいえ、煌びやかな装飾に身を包んだこの男を俺は覚えている。
「国防将軍のアイゼナッハ殿だったかな?」
「ご拝謁だけでなく、ご記憶に留めて頂き感謝いたします」
アイゼナッハは、そう言うと跪いた。
「して、今日は何の用があってのことかな? いつもの食糧援助の話では無かろう?」
「では、単刀直入に申し上げます」
そう前置きした彼から語られたのは、あまりにも衝撃的な内容だった。
0
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる