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第六部

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エルディナ平原 ディークニクト

 バハムートの爆撃で、敵は壊乱しはじめた。
 ただ、それと入れ替わるように左右から敵の増援が近づいてきている。
 そして、空からも。

「左右の丘を迂回して、敵がこちらに近づいています! 昨日の飛龍もこちらに向かっています!」
「飛龍はバハムートに任せろ! 我らは、敵増援の相手をする! 予備兵力以外は配置につけ!」

 命令と同時に、兵たちが一斉に持ち場へと戻る。
 戻った兵たちは、一斉に矢を番え敵の進軍に備えるのだった。

「敵は左右各五万! 合わせて10万程度です!」
「安心しろ! ほぼ同数だ!」

 俺が声を挙げると、兵たちが一斉に声を挙げて応える。
 ただ、同数というのはハッキリ言って嘘だ。
 昨日の飛龍と敵部隊との交戦で、少なからず被害は出ている。
 こちらの損害は、負傷者を合わせれば1万近い。
 そこに予備兵力を作っているのだ。
 兵数は、ほぼ2倍と言っていいだろう。
 だが、一応砦としての機能を持たせたこの陣地に居る間は、どうにかなる。
 問題は、バハムートが敵飛龍を殺し尽くせるかだ。

「敵飛龍が、バハムートと接触! ……ひ、飛龍が落ちていきます!?」
「よし! これで俺達は目の前に居る敵を倒すだけで良いぞ!」
「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 バハムートの活躍もあり、陣内の兵たちの士気は一気に上がった。
 それは、敵が一瞬攻めるのを躊躇するくらいの勢いだった。
 だが、流石に国家の命運をかけて来ている兵たちだ。
 こちらの士気の高さに、一瞬は躊躇ったもののすぐさま建て直して攻め始めた。

「敵が堀に入ります!」
「弓兵構え! 坂を降り切った所を狙って放て!」

 弓兵たちは、俺の命令通りに矢を放った。
 敵兵も、ここでの間引きはある程度分かっているのだろう。
 隣で戦友が倒れようと、まったく怯む様子もなく突っ込んでくる。
 それどころか、敵の弓兵による援護攻撃が始まった。

「盾兵! すぐさま弓兵を守れ! 槍は下からくる者に向けろ!」

 盾兵は、命令が下るとすぐさま弓兵の前に出て、盾を構え守りに入った。

「弓兵! 敵弓兵を狙い撃て!」

 弓兵は、一斉に狙いを敵弓兵に切り替えた。
 そこからは、ハッキリ言って消耗戦である。
 堀となっている起伏を敵兵が登り、こちらが槍で突き落とす。
 弓兵たちは、互いに盾兵に隠れて矢を放ち、たまに盾兵に当てて少しでも脅威を覚えさせる。
 そんな事が何度も繰り返されている中、物見の兵が叫び声をあげた。

「じょ、上空に巨大な龍が出現! あ、あれは……、真龍種です!」
「真龍種だと!?」

 真龍種とは、いわゆる伝説だ。
 東西南北、それぞれの地に太古の昔から居ると伝えられている者たちだ。

「バハムートは!?」
「現在回避行動に入っています! ですが……ッ!」

 バハムートは、いわゆる空爆機。
 戦闘機の様な旋回性は、持ち合わせていない。

「まずは、目の前の敵を片付けろ! 龍はドロシーに任せろ!」

 俺は、咄嗟にそういうしかなかった。
 そうしなければ、簡単に士気が崩壊しかねない状況なのだ。



エルディナ平原上空 ドロシー

 先ほどまで倒していた飛龍たちが、急に引き上げた。
 まだ数的には余力がありそうだが……。

「な!? ど、ドロシー様! 巨大な龍が出現!」
「巨大な龍!? 形状は!?」
「細長い蛇の様な体が、雲間から見えています!」

 ジーパンに居ると言われている、雷龍……、真龍種!?

「総員! すぐさま魔力チェック! 私抜きでどれくらい残っている!?」
「恐らく1時間程度のフライトは可能です……、まさか!?」
「そのまさかよ! 私がこの場に残る! あんたたちはこのバハムートを無事に帰しなさい!」
「し、しかし! いくらドロシー様でも……ッ!」

 真龍種には、敵わない。
 確かにそうだ。
 彼らの魔力量は、人の数万倍とも数億倍とも言われている。
 私でも、数千倍がやっとなのだ。
 そして、それを使役できるなんて普通は考えられない。
 考えられないが、あのいけ好かない神モドキなら……。

「急速旋回! 全速力でエルドール領内に帰還しなさい! 旋回が終わったらここ、交代するわよ! 各員スタンバイ!」
「い……イエス、マム!」

 私が指示を下すと、バハムートは急速旋回を始めた。
 そして、それが終わるのと同時に、私はすぐさま椅子から立ち上がってハッチを開けた。

「いい! 絶対に帝国にだけは渡したらダメよ! あと、私は死ぬ気は無いからね! あんたたちも死ぬんじゃないわよ!」

 そう言って、飛び降りるのと同時に浮遊魔法を展開する。
 と言っても、実際には風魔法を展開しているだけだ。
 物を浮かす要領で、体を浮かせているのだ。

「さてと、真龍種なら言葉が通じるはずだけど……」

 私がそんな事を考えていると、雷龍はいきなり襲い掛かってきた。

「全く! 恐れ多くも亜神を使役するなんて……ッ!」

 私は、襲い掛かってきた雷龍の頭を魔法壁で押しとどめる。
 せめて、バハムートが安全圏に退避するまでは持たせたいが……。
 そんな思いなど知らぬとばかりに、魔法壁にヒビが入る。

「冗談じゃないわよ! これでもダイナマイトの爆発にも無傷で耐えたし、あの魔力馬鹿の一撃も止めた魔法壁よ! それを……ッ!」

 バリン! という大きな音と同時に、雷龍の身体が近づいてくる。
 ――まずい!――
 咄嗟に体を上空に上げて、雷龍の体当たりをかわす。
 だが、そんな私に雷龍が次の一撃を放ってきた。

「くっ!」

 一瞬、今度は下に向かって力を放って自由落下に入る。
 雷龍の二撃目を避けると、やっとこちらに興味を持ったのか雷龍がニヤリと笑ったように見えた。

「……流石真龍種、余裕の表情ね」

 戦いでの余裕は、油断を産む。
 常に緊張感を持て。
 シマ……、ディーが言ってたわね。

「……でも、真龍種にそんな感情あるのかしら?」

 私は途方に暮れながらも、一つの可能性に賭けるしかなかったのだった。
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