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第六部
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「アーネット様! このままでは我が軍は崩壊します!」
「見れば分かる。俺が今から止めに行く。お前たちは周囲の敵を一掃しろ!」
俺が、周囲の兵に喝を入れて走らせる。
それをエルババも見ていたのだろう、こちらに向かって悠然と近づいてきた。
「ほぅ、貴様がこの軍の将だな? その首この俺がもらい受ける!」
「ほざけ! 俺がお前の首を取ってやる!」
お互いに罵りあいながら近づき、あと一歩の距離で示し合わせた様に止まった。
得物は互いに棒状の武器。
俺の狼牙棒に対して、エルババは鉄棍。
一撃必殺の武器を手にして睨み合いを始める。
「なんだ? さっさと打ってこんか! 腰抜けが!」
「間合いも分からんのか! このサルが!」
睨み合いながら、なおも罵りあい相手の隙を探る。
そんな俺達の間を、傍で戦っていた兵の兜が通り過ぎる。
瞬間、互いに得物をぶつけ合った。
兜が丁度お互いの隙になったのだ。
「うぉ!」
「くぅっ!」
互いにぶつけ合った武器が跳ね返され、驚嘆の笑みが浮かぶ。
「ほぉ、このエルババの一撃を受けるとは」
「痛ぅ……、剛力だと聞いていたが、これほどとは」
鈍い痛みが走る手の感触を確かめながら、俺は次の一撃を打ち降ろした。
ガン!
と今度は鈍い音を立てて、エルババが構える鉄棍に止められる。
互いに刃の無い武器なので、止められれば相手を殺傷することは難しい。
まぁ、俺の方には棘があるから、ダメージくらいは与えられるだろうが。
「中々の膂力だな! 貴様、俺の所に来い!」
「寝言は寝て言え! いや、今ここで永遠に寝ていろ!」
俺がそう言って力を籠めると、エルババは得物をずらしていなしてきた。
一瞬バランスを崩しかけて踏みとどまり、今度は打ち上げる形で武器を振るう。
エルババはそれも受け止めてくる。
だが、俺もそんな所で怯んでいられない。
猛然と狼牙棒を打ち付けていった。
「くっ! 中々強い!」
エルババからそんな声が聞こえるが、こちらも焦っている。
何せ、先ほどから一撃必殺の連打を浴びせているのに、一回も防御を貫けていないのだ。
しばらく俺が一方的に打ち付けていたが、流石に疲れが出始め鈍くなる。
そして、そんな瞬間をエルババは見逃さずに俺の急所を狙って打ち返してきた。
「くそ! 重い!」
それからは、お互いに打ちつ打たれつを繰り返し50合を超えたころ。
退却のラッパがお互いの陣営から吹かれた。
「ちぃ! 退却だ! 勝負は明日だ!」
「なんだ!? 逃げる気か?」
俺が精いっぱいの強がりをしてみせると、エルババはフンと鼻で笑いながら退却していった。
まったく、世の中は広い。
俺はそんな事をふと思いながらも、退却するのだった。
獣王国軍 エルババ
「初日の戦況報告は!?」
俺が声を荒げながら自陣の天幕に戻ると、家臣の一人が報告書を読み上げ始めた。
「初日のこちらの損害ですが、約100名の戦死を確認しております。ですが、日が暮れてからですので、正確な数字ではありません。また、敵軍の損害もおよそ100となっております」
「なんだと? お互いに損害が同等だと?」
「は、はい。恐らくこちらが多少損害軽微というだけで、大差はないかと」
戦士の質が落ちている? いや、相手が強いのかもしれない。
今日戦った敵将も、中々の膂力と技術のある武将だった。
あれが鍛えているとしたら……。
確かにその可能性は十分あるか。
「この戦争が終わったら、徹底的に兵たちを鍛え上げねばならぬな! 同等の損害など獣人の名折れだ!」
俺がそう言うと、近くに居た文武官たちの空気が張りつめた。
まぁ、地獄など生ぬるいくらいの特訓をするから、分からんでもないが。
「まぁいい。それよりも明日に備えるぞ。明日は第二軍も到着する。一気に押しつぶしにかかるだけだ」
俺がそう言って軍議を打ち切ると、全員が退出していった。
翌日、朝から戦の準備を進めていると後方から本軍が到着した。
第一軍が4万、第二軍が5万の合計9万。
今日中に、この目の前の砦を攻略せねばならない。
「さぁ、一気に敵の王都まで駆け抜けるぞ!」
号令をかけると、全員が気炎を巻き上げた。
敵は精々3万。
三倍の兵力があれば砦も楽に落とせよう。
俺が、意気揚々と兵を率いて進んでいると突然、轟音と共に何かが激しく打ち付けられる音が響いた。
それとほぼ同時に悲痛にも似た報告が飛んでくる。
「後方で兵が負傷しました! 死亡者も多数!」
「な、何があった!?」
「そ、それが、突然天から鉄の塊などが降ってきて兵たちが……」
て、天から?
俺はそう言われて上空を見上げると、見たこともない物が飛んでいた。
「な、なんだあれは!?」
鳥? ……いや、鳥にしたらおかしい。
羽が水平? 動いてない様に見えるが……。
俺が目を凝らしてみていると、鳥らしきものの後ろから、何かが光るのが見えた。
「……あ、あれは!? 全員退避しろ! 盾兵は頭上に盾をかざせ!」
咄嗟に指示を出して数瞬。
突然頭上から鉄の塊が降ってきた。
その鉄の塊に、盾兵以外の兵たちはなす術もなく倒れて行くのだった。
「見れば分かる。俺が今から止めに行く。お前たちは周囲の敵を一掃しろ!」
俺が、周囲の兵に喝を入れて走らせる。
それをエルババも見ていたのだろう、こちらに向かって悠然と近づいてきた。
「ほぅ、貴様がこの軍の将だな? その首この俺がもらい受ける!」
「ほざけ! 俺がお前の首を取ってやる!」
お互いに罵りあいながら近づき、あと一歩の距離で示し合わせた様に止まった。
得物は互いに棒状の武器。
俺の狼牙棒に対して、エルババは鉄棍。
一撃必殺の武器を手にして睨み合いを始める。
「なんだ? さっさと打ってこんか! 腰抜けが!」
「間合いも分からんのか! このサルが!」
睨み合いながら、なおも罵りあい相手の隙を探る。
そんな俺達の間を、傍で戦っていた兵の兜が通り過ぎる。
瞬間、互いに得物をぶつけ合った。
兜が丁度お互いの隙になったのだ。
「うぉ!」
「くぅっ!」
互いにぶつけ合った武器が跳ね返され、驚嘆の笑みが浮かぶ。
「ほぉ、このエルババの一撃を受けるとは」
「痛ぅ……、剛力だと聞いていたが、これほどとは」
鈍い痛みが走る手の感触を確かめながら、俺は次の一撃を打ち降ろした。
ガン!
と今度は鈍い音を立てて、エルババが構える鉄棍に止められる。
互いに刃の無い武器なので、止められれば相手を殺傷することは難しい。
まぁ、俺の方には棘があるから、ダメージくらいは与えられるだろうが。
「中々の膂力だな! 貴様、俺の所に来い!」
「寝言は寝て言え! いや、今ここで永遠に寝ていろ!」
俺がそう言って力を籠めると、エルババは得物をずらしていなしてきた。
一瞬バランスを崩しかけて踏みとどまり、今度は打ち上げる形で武器を振るう。
エルババはそれも受け止めてくる。
だが、俺もそんな所で怯んでいられない。
猛然と狼牙棒を打ち付けていった。
「くっ! 中々強い!」
エルババからそんな声が聞こえるが、こちらも焦っている。
何せ、先ほどから一撃必殺の連打を浴びせているのに、一回も防御を貫けていないのだ。
しばらく俺が一方的に打ち付けていたが、流石に疲れが出始め鈍くなる。
そして、そんな瞬間をエルババは見逃さずに俺の急所を狙って打ち返してきた。
「くそ! 重い!」
それからは、お互いに打ちつ打たれつを繰り返し50合を超えたころ。
退却のラッパがお互いの陣営から吹かれた。
「ちぃ! 退却だ! 勝負は明日だ!」
「なんだ!? 逃げる気か?」
俺が精いっぱいの強がりをしてみせると、エルババはフンと鼻で笑いながら退却していった。
まったく、世の中は広い。
俺はそんな事をふと思いながらも、退却するのだった。
獣王国軍 エルババ
「初日の戦況報告は!?」
俺が声を荒げながら自陣の天幕に戻ると、家臣の一人が報告書を読み上げ始めた。
「初日のこちらの損害ですが、約100名の戦死を確認しております。ですが、日が暮れてからですので、正確な数字ではありません。また、敵軍の損害もおよそ100となっております」
「なんだと? お互いに損害が同等だと?」
「は、はい。恐らくこちらが多少損害軽微というだけで、大差はないかと」
戦士の質が落ちている? いや、相手が強いのかもしれない。
今日戦った敵将も、中々の膂力と技術のある武将だった。
あれが鍛えているとしたら……。
確かにその可能性は十分あるか。
「この戦争が終わったら、徹底的に兵たちを鍛え上げねばならぬな! 同等の損害など獣人の名折れだ!」
俺がそう言うと、近くに居た文武官たちの空気が張りつめた。
まぁ、地獄など生ぬるいくらいの特訓をするから、分からんでもないが。
「まぁいい。それよりも明日に備えるぞ。明日は第二軍も到着する。一気に押しつぶしにかかるだけだ」
俺がそう言って軍議を打ち切ると、全員が退出していった。
翌日、朝から戦の準備を進めていると後方から本軍が到着した。
第一軍が4万、第二軍が5万の合計9万。
今日中に、この目の前の砦を攻略せねばならない。
「さぁ、一気に敵の王都まで駆け抜けるぞ!」
号令をかけると、全員が気炎を巻き上げた。
敵は精々3万。
三倍の兵力があれば砦も楽に落とせよう。
俺が、意気揚々と兵を率いて進んでいると突然、轟音と共に何かが激しく打ち付けられる音が響いた。
それとほぼ同時に悲痛にも似た報告が飛んでくる。
「後方で兵が負傷しました! 死亡者も多数!」
「な、何があった!?」
「そ、それが、突然天から鉄の塊などが降ってきて兵たちが……」
て、天から?
俺はそう言われて上空を見上げると、見たこともない物が飛んでいた。
「な、なんだあれは!?」
鳥? ……いや、鳥にしたらおかしい。
羽が水平? 動いてない様に見えるが……。
俺が目を凝らしてみていると、鳥らしきものの後ろから、何かが光るのが見えた。
「……あ、あれは!? 全員退避しろ! 盾兵は頭上に盾をかざせ!」
咄嗟に指示を出して数瞬。
突然頭上から鉄の塊が降ってきた。
その鉄の塊に、盾兵以外の兵たちはなす術もなく倒れて行くのだった。
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