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第六部

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 アーネットたちが、抗議に来てから数日後。
 滑走路がようやく完成した。
 後は、ドロシーの到着を待つばかりとなっている。
 先触れの報告では、今日中にこちらに向かって来ると聞いていたので、文武官で手の空いている者全員で滑走路の近くに待機している。

「陛下、本当にこちらにドロシー様がいらっしゃるのでしょうか?」
「ドロシー様なら空を飛んでも不思議ではありませんが、いささかあの方一人にしては着地場所が大きいような……」

 心配そうに文官たちが、だだっ広い滑走路を見ながら困惑している。
 まぁ、心配したいのも分かる。
 航空魔導兵器なんて、誰も信じられないだろう。
 というか、空を飛ぶという発想すらしないだろう。

「まぁ、そう心配するな。ドロシーが持ってくるのは、そんなちんけな物ではない。きっとお前たちの度肝を抜くだろう」

 俺がそう言うと、武官席に居るカレドとトリスタンが頷いているのが見えた。
 そんな話をしていると、併設した物見櫓に居た兵が、声をあげる。

「陛下! こちらに向かって飛んでくるものがあります! 鳥ではありません! あれは!?」

 物見の兵が、息をのんだのとほぼ同時にこちらからも肉眼で見えてきた。
 地面に対して水平に伸びた翼に、明らかに鳥よりも大きな体。
 それを見た文武官は、全員が唖然としていた。

「な、なんだあれは!?」
「へ、陛下! まさかあれがドロシー様の作ったものですか!?」

 全員が唖然とする中、その飛行物体は徐々に高度を下げ、こちらの滑走路を目指して降りてきた。
 それと同時に、推進力にしている魔力の放射が見えてくる。
 その圧倒的な魔力量に、文官の中には気を失った者も居た。
 そんな混乱があるなか、航空魔導兵器は滑走路に降り立つと、車輪がきしむ音を上げながら止まった。

「流石は、ディー……」
「これはまた、度肝を抜かれる大きさですね……」

 航空兵器を前に、カレドとトリスタンも流石に唖然としていた。
 そんな中、着地に成功した航空兵器へと梯子を持って兵たちが駆け寄り、扉を開けたのと同時に。

「やったぞ! 長距離飛行達成したぞ!」
「流石ドロシー様!」
「生きた心地がしなかった!」

 という声が聞こえ、先ほどまで唖然としていた文武官は、今度は別の意味で唖然とし始めた。
 まぁ、俺としては予想していたから仕方ないのだが。
 あいつ、ぶっつけ本番で長距離飛んできたのか……。

「諸君! 到着しているのだ! 堂々としなさい!」

 小太りの副所長の声が聞こえた瞬間、先ほどまで中から聞こえていた歓喜の声が止まった。
 そして、次の瞬間ドロシーが梯子の前に姿を現した。

「おぉ! ドロシー様!」
「このような兵器見たこともありません!」
「流石世界一の魔道具開発者!」
「魔導兵器万歳! ドロシー様、万歳!」

 ドロシーの姿を見た、文武官たちは一斉に歓声を上げた。
 そして、ドロシーはその歓声を受けながら梯子を下りて俺と握手を交わした。

「ドロシー、よくやってくれた。みんな度肝を抜かれていたぞ」
「当たり前よ! これで度肝を抜かれない奴が居たら、私が泣くわ!」
「ハハハハ、確かにこれを見てそんな奴が居たら泣きたくなるな」

 俺達が談笑してから、文武官たちに振り向き近くで見る事を許可すると、すぐさま全員が駆け寄った。

「これは、材質は鉄!? こんな鉄で覆われた物が飛ぶのか?」
「これ見てみろ! 筒の中に少し曲がった板が複数枚入っているぞ!」
「これは、鳥の翼の様に上下に動かさないのか? なぜあのように飛べるんだ?」
「しかし、大きい。これだけの大きさだと、数百の兵を乗せて運べるのではないか?」

 全員が全員、各々の興味の示すまま航空兵器を眺め、軽く叩き、触って確かめていた。
 まぁ、大きいものを見ると興奮するのは、いつの時代も何歳になっても変わらないものだ。
 それが特に、見たことも無いものだとなおさらだろう。

「陛下! これは我らも空を飛べるのでしょうか!?」
「陛下! 私はこれに乗ってみとうございますぞ!」

 そんなテンションが上がっている中に、普段冷静なトーマンが混じっているのを見るとなんともほほえましい。
 というか、あいつ今乗って飛びたいとか言っていたぞ。
 どんだけ好奇心旺盛なんだ。

「トーマン、それにはもう少し待て。これが出陣する際に一緒に乗せてやる」
「おぉ! 本当でございますか!? これは良い冥途の土産話になりましょう!」
「縁起でもない。お前にはまだまだ働いてもらわねばならないのだからな」

 俺がそう言うと、トーマンは呵々と大笑して「失礼しました」と謝ってきた。
 まぁ、テンションが上がっているのだろう。

「して陛下、こちらの兵器の名前は如何いたしますか?」
「……そうだな、伝説の龍の名を取ってバハムートとしたいが、どうだ?」
「なるほど! バハムートですな! 良い名かと思います」
「よし、ではこいつの名は、バハムートだ!」

 それからバハムートは、近くに併設された格納庫に一旦しまわれて出番を待つのだった。
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