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第五部
5-30
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王都 ディークニクト
大公領での戦いが終わった俺達は、王都へと凱旋した。
結果は、自軍兵力をほぼ損なわずに敵を完膚なきまでに叩き潰したので、完勝と言っていいだろう。
だが、名目としていた総主教については行方が知れず、未だに捕まっていない。
その事を考えると、戦に勝って勝負に負けた気がしないでもない。
ただそんな事は、今回は無しだ。
まずは論功行賞を行わなければならない。
これまでは内輪だったのであまりする必要性がなかったが、今後は大所帯になる。
しっかりと論功行賞をして信賞必罰で行かなければ、軍が機能しなくなる。
「さて、全員集まっているな? これより論功行賞を行う!」
俺が謁見の間で、そう声を張りあげると全員が真剣な目でこちらを見てきた。
最初に、内務官たちの中で活躍した者を労い報奨を渡していく。
もちろんその中には、クローリーも入っている。
何気に彼は、俺達と行動を共にしてからずっと後方支援を担当しているが、一度も補給も人員補充も滞らせた事がないのだ。
正直これは称賛に値するし、個人的にはもっと大々的に褒めたいのだが、当の本人がそこは固辞している。
理由としては、自分が増長しそうだからと言っていた。
「さて、それでは戦場での武勲をこれより称える。勲功第一位はアーネット!」
俺が大声で名前を呼ぶと、アーネットが女王の前に跪く。
「戦場での武勇もさることながら、今回の戦では臨機応変な対応も見せた。また、状況を素早く判断し、敵城を奪取。大公に降伏を迫った功は計り知れないほど大きい」
俺がそこまで言うと、続きをセレス女王が引き継いだ。
「以上の功を以て、アーネットを我が軍の大将軍に任ずる。以後軍の編成は私と宰相と大将軍が権限を持つものとする!」
「だ、大将軍?」
「アーネットの奴すげぇ」
女王の言葉に疑問を持つ者や、純粋にほめたたえる者など三者三様のざわつきが謁見の間を支配した。
そんなざわつきを女王は咳払い一つで鎮め、続きを話し始めた。
「あー、すまない。大将軍という地位に関して話すのを忘れていた。大将軍とは今回新たに創設した軍部のトップだ。これまでは内務のトップの宰相が居たが、軍部のトップは誰も居なかった。なので、今回アーネットにその軍部のトップを任せようという事で作ったポストだ」
女王がそこまで言うと、全員が一斉に事の重大さに気づいた。
そう、エルフが軍の最上位と内務の最上位に位置したのだ。
人族の貴族たちは一瞬にして表情が凍った。
「ただ、軍権はかなり大きい。彼一人で全ては不可能だ。なので、宰相を相談役に入れている。もちろん体制が整えば、彼に一任して決裁権は私が握る」
女王がそう言うと、人族の貴族たちはあからさまに安堵した様子を見せた。
彼らは今回の戦争で参不参加を問わず、領土を取り上げられている。
また、その領地に替わるポストを今回内政などの場面で得られる、と聞いていたのだ。
そんな彼らの様子を見て、今度は俺が論功行賞の続きを切り出した。
「では、疑問も解決したところで第二位に移ろう。第二位はキール! 今回の遠征ではアーネットをよく補佐し、機転を利かせたことを聞いている。また、敵中にあっては孤軍奮闘し敵軍の進軍を遅らせるなど、素晴らしい働きを見せた。その功を以て第二位とする! 恩賞として、大将軍の補佐役を命じる。今後の一層の忠勤に期待している」
そう言われ、アーネットの右斜め後ろに控えていたキールは跪いた。
「そして、第三位はシャロミー! 総大将である私の警護に奮闘し、好機には部隊を二つに分けて、敵軍を引き裂き壊乱させ、大公をあと一歩のところまで追い込んだ。その功は大きい。恩賞は……、は?」
俺は、紙を見て一瞬素っ頓狂な声をあげて凍り付いた。
いや、多分俺でなくても一瞬凍り付くだろう。
なにせそこには、「ディーのお嫁さん」とシャロの字で書かれているのだ。
それもわざわざ、俺が書いた別の恩賞の上から二重線で消して上から書き直され、国王印も押されている。
どおりで、式辞の前に女王が紙を見せろと言ってくるわけだ。
俺が何とも言えない表情を女王に見せると、彼女は頷いてそれが本当であると示してきた。
「あ、あ~、シャロミーよ。本当にこの恩賞で良いのか?」
俺がそう言うと、シャロミーはニッコリと笑って頷いてきた。
ここまでされては、俺も覚悟を決めなければならない。
「取り乱して申し訳ない。では恩賞を発表する。これは彼女個人たっての願いである。シャロミーは私と結婚する」
「……は?」
一瞬、謁見の間が静まり返った。
いや、それはそうだろう。
なにせかなり個人的な事が発表されたのだ。
驚いて、唖然として、呆然となってもおかしくはない。
「では、次の……」
俺はその後、何もなかったように論功行賞を続けた。
そして、最後の一人まで終わったあと次は処罰をせねばならない。
「さて、次に今回の戦の原因である大公についてだが、大公は処断。大公に助勢していた長男も処断とする予定だったが、戦死が確認されているのでこれは取りやめとする。彼の領地財産は没収。また前国王の兄弟として与えられた大公位ははく奪とする。ただ、彼の妻、次男、三男については罪を問わず、家の復興に向けて邁進することを許可する」
これは王国の慣習法に照らし合わせると、かなり軽い罪になる。
元々は三代先まで死罪となり、一族根絶やしも覚悟せねばならない。
だが、それでは生き残りが居た場合に、禍根を大きく残すことになる。
そうなるくらいなら、いっそのこと恨みつらみをこの代で晴らさせるべきだろうと考えたのだ。
そんな経緯もあり、今回は恩赦のオンパレードでどうにか罪を大公本人と長男に全部被せて終わらせたのだ。
「さて、元大公一族の処遇も決まったところで、私から重大な発表がある」
そうかしこまって女王が言うと、全員の視線が彼女に集まった。
無論、何も聞いてない俺もだ。
「此度、論功行賞でアーネット以下諸将の奮闘には報えたと思うが、一人報えていない者が居る」
女王はそう言うと、俺の方を見てきた。
「ディークニクト、今回お主に報いる位、褒賞など色々と考えた。だが、正直何を与えても報いる事が不可能だ。そこで私は考えた。報いるものが無いなら、何があるかを」
なんとなくだが、嫌な予感がする。
「考えた結果、私とも結婚して王位に就いてくれ!」
いや、ゆくゆくはこの国は貰う予定だった。
それが俺の予定だったからだ。
ただ、今すぐではなくもっと別の形で考えていたのだ。
「どうした? 受けられないと言うのか?」
俺が少し考えていると、彼女は一世一代の勝負に出ていたのだろう。
顔がもう真っ赤になっている。
そして、よく見ると手が震えている。
そんな彼女の様子を見て、俺も覚悟を決める為にそっとシャロを流し見る。
シャロは、驚いたというよりも知ってましたというしたり顔で、こちらを見ていた。
「王命、謹んでお受けいたします」
「そうか、そうか! はぁ~良かった……」
女王は、いやセレスはそう言うとその場にへたり込みそうなのを、泣きそうなのを我慢して頷いた。
そして、全員の前でニッコリと笑い俺を最上位の椅子に押し上げた。
「あ、あ~、突然の事で何を言って良いのかは分からないが、式が終わるまで彼女が王位にあることを忘れない様に。また、今後信賞必罰で対応することをここに宣言する。全員政務に軍務に励むように」
王国を席巻したエルフの反乱は、ここに終結した。
この突然のエルフの国の建国発表は、近隣諸国はもちろん。
遠方の国々をも大きな動きに巻き込んでいくのだった。
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結果は、自軍兵力をほぼ損なわずに敵を完膚なきまでに叩き潰したので、完勝と言っていいだろう。
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その事を考えると、戦に勝って勝負に負けた気がしないでもない。
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まずは論功行賞を行わなければならない。
これまでは内輪だったのであまりする必要性がなかったが、今後は大所帯になる。
しっかりと論功行賞をして信賞必罰で行かなければ、軍が機能しなくなる。
「さて、全員集まっているな? これより論功行賞を行う!」
俺が謁見の間で、そう声を張りあげると全員が真剣な目でこちらを見てきた。
最初に、内務官たちの中で活躍した者を労い報奨を渡していく。
もちろんその中には、クローリーも入っている。
何気に彼は、俺達と行動を共にしてからずっと後方支援を担当しているが、一度も補給も人員補充も滞らせた事がないのだ。
正直これは称賛に値するし、個人的にはもっと大々的に褒めたいのだが、当の本人がそこは固辞している。
理由としては、自分が増長しそうだからと言っていた。
「さて、それでは戦場での武勲をこれより称える。勲功第一位はアーネット!」
俺が大声で名前を呼ぶと、アーネットが女王の前に跪く。
「戦場での武勇もさることながら、今回の戦では臨機応変な対応も見せた。また、状況を素早く判断し、敵城を奪取。大公に降伏を迫った功は計り知れないほど大きい」
俺がそこまで言うと、続きをセレス女王が引き継いだ。
「以上の功を以て、アーネットを我が軍の大将軍に任ずる。以後軍の編成は私と宰相と大将軍が権限を持つものとする!」
「だ、大将軍?」
「アーネットの奴すげぇ」
女王の言葉に疑問を持つ者や、純粋にほめたたえる者など三者三様のざわつきが謁見の間を支配した。
そんなざわつきを女王は咳払い一つで鎮め、続きを話し始めた。
「あー、すまない。大将軍という地位に関して話すのを忘れていた。大将軍とは今回新たに創設した軍部のトップだ。これまでは内務のトップの宰相が居たが、軍部のトップは誰も居なかった。なので、今回アーネットにその軍部のトップを任せようという事で作ったポストだ」
女王がそこまで言うと、全員が一斉に事の重大さに気づいた。
そう、エルフが軍の最上位と内務の最上位に位置したのだ。
人族の貴族たちは一瞬にして表情が凍った。
「ただ、軍権はかなり大きい。彼一人で全ては不可能だ。なので、宰相を相談役に入れている。もちろん体制が整えば、彼に一任して決裁権は私が握る」
女王がそう言うと、人族の貴族たちはあからさまに安堵した様子を見せた。
彼らは今回の戦争で参不参加を問わず、領土を取り上げられている。
また、その領地に替わるポストを今回内政などの場面で得られる、と聞いていたのだ。
そんな彼らの様子を見て、今度は俺が論功行賞の続きを切り出した。
「では、疑問も解決したところで第二位に移ろう。第二位はキール! 今回の遠征ではアーネットをよく補佐し、機転を利かせたことを聞いている。また、敵中にあっては孤軍奮闘し敵軍の進軍を遅らせるなど、素晴らしい働きを見せた。その功を以て第二位とする! 恩賞として、大将軍の補佐役を命じる。今後の一層の忠勤に期待している」
そう言われ、アーネットの右斜め後ろに控えていたキールは跪いた。
「そして、第三位はシャロミー! 総大将である私の警護に奮闘し、好機には部隊を二つに分けて、敵軍を引き裂き壊乱させ、大公をあと一歩のところまで追い込んだ。その功は大きい。恩賞は……、は?」
俺は、紙を見て一瞬素っ頓狂な声をあげて凍り付いた。
いや、多分俺でなくても一瞬凍り付くだろう。
なにせそこには、「ディーのお嫁さん」とシャロの字で書かれているのだ。
それもわざわざ、俺が書いた別の恩賞の上から二重線で消して上から書き直され、国王印も押されている。
どおりで、式辞の前に女王が紙を見せろと言ってくるわけだ。
俺が何とも言えない表情を女王に見せると、彼女は頷いてそれが本当であると示してきた。
「あ、あ~、シャロミーよ。本当にこの恩賞で良いのか?」
俺がそう言うと、シャロミーはニッコリと笑って頷いてきた。
ここまでされては、俺も覚悟を決めなければならない。
「取り乱して申し訳ない。では恩賞を発表する。これは彼女個人たっての願いである。シャロミーは私と結婚する」
「……は?」
一瞬、謁見の間が静まり返った。
いや、それはそうだろう。
なにせかなり個人的な事が発表されたのだ。
驚いて、唖然として、呆然となってもおかしくはない。
「では、次の……」
俺はその後、何もなかったように論功行賞を続けた。
そして、最後の一人まで終わったあと次は処罰をせねばならない。
「さて、次に今回の戦の原因である大公についてだが、大公は処断。大公に助勢していた長男も処断とする予定だったが、戦死が確認されているのでこれは取りやめとする。彼の領地財産は没収。また前国王の兄弟として与えられた大公位ははく奪とする。ただ、彼の妻、次男、三男については罪を問わず、家の復興に向けて邁進することを許可する」
これは王国の慣習法に照らし合わせると、かなり軽い罪になる。
元々は三代先まで死罪となり、一族根絶やしも覚悟せねばならない。
だが、それでは生き残りが居た場合に、禍根を大きく残すことになる。
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そうかしこまって女王が言うと、全員の視線が彼女に集まった。
無論、何も聞いてない俺もだ。
「此度、論功行賞でアーネット以下諸将の奮闘には報えたと思うが、一人報えていない者が居る」
女王はそう言うと、俺の方を見てきた。
「ディークニクト、今回お主に報いる位、褒賞など色々と考えた。だが、正直何を与えても報いる事が不可能だ。そこで私は考えた。報いるものが無いなら、何があるかを」
なんとなくだが、嫌な予感がする。
「考えた結果、私とも結婚して王位に就いてくれ!」
いや、ゆくゆくはこの国は貰う予定だった。
それが俺の予定だったからだ。
ただ、今すぐではなくもっと別の形で考えていたのだ。
「どうした? 受けられないと言うのか?」
俺が少し考えていると、彼女は一世一代の勝負に出ていたのだろう。
顔がもう真っ赤になっている。
そして、よく見ると手が震えている。
そんな彼女の様子を見て、俺も覚悟を決める為にそっとシャロを流し見る。
シャロは、驚いたというよりも知ってましたというしたり顔で、こちらを見ていた。
「王命、謹んでお受けいたします」
「そうか、そうか! はぁ~良かった……」
女王は、いやセレスはそう言うとその場にへたり込みそうなのを、泣きそうなのを我慢して頷いた。
そして、全員の前でニッコリと笑い俺を最上位の椅子に押し上げた。
「あ、あ~、突然の事で何を言って良いのかは分からないが、式が終わるまで彼女が王位にあることを忘れない様に。また、今後信賞必罰で対応することをここに宣言する。全員政務に軍務に励むように」
王国を席巻したエルフの反乱は、ここに終結した。
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