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第四部

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キングスレー軍 オルビス

 後方警戒をしていた部隊からの連絡が着たのは、丁度相手が渡河を開始したころだった。
 突然の報告に私は驚き、すぐさまネクロスたちと協議を始めた。

「全員知っての通り、敵が後方を約5千で脅かしてきた。対して我が軍の後方警戒部隊は千名程度。とてもではないが持たないと私は思うが、どうだ?」
「恐らくオルビス様の言う通りかと。ただ、こちらも見過ごせば大変な事になります。軍を二つに分けるか、あえて後ろの部隊に砦をも囮として持ちこたえさせ、渡河部隊を討ち、急速反転して5千を討ち取るかです」

 私が問うのと同時にネクロスが答えてきた。
 確かにその二択だろう。
 一番やってはいけないのは、全軍で砦に籠ることだ。
 一応籠城ができるくらいの準備はしているが、あくまで最後の手段なのだ。
 早々に出して良い切り札ではない。
 ネクロスが意見した後、特に異論がないのか、誰も意見を言わないので集約をする事にした。

「では軍を分けるか、各個撃破を試みるか、どっちを支持する?」
「私は、各個撃破を」
「私は、軍を分けるべきかと」

 私の問いに、ネクロスとイアンの意見が分かれた。

「では、イアン、何故軍を分けるべきと?」
「それは、後方の兵が少ないからです」
「後方の兵が少ない?」
「はい、前方の兵は数限りなく少なくとも3万はまだ居るでしょう。対して後方の兵は多く見積もっても5千です。我が軍が渡河部隊を撃破するのに1万5千を割いたとしても5千は予備に回ります。ならば、いっそ1万で一気に後方の敵を撃滅し、前方の部隊に注力すべきかと」
「なるほど、ネクロスはどうだ?」

 私がイアンの考えに一考の余地があると考えて、ネクロスに話を振る。
 彼も特に異論がないのか、先ほどの意見を頭の中で反すうして考えていた。

「なるほど、確かにそれならどうにかなるやもしれません。では、後方をイアン殿に。前方を私と侍従とで支えましょう」

 彼がそう言うと、先日イアンと一緒に駆けていた侍従が頷いてきた。
 彼にも特に異論が無いという事だろう。

「では、方針は決した! すぐさま行動に出よ! イアンは最大速度を持って砦へと移動、敵の動向を確認して攻撃を仕掛けろ!」

 命令を発すると、全員が一斉に敬礼をして持ち場へと走って行った。
 そんな中、正面の渡河部隊があと少しという所まで迫っている。
 賭けが間に合うかどうか。



砦後方 イアン

 オルビス殿に任された1万の兵を率いて砦へと戻ると、既に敵が殺到し始めていた。
 恐らく後方警戒の部隊は、ほぼ全滅したのだろう。

「敵が砦に気を取られている間に左右へと回り込むぞ! 途中で敵と出会ったら切り伏せてしまえ!」

 命令を下すのと同時に軍が二つに分かれる。
 私は、左の部隊を率いて敵右翼へと突き進んだ。
 もっとも、右翼というほど整然とした状態ではなく、完全にばらけた状態だったので食い破るのに苦労は要らなかった。

「て、敵が戻ってきたぞ! 右翼に人を集中させろ!」
「さ、左翼からも敵が襲来! 数およそ4千以上!」

 突然砦の左右から大量の兵が出てきた事に、敵は右往左往し始める。
 ただ、5千で後方を襲撃する部隊を任されるだけあって、混乱は一次的に起こったが、すぐさま収束した。

「狼狽えるな! 左右両翼を後方に下げろ! 砦は後でいい! まずは敵の部隊を迎撃するんだ!」

 こちらまで届く声で敵指揮官の声が響き渡る。
 戦場にあって、これだけ響くのは相当な武器と言える。

「あの指揮官、討っておかないと後々怖いな」

 私が、敵の指揮官に狙いを定めるのと同時に駆けだすと、周囲の兵が慌て始める。

「い、イアン様! ちょっとお待ちください! イアン様!」
「ついて来れる者だけついてこい! 狙うは敵大将の首のみ! 進めぇぇぇぇ!」

 そう言って私が馬を駆ると、周囲に居た兵たちが否応なく後に続いた。
 敵は、先ほどまで浮足立っていたのだ。
 ここで建て直す時間など渡してはならない。
 一瞬でも相手に建て直しの時間を与えたら、こちら側の戦場は泥沼にはまってしまう。

「て、敵が突撃をしてきまし……うぎゃ!」
「と、止めろ! 止めろぉ! ……ぎゃあ!」

 私が一人敵陣を突っ走っていると、流石に敵も徐々に組織立って抵抗を始める。
 半包囲された形になった私は、左右と前から突き出される槍を馬上で体を反らして避ける。
 避けざまに右側の兵を数人突き、左の兵に石突を当てる。

「な、なんだこいつは!? 馬上で槍を避けて、そのまま反撃してきやがったぞ!」

 そう言って目の前で叫んでいた兵に次は狙いを絞って、首をかき切って、隣の兵も槍の引き際に同じように首を斬る。

「ひ、一突きで二人!? 嘘だろ!?」

 そう言いながらも、敵兵がこちらの槍が戻るのに合わせて突き出してきたので、柄で受ける。

「奴の手が止まったぞ! 今だ!」

 敵が号令の下、一斉に槍を突き出す。
 私はそれを見て、柄で受けていた穂先を滑らせて逸らし、一斉に突き出してきた槍の穂先だけを綺麗に刈り取る。

「ばばば、バケモンだ! ヒィィィ!」

 一瞬の早業に化物とは失礼な。
 私がそんな事を考えていると、味方がやっと追いついてきたのか、背を見せて逃げようとする兵たちを突きさして行く。

「イアン様! 勝手に出られては困ります! 貴方の身に何かあったら困るのは我が主君なのですから!」
「ディークニクトは、そんな事で目くじらは立てんと思うが?」
「それでもです! もう少し我らと歩調を合わせてください!」

 オルビス殿の所の副官は、遠慮なくものを言ってくる人が多い。
 まぁ、それだけいい状態なのだろう。
 私がそう思いながら周囲を見回していると、恐らく敵の指揮官であろう巨漢の兵がこちらに向かって突き進んでくるのだった。
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