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第四部

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第一王子軍分隊 ワーカー

 戦下手だと聞いていたオルビスと、ごり押しが多いネクロスのコンビという事で正直侮っていた。
 兵数で勝っているので一気に片付くと思ったのだがな。
 私がそんな事を考えていると、副官の一人が天幕へと入ってきた。

「ワーカー様、上流の準備が整いました。いつでも出撃可能です」
「ご苦労、明日までゆっくりと休み早朝に渡河を開始するように通達しろ」

 私がそう言うと、副官はサッと敬礼をして出て行った。
 敵軍の要は恐らく報告のあった砦だろう。
 周囲を堀で囲い、土塁を高く盛った上に柵を作っていると聞く。
 また、四隅に望楼替わりの櫓を建てているのだから、なかなかに慎重だ。

「で、敵の動きはどうだ?」
「はっ! こちらの忍ばせている者からの情報ですと、今のところ動きは無いとのことです」

 敵に動きが無いか。
 逆にそれが何とも言えない不気味さを感じさせる。
 これまでの戦いから、そろそろ何かを仕掛けてくるころだと思うのだが……。
 報告を聞いて考え込んでいると、突然外が騒がしくなり始めた。

「敵襲! 敵襲ぅぅぅぅ!」
「警鐘を鳴らせ! 本営の防備を固めろ!」

 カンカンという警鐘のけたたましい音が響き、辺り一帯が騒然とした。
 ここにきてついに夜襲を仕掛けてきたようだ。

「敵は少数のはずだ! 狼狽えずに整然と行動させろ! 各自本営に向かいながら、十人長を探して集まれ!」

 周囲が混乱する前に、できる限り的確な指示を飛ばす。
 一瞬狼狽えた時間があったが、一瞬でこちらの指示通りに行動が開始された。

「敵がどこから来るか分からん! 全周囲に灯りを灯して警戒を怠るな!」

 ………………。
 …………。
 ……。

 来ない?
 嫌がらせだったのだろうか?
 そんな考えが頭の中を巡り始めるのと同時に、各所で火の手が上がり始めた。

「しまった! 敵の目標は兵糧だ! 急いで消火に当たれ! 各3分隊200名で行動、残りは現状維持だ!」

 私の命令で、また兵たちが慌てて動き出す。
 行軍速度をできるだけ落としたくなかったので、必要最低限しか持っていない。
 というよりも、4万近い大軍を食わせるだけの食料はないのだ。
 どうしても徴発を繰り返すしか方法がない。

「敵軍撤退していきます! 火の勢いはなお強く、とてもではありませんが消火しきれません!」
「すぐさま残りの兵たちも動員して水をかけさせろ! 人海戦術で消火するんだ!」




キングスレー軍 オルビス

 夜襲部隊が、どうやら敵の糧秣に火をつける事に成功したようだ。
 ここでどれだけ敵を削れるかが、勝利の分かれ道となる。

「敵は必ず水を求めて川岸へとやってくる! 来た瞬間矢を射かけろ! 灯りは対岸で用意されているから、鎮火するまで人影目指して放てぇ!」

 私の号令と共に、人影を目指して弓兵たちが射かけ始めた。
 その射撃は徹底して面で行われていた。
 各自の持ち場、狙いを定めた場所へと単調とも言えるほど黙々と矢を射かけるだけだ。

「ぎゃ! て、敵がこっちを狙っているぞ!」
「た、盾を――あがっ!」
「ひ、ひぃぃ! ちくしょう! うごっ!」

 対岸では、こちらから狙われていることが分かったのか、かなり慌てた声が響く。
 敵は、確実にこちらの矢に倒れている。
 だが、いくら火事の光があると言ってもほぼ暗闇の中なので、どれくらいの被害があるかなど分からない。
 人影は倒れているが、それがいつまで続くか。
 そんな事を考えていると、相手も流石に盾を持ちだしたのだろう。
 人影が四角いものになってきた。

「オルビス様、これ以上は効果が無いものと思われますが」

 状況を見てネクロスが進言してくる。
 流石、ここ数か月エルフたちに用兵を師事していただけある。

「確かに、後は盾の後ろに隠れてコソコソと頑張ってもらうか。全軍に通達を、密かに後退せよと」
「かしこまりました」

 私の命令を聞いた兵たちは、静かに物音を立てないように気を付けながら砦へと戻っていった。
 これで、相手は明日必死になって攻めてくるだろう。
 恐らくだが、上流からもこちらに向かってくる可能性がある。
 そう思いながら私は、ネクロスに後事を託して寝所へと入るのだった。
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