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第四部

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 ざっと敵を見渡すと、敵の数はおおよそ2,3千といったところ。
 迂回戦術で崖を上がることを考えるとギリギリの数だろう。
 問題は、こちらよりも多いという事だ。
 こっちは色々頑張って出してきて1千にも満たない数だ。
 対して相手は2倍以上。
 本来なら、撤退を視野に入れなければならない。

「どうするの? ディー」

 少し不安そうにシャロが声をかけてきた。
 確かに、これまで少ない数で相手と戦ってきたが、そこには作戦があった。
 だが、今回は完全な遭遇戦だ。

「どうするも何も、敵を一時的にでも退かせないとこちらが危ないんだが……」

 幸いしているのは、崖の幅がそこまで広くない事とエルフにとっては、足場になる場所が複数ある事。
 要するに戦場としては、こちらが有利なのだ。
 俺が、どうするのが一番被害を少なくできるか考えていると、アーネットが進み出た。

「ディー、ここは俺が引き受けよう。正面に俺を含めて最精鋭を100人ばかり寄越してくれ。後はお前が率いて迂回部隊の後背を急襲してくれ」
「な!? 正気か!? 敵はただでさえ、こちらの2倍以上なんだぞ!」
「そうよ、アーネット! そんなの死と同義じゃない!」

 俺とシャロがそう言うと、アーネットはニヤリと笑ってきた。

「安心しろ。俺は死ぬ気は無い。むしろ誰も死なせないつもりだ」

 こいつ、本当に時々だが頭がおかしいことを平気で言ってきやがる。
 だが、こいつが大言壮語を吐いてダメだったことは今までにない。

「わかった。少しの間だけこっちをよろしく頼む」
「あぁ、なるべく早く敵の後ろから俺の所まできてくれよ」

 俺達は互いに握りこぶしを突き合わせると、それぞれ動き始めた。
 その間、敵はというと。
 着々と迎撃準備を整え、こちらをできる限り包囲殲滅できるように動いていた。

「これより、敵の迎撃を行う! アーネット隊はこの場で敵を引きつけろ! その他の部隊は、俺と一緒に敵中突破を図る!」

 俺が命じると、一斉に「おう!」という掛け声と同時に、風魔法を使って動き始める。
 風魔法には色々な使い方があるが、一番の使い方は移動魔法だ。
 風を足に体に纏って、崖の少ない出っ張りへと跳躍する。
 後は、崖の足場を伝って進むだけだ。

「な! 後方の部隊に通達! 敵エルフが我らの側面を突破して後背に出る! 迎撃せよ!」

 俺達が移動を始めると、敵も意図を掴んだのか大声で叫ぶのが聞こえてきた。
 しかし、伝令が上手く通れるわけがない。
 ただでさえ狭い場所で2、3千人も待機しているのだ。
 どうやっても進み具合は、こちらの方が早い。

「敵の側面をただ突破するだけでは芸がない! 各々、弓を構え、矢を放て!」

 俺が命じると、エルフたちは一斉に崖を走りながら弓を構え、矢を番えて放ち始めた。
 狭い場所で押し合いになっている敵は、こちらが側面から放った矢が届くと、バタバタと倒れ始めた。
 それもそのはずだ、相手は奇襲をする予定だったので登攀用の道具と最低限の剣しか持っておらず、盾が無いのだ。
 盾の無い歩兵なんて、弓矢のかっこうの得物でしかない。

「見ろよ! 奴ら盾を持ってきてないから矢が避けられないぞ!」
「風魔法の補強すら要らねぇな!」

 撃てば得物に当たる。
 これほど楽しい狩りなどない。
 生粋の狩人でもある兵たちは、これでもかと何度も射撃を繰り返していた。

「一か所に集中せず、適度にバラまけよ! こっちの目的は相手を混乱させることだからな!」

 俺もそう言いつつ、敵の指揮官などが居た場合誰かと得物が被っても矢を放っていた。
 この辺りは、エルフの血がどうしても騒ぐというものだ。

「さぁ! 敵を殲滅するぞ!」




桟道出口 カレド

 敵との攻防が続く中、準備を万端整えていたこちらが多少有利に進めていた。
 最も、敵もそう簡単にあきらめるということをしない。

「第三波来ました!」
「盾兵迎撃を! 弓隊は敵を少しでも減らして!」

 できるだけ的確に命令するが、三度目ともなると敵もこちらの攻略法を考えてくる。
 盾でがっちりとスクラムを組んだ密集隊形で突撃してくるのだ。
 おかげで矢が通らない。
 以前はエルフの弓兵が居たからどうにかなったと聞いている。
 だが、今回はほぼ全エルフを奇襲部隊に回しているので、前回と同じ戦法は使えない。
 というか、相手もこちらを研究しており、全身を鉄の鎧で覆っている。
 そのおかげで、こちらの矢がほとんど通っていないのだ。

「敵が近づいてきたら、盾兵は少し下がって! 槍兵は敵の足元をすくってください!」

 私の命令と同時に、盾兵が一斉に歩調を合わせて下がり始める。
 その瞬間、敵が密集隊形を解いて何かが走りこんできた。

「な、あれは!? 破城槌!?」

 そう、敵は密集隊形で破城槌を隠していたのだ。
 一瞬反応が遅れた盾兵は、真正面から破城槌を受けて吹き飛んだ。

「ま、まずい! 残りの盾兵は至急穴を埋めて! 弓兵隊援護を!」

 私がそう叫ぶのと同時に、敵が目の前に迫ってきていた。
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