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第三部
3-20
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連絡通路 カレド
戦闘艦から上陸してきた部隊は、自分たちの船が焼けたのを見て一気に戦意を失っていた。
ただ、だからと言って降伏するわけでもなく、我々の目の前で自棄になって暴れまわるだけだった。
「敵の士気は低い! 今のうちに可能な限り敵を排除します!」
命令を下すと、それまで守備に徹していた兵たちが鬱憤を晴らすように暴れ始めた。
特に船を壊そうと目論んでいた敵は、念入りに殺されたのだ。
「「船を守れ! 敵を屠れ!」」
全員がそう叫びながら敵へと向かっていく様は、まるで何かの宗教戦士のようだ。
まぁ、この街で船は何物にも代えがたい大事な財産だ。
それを使い物にされなくなるのを防御に徹していたとはいえ、目の前でちょっかいを出されていた事を考えると、当然だろう。
「カレド、状況はどうなった?」
考え事をしながら兵たちを眺めていると、後ろからディーが話しかけてきた。
船を油壷で火攻めにしたので、手早く済ませる事ができたのだろう。
「ディー、状況は至ってこちらが有利です。ご覧の通り、貴方が船を焼いてくれたおかげで敵の士気は一気に落ちました。そろそろ降伏勧告を出してもいい頃だと思います」
「それじゃ、そっちはカレドに任せる。俺はあっちの船をどうにかしないといけないからな。せめて邪魔にならない所で沈んでもらう予定だ」
ディーはまた何か始める予定ですね。
まぁ、彼のする事で驚かない事なんて早々ないですが、楽しみでもあります。
「では、こちらはそろそろ降伏勧告を出しておきます。最もこちらの兵が納得するか分かりませんけど」
「流石に頭に血が上っているか。まぁ何か不平があってはダメだから、敵を制圧し終えたら、こちらから船には補助金出すとでも言っといてくれ。金額はまた財政と相談だが」
「そんな事勝手に約束して良いですか? クリスティーさんに怒られますよ」
私が笑いながらそう言うと、ディーは頭をかきながら「まぁなんとか説得するよ」と力なく言いながらこの場を去っていった。
彼が去って少しした頃、動いている敵も少なくなってきたので、降伏勧告を出すことにした。
もっとも、2千近く居た敵兵は既に半数近くが死亡か海に身を投げ出して泳いで逃げており、投降したのは千にも満たない。
「さて、ディーの方はどうやってあの沈没間近の船を移動させるんでしょう」
ベルナンド港 ディークニクト
カレドの元を離れて、俺は敵の船の近くにやってきた。
既に船の中はもぬけの殻となっており、後は沈没を待つのみだった。
もちろん、船は未だに燃え盛っている。
「敵は全員逃げたんだな?」
俺が船を見張っていた兵に尋ねると、「間違いないです」と頷いてきた。
ならば、俺がやるべき方法は二つだ。
一つは船の消火だ。
流石に俺でも燃え盛る炎の中に突っ込んでは、無事では済まない。
もう一つは方向転換だ。
これは風魔法で無理矢理向きを変える予定だ。
まず俺は、消火に取り掛かった。
流石に油を撒いて火をつけただけあって、よく燃えている。
船からだいぶ離れているはずだが、若干熱いくらいだ。
「まずは、消火をする。水魔法が使える者は一斉に船に向かって放て、その後鎮火したら風魔法が使える者は俺とともに乗船せよ」
俺が指示を出すと、水魔法が使える者が前に出た。
「狙いは甲板とマストだ、一斉に放て!」
号令とともに一斉に船を目掛けて水魔法が放たれる。
本来一人であれば昔の放水機くらいの勢いだが、数人が集まればかなりの水量で、一気に船は水浸しになった。
火が一旦消えたのを確認した俺は、次の指示を出す。
「次は風魔法が使える者は俺に続け! 最初は左側面に集まって放つぞ!」
俺がそう言って船に向かって飛び込むのを合図に、後ろから数名の兵が続いた。
多少高い(100メートル近い断崖から飛び降りている)が、着地時に風魔法を使って無事着地する。
すぐさま船の左端に着くと、一斉に風魔法の用意を始めた。
「全員一斉にエアバレットを放つぞ、タイミングを合わせる。3、2、1、放て!」
合図とともに、風の初級魔法であるエアバレットが噴射される。
一人ならこの魔法も人をよろけさせる程度の魔法だが、人数が集まれば船の向きを一気に90度変えるくらいの力はある。
「よし! 船首が出口を向いた! 次は船尾でエアバレットを撃つ! その後灯台のところまで泳げ!」
俺がそう指示すると、全員が船尾に移動し合図とともにエアバレットを放った。
先ほどと違い、今度は船が急加速して港を出て行く。
あまり乗り過ぎていると、岸から離れすぎてしまうので、魔法を放つのと同時に全員が船を飛び降りた。
それを確認した俺は、飛び降りざまに船の船尾に向けて最大級の風魔法を放つ。
放った風魔法は、船尾と舵を破壊した。
これで、後は沈没を待つだけだ。
ちなみに、山育ちのエルフは基本的に泳げない。
彼らが岸にどうやって向かうかと言うと、風魔法で水面ギリギリを走って移動するのだ。
着水と同時に風魔法で体を浮かせて前に出て、また着水ギリギリで風魔法を放つ。
これを繰り返してあたかも水面を走っているように見せながら、移動する。
そんな何とも信じられない光景を数人で繰り広げながら、俺達は護岸に到着した。
後は、沖合に停泊している敵がどう出るかだ。
戦闘艦から上陸してきた部隊は、自分たちの船が焼けたのを見て一気に戦意を失っていた。
ただ、だからと言って降伏するわけでもなく、我々の目の前で自棄になって暴れまわるだけだった。
「敵の士気は低い! 今のうちに可能な限り敵を排除します!」
命令を下すと、それまで守備に徹していた兵たちが鬱憤を晴らすように暴れ始めた。
特に船を壊そうと目論んでいた敵は、念入りに殺されたのだ。
「「船を守れ! 敵を屠れ!」」
全員がそう叫びながら敵へと向かっていく様は、まるで何かの宗教戦士のようだ。
まぁ、この街で船は何物にも代えがたい大事な財産だ。
それを使い物にされなくなるのを防御に徹していたとはいえ、目の前でちょっかいを出されていた事を考えると、当然だろう。
「カレド、状況はどうなった?」
考え事をしながら兵たちを眺めていると、後ろからディーが話しかけてきた。
船を油壷で火攻めにしたので、手早く済ませる事ができたのだろう。
「ディー、状況は至ってこちらが有利です。ご覧の通り、貴方が船を焼いてくれたおかげで敵の士気は一気に落ちました。そろそろ降伏勧告を出してもいい頃だと思います」
「それじゃ、そっちはカレドに任せる。俺はあっちの船をどうにかしないといけないからな。せめて邪魔にならない所で沈んでもらう予定だ」
ディーはまた何か始める予定ですね。
まぁ、彼のする事で驚かない事なんて早々ないですが、楽しみでもあります。
「では、こちらはそろそろ降伏勧告を出しておきます。最もこちらの兵が納得するか分かりませんけど」
「流石に頭に血が上っているか。まぁ何か不平があってはダメだから、敵を制圧し終えたら、こちらから船には補助金出すとでも言っといてくれ。金額はまた財政と相談だが」
「そんな事勝手に約束して良いですか? クリスティーさんに怒られますよ」
私が笑いながらそう言うと、ディーは頭をかきながら「まぁなんとか説得するよ」と力なく言いながらこの場を去っていった。
彼が去って少しした頃、動いている敵も少なくなってきたので、降伏勧告を出すことにした。
もっとも、2千近く居た敵兵は既に半数近くが死亡か海に身を投げ出して泳いで逃げており、投降したのは千にも満たない。
「さて、ディーの方はどうやってあの沈没間近の船を移動させるんでしょう」
ベルナンド港 ディークニクト
カレドの元を離れて、俺は敵の船の近くにやってきた。
既に船の中はもぬけの殻となっており、後は沈没を待つのみだった。
もちろん、船は未だに燃え盛っている。
「敵は全員逃げたんだな?」
俺が船を見張っていた兵に尋ねると、「間違いないです」と頷いてきた。
ならば、俺がやるべき方法は二つだ。
一つは船の消火だ。
流石に俺でも燃え盛る炎の中に突っ込んでは、無事では済まない。
もう一つは方向転換だ。
これは風魔法で無理矢理向きを変える予定だ。
まず俺は、消火に取り掛かった。
流石に油を撒いて火をつけただけあって、よく燃えている。
船からだいぶ離れているはずだが、若干熱いくらいだ。
「まずは、消火をする。水魔法が使える者は一斉に船に向かって放て、その後鎮火したら風魔法が使える者は俺とともに乗船せよ」
俺が指示を出すと、水魔法が使える者が前に出た。
「狙いは甲板とマストだ、一斉に放て!」
号令とともに一斉に船を目掛けて水魔法が放たれる。
本来一人であれば昔の放水機くらいの勢いだが、数人が集まればかなりの水量で、一気に船は水浸しになった。
火が一旦消えたのを確認した俺は、次の指示を出す。
「次は風魔法が使える者は俺に続け! 最初は左側面に集まって放つぞ!」
俺がそう言って船に向かって飛び込むのを合図に、後ろから数名の兵が続いた。
多少高い(100メートル近い断崖から飛び降りている)が、着地時に風魔法を使って無事着地する。
すぐさま船の左端に着くと、一斉に風魔法の用意を始めた。
「全員一斉にエアバレットを放つぞ、タイミングを合わせる。3、2、1、放て!」
合図とともに、風の初級魔法であるエアバレットが噴射される。
一人ならこの魔法も人をよろけさせる程度の魔法だが、人数が集まれば船の向きを一気に90度変えるくらいの力はある。
「よし! 船首が出口を向いた! 次は船尾でエアバレットを撃つ! その後灯台のところまで泳げ!」
俺がそう指示すると、全員が船尾に移動し合図とともにエアバレットを放った。
先ほどと違い、今度は船が急加速して港を出て行く。
あまり乗り過ぎていると、岸から離れすぎてしまうので、魔法を放つのと同時に全員が船を飛び降りた。
それを確認した俺は、飛び降りざまに船の船尾に向けて最大級の風魔法を放つ。
放った風魔法は、船尾と舵を破壊した。
これで、後は沈没を待つだけだ。
ちなみに、山育ちのエルフは基本的に泳げない。
彼らが岸にどうやって向かうかと言うと、風魔法で水面ギリギリを走って移動するのだ。
着水と同時に風魔法で体を浮かせて前に出て、また着水ギリギリで風魔法を放つ。
これを繰り返してあたかも水面を走っているように見せながら、移動する。
そんな何とも信じられない光景を数人で繰り広げながら、俺達は護岸に到着した。
後は、沖合に停泊している敵がどう出るかだ。
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