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第二部

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キングスレー ディークニクト

 賊の侵入を許しはしたが、何とか撃退できた。
 ただ、本当なら全員を拘束して依頼人を吐かせる予定だったのだが、捕まえられたのは一人だけ。
 それもかなり強情なようで、上半身の服をはぎ取って、椅子に手足を全て縛り付けている。
 
「……いい加減観念してくれないか?」

 俺が、もう何度目か分からない同じセリフを吐く。
 恐らく依頼人の目星は付いているのだが、こいつからの証言が無いと処罰できない。
 それに、恐らくまだ奴の仲間は上に居る。
 先ほどから、何人かの気配がちょろちょろと動き回っているのを感じている。

「……さっさと殺せ」

 そして、この狐人族の男はさっきからこの言葉しか言わない。
 ただ、殺せと言う割には舌を噛んで自殺するという気は無いらしい。
 それもあって、安心して尋問しているのだが。

「だから、俺はお前たちを殺す気は無いって言ってるだろ? 殺す気なら最初から木刀なんて使うかよ」

 俺が今回使った得物は、自分で削りだした木刀だ。
 若干刃の部分が曲がらず、直刀の様な形をしているので、木剣と見間違えられる。
 しかし、どうしたものかな。
 恐らくこいつを一人にした時点で、仲間が助けるだろう。
 せっかく奴を追い込む鍵を手に入れたのだ。
 しっかりと活用したいものだ。
 俺がそんな事を考えていると、後ろからビクビクしながら声をかけてくる奴が居た。
 次期内務官長のケリーだ。

「あ、あの……こちらで彼を雇うというのは、無理なのでしょうか?」
「雇う? ……なるほど、確かにそれは考えても居なかったな。どうなんだ?」

 ケリーの話に納得した俺は、縛られている奴に尋ねる。
 すると、奴は若干渋りながらも首を縦に振った。

「ふむ、可能なんだな。よしあの女頭領に話をつけるか。居るんだろ!? 賊の女頭領!」

 天井に向けて声をかけると、若干の間を置いて賊の頭領が現れた。
 必死に動揺を隠そうとしているが、まぁあれだ、根が正直なのだろう。
 目が動揺している。

「やはり居たか。さて、商売の話をしよう。依頼主からはどれくらいで雇われている?」
「……それは密約なので言えない」
「では、そちらの言い値で構わん。お前ら全員俺の傘下に来い」
「い、言い値!? 失敗したと言っても我々は高いぞ? それを言い値などと言って良いのか?」
「構わん!」

 俺がそう断言すると、女頭領は明らかに動揺していた。
 多分、これまでも色々とあったのだろう。
 警戒半分、喜び半分といったところかな?

「で、では、言い値を前金でと言っても可能なのか?」
「すぐに準備できる金額なら用意しよう。難しいようなら最初に半額、用意した段階で残り全額を渡す」

 そう言い切ると、黙って考え込み始めた。
 色々条件があるのだろう。
 まぁ、相手に好き放題させないために釘もさしておこう。

「ただし、満足できる働きはしてもらうぞ?」
「あ、当たり前だ! 私は誇りある狐人族の族長だ! あの豚……」

 彼女が思わず自分の依頼人の情報を口走った。
 それと同時に、拘束されている男がやってしまったとばかりに頭を振った。

「まぁだいたいの察しは付いていたが、依頼者が特定できそうだな。では金額を決めておいてくれ。あと、拘束している男の装備は持ってこさせるから待ってろ」

 俺がそう言って出て行くと、他の仲間全員が下りてくる気配がするのだった。


キングスレー エイラ

「族長、どうする気ですか?」
「ここで裏切ったら、我らは裏の世界で生きていけなくなりますよ」

 そう言って、一族の奴らが心配そうにこちらを見てくる。
 そんな事は百も承知なのだが、今は言わせてやらねばならない。
 ただ、そんな事を考えるより前に、ビリーの縄を解いてやらないといけない。
 手持ちのナイフで縄を切り落とすと、自由になったビリーが私に向かって膝まづいてきた。

「族長、私の不手際のせいで、お手を煩わせ申し訳ないです」
「不手際? 何を言う。相手が化物では不手際も何も無い」

 そう、奴は化物だ。
 あれだけ鍛錬しているのに、我らを雇う理由が分からない。
 ただ単に、今回の依頼者を追い詰めたいが為なのだろうか?

「奴は、お前に何か言っていたか?」

 私が、ビリーにそう尋ねると、彼は首を振った。
 
「いえ、私に言ったのは、依頼主の事について言えとしか言っておりませんでした。聞きたい事がある割には、拷問器具などを使わず、椅子に縛り上げるくらいで……」
「狐人族だという事も気にせずか?」
「はい。全くと言っていいほど気にしていないようでした。普通なら暗殺を生業とする我らを嫌うのですが……」
「甘いのか、無知なのか、それとも絶対的な自信があるのか」

 私が言い継いでやると、彼は頷いた。
 確かに、絶対的強者の立場にしては甘いやつだ。

「さて、皆の者。奴からの依頼だがどうする? 私としては、あの豚よりも遥かに仕えるに値する雇い主だと思うが」
「族長の言う通りだと、私は思います。絶対的な強者こそ仕えるに値する人物。なれど我らの役割がよく分からなくなるのです」
「確かにな。あの御仁に暗殺など不要だろうに……。考えても埒があかん! どうせお前の服や装備を返しに来てくれるのだ。その時取り次いでもらおう」

 私がそう言い切ると、皆納得したのか頷いているのだった。
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