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第一部
1-9
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子爵領ロンドマリー ディークニクト
子爵領で開催した土地の競売は、予想以上の盛況だった。
何せ、領内の税収――年間約白金1枚――を軽く超える白金100枚という数字を記録したのだ。
そんな競売も終えた俺と子爵は、領内にある官邸で休みながら競りの感想を話していた。
「まさかここまで上手くいくとはな……。若干あとが怖いな」
俺がそう笑いながら言うと、子爵は真面目くさった顔で今後の事を訪ねてくる。
「確かに、商人たちの鬼気迫る競りの様子は恐ろしかったです。しかし、この白金も100枚ありますが、壁の増築だとすぐに消えるかと思うのですが?」
「まぁ、確かにこのまま俺達で事業を勧めればそうなるだろうな」
俺が意味ありげにそう言うと、子爵が興味を持ったのか続きを促してきた。
「もう次の手が?」
「そりゃ、次々と手を考えるのが私の仕事だからな。ってお前も領主だったんだから考えていただろ?」
俺がそう言うと、クローリーは目線を外してきた。
同席していたウォルの方を俺が見ると、ウォルも目線を外してきた。
まったく、こんな領主で良く持っていたな。
「ところで、次の手とはどういったもので?」
「あぁ、次は工事費用を安くするために商人から材料を集める予定だ。ただし、安く仕入れられると言ってきたところから仕入れる予定だ」
「安くってそれをどうやって確認するんですか? 質の悪いものを持ってこられたらどうしようにもなりませんよ?」
「確かにその不安はある。けど、そうならない為に、石なら石工をこちらで雇い、木材なら木材加工を生業としている職人を雇って質の確認をさせればいい」
これは、二次検査という奴だ。
こちらで職人を雇えば、『こちらに不利な事を言わない』なんてことも防げる。
もちろん買収される可能性は考えて、買収の証拠が挙がった瞬間に問答無用で逮捕することを言い含めなければならない。
「なるほど。確かにそれなら材料は安く手に入りますな。で、安くした者をどうやって特定するのです?」
「それなんだが、色々考えた結果。商人を集めてその場ですぐに説明して値札を書かせるのが一番だと思うんだよ」
「今回は相談時間を設けない、という事ですか?」
「そういうことだな。相談の時間というよりも商人同士で価格の相談をさせないというのもある」
俺が心配したのは、いわゆる談合というやつだ。
この手の問題は、昔からついて回っている。
特に示し合わせてもいないのに、価格の釣り上げや釣り下げをする奴らも居るくらいだ。
恐らく時間経過と共にそう言う事がはびこってくるだろうが、今はそんな事を気にしていられない。
「ではすぐにでも手配を?」
「そうだな。後は……」
俺達が今後の事について相談していると、執務室の外が突然騒がしくなった。
「良いから通しなさい! 私を誰だと思ってるの?」
「いえ、そう言われましても、困ります。面会の予定の無い方が急に来られても……」
「貴方、私に何度言わせるの? 私はこの国の王女ですのよ? 王族以上に優先されるものがあるというの?」
「ですから、そういう問題では……」
聞こえる限りかなり面倒そうなのが来たのが分かった俺は、ウォルに商人達への手配を依頼して扉を開けさせた。
ウォルが開けるのと同時に、小柄な身長のまだ少女と言うべき年齢くらいの子どもが入ってきた。
彼女は部屋に入るのと同時に、俺の頭を見て驚愕の表情を見せた。
「な、ま、魔人!? この子爵領はエルフじゃなくて魔人に支配されたというの!?」
「誰が魔人だ! 商人でももっとマシな反応したぞ!」
突然魔人と言われ、色々と巡らせていた考えを全て吹き飛ばされてしまった。
いかん、ペースを乱されてはいかんぞ。ディークニクト。
俺は自分にそう言い聞かせると、少し咳ばらいをしてから少女の方を見た。
腰まで伸びた豪奢な金髪と、それに負けないくっきりとした目鼻。
後3~4年くらいしたら『絶世の』と冠に付く美女になるだろう。
そして、彼女の後ろにはウォルと同じくらいの60~70くらいの老紳士が侍っていた。
身のこなしは年齢を感じさせず、足運びからも相当の武人だと見受けられる。
「姫様、流石に一言目で『魔人』は失礼すぎますぞ。それに、あの尖った耳をご覧ください。エルフに間違いありません」
「うっ……、も、申し訳なかったわね」
「……いえ、お気になさらず。それで本日はどういったご用件で?」
俺が改めて用件を聞くと、王女と呼ばれた少女は、今度は俺に向かって指を指して名乗ってきた。
「貴方がエルフの長ね? 我が名はセレス・エルドール! エルドール王国の第三王女よ!」
「セ、セレス王女殿下!? こ、これは失礼を!」
彼女の名前を聞いた途端、俺の隣でクローリーが膝をついて最敬礼をしていた。
俺はというと、特段何もせず椅子に座ったまま彼女の方を見ていた。
「な、なんで貴方は膝をつかないのよ! 私が名乗ったら皆膝をつくのに!」
「それは王国の国民だからだろ? 俺はエルフなんだ。君に膝をつく謂れは無い」
「うっ……。た、確かにそうね。けど私は王族なのよ? 礼儀くらい……」
「それを言ったら俺はエルフを束ねるものだ」
俺がきっぱりと言うと、王女の隣に控えていた老執事が腰の剣に手をかけた。
それを察した俺と部屋に居たウォルが構える。
一触即発。
まさにそんな状態だった。
だが、この状態は王女の一言ですぐに終わった。
「キール、やめなさい。私も無礼だったわ。エルフの長……えっと……?」
何ともしまらないが、彼女のその一言でキールと言われた老執事は構えを解いた。
他する俺とウォルもゆっくりと構えを解き、しどろもどろになっている王女に詫びと挨拶を返す。
「こちらこそ失礼しました。俺の名はディークニクト。エルフの里の長をしております」
「ディークニクトね」
そう言って彼女が手を差し出してきたので、俺も席を立って彼女と握手した。
ただ、握手中ずっとキールが殺気を飛ばしてきているのが気になる。
「ところで王女殿下。本日はどのようなご用件で?」
「あ、そうだったわ。子爵の件でお話を伺いに来たのでしたわ」
「子爵の件で、ですか?」
俺が問い返すと、彼女はニッコリと笑いながら俺の姿を興味深そうに見てきた。
「貴方がね~。長っていうからもっとお爺さんとかおじさんを想像してたわ」
「王女殿下はエルフを見るのが初めてですか?」
「えぇ、王都ではエルフを見たことが無いですから」
「そうですか、これでも私は116歳なんですよ」
俺が年齢を言った瞬間、彼女は眼を見開いた。
まぁそりゃ目の前の二十歳前くらいの男が116歳とか言ったら驚くよな。
「え、エルフは冗談が上手いのね。流石にそれは嘘でしょ?」
「まさか、エルフは長寿の種族ですから、嘘偽りなく116歳ですよ」
「……私よりも100も上なんて」
え? この子成人してたの!?
どっからどう見ても見た目が……。
何せ身長がまず小さいのだ。
恐らく150㎝無いくらいで、幼児体型で……。
俺がそんな事を考えていると、王女は何かを察したのか、むっとした表情で俺の方を見ていた。
「今明らかに、『この人16歳なの? 嘘?』って思っていたわね?」
「え、あ、いえその……」
流石に俺も図星を突かれて何も言えなくなっていると、先ほどまでの怒ったような顔から急にニヤリと口元をゆがめた。
「まぁ、この無礼はさっきの無礼もあるから許してあげましょう」
そう言うと、彼女は更に悪戯っぽく笑いながら俺の方を見てきた。
「それじゃしばらく私、ここに泊まらせて頂くわ。あ、心配しないでお兄様達には、私が逗留しているから攻めない様に手紙を書いてあげるから。じゃ誰か部屋に案内してね」
「え? ちょ、ちょっと、本気ですか!?」
「もちろん! あ、子爵は後で何故攻めたのか理由をしっかりと私まで報告しに来てね?」
「ひっ! か、かしこまりました!」
とんでもない嵐の様な姫様が来てしまった。
さてはて、どうなることやら……。
子爵領で開催した土地の競売は、予想以上の盛況だった。
何せ、領内の税収――年間約白金1枚――を軽く超える白金100枚という数字を記録したのだ。
そんな競売も終えた俺と子爵は、領内にある官邸で休みながら競りの感想を話していた。
「まさかここまで上手くいくとはな……。若干あとが怖いな」
俺がそう笑いながら言うと、子爵は真面目くさった顔で今後の事を訪ねてくる。
「確かに、商人たちの鬼気迫る競りの様子は恐ろしかったです。しかし、この白金も100枚ありますが、壁の増築だとすぐに消えるかと思うのですが?」
「まぁ、確かにこのまま俺達で事業を勧めればそうなるだろうな」
俺が意味ありげにそう言うと、子爵が興味を持ったのか続きを促してきた。
「もう次の手が?」
「そりゃ、次々と手を考えるのが私の仕事だからな。ってお前も領主だったんだから考えていただろ?」
俺がそう言うと、クローリーは目線を外してきた。
同席していたウォルの方を俺が見ると、ウォルも目線を外してきた。
まったく、こんな領主で良く持っていたな。
「ところで、次の手とはどういったもので?」
「あぁ、次は工事費用を安くするために商人から材料を集める予定だ。ただし、安く仕入れられると言ってきたところから仕入れる予定だ」
「安くってそれをどうやって確認するんですか? 質の悪いものを持ってこられたらどうしようにもなりませんよ?」
「確かにその不安はある。けど、そうならない為に、石なら石工をこちらで雇い、木材なら木材加工を生業としている職人を雇って質の確認をさせればいい」
これは、二次検査という奴だ。
こちらで職人を雇えば、『こちらに不利な事を言わない』なんてことも防げる。
もちろん買収される可能性は考えて、買収の証拠が挙がった瞬間に問答無用で逮捕することを言い含めなければならない。
「なるほど。確かにそれなら材料は安く手に入りますな。で、安くした者をどうやって特定するのです?」
「それなんだが、色々考えた結果。商人を集めてその場ですぐに説明して値札を書かせるのが一番だと思うんだよ」
「今回は相談時間を設けない、という事ですか?」
「そういうことだな。相談の時間というよりも商人同士で価格の相談をさせないというのもある」
俺が心配したのは、いわゆる談合というやつだ。
この手の問題は、昔からついて回っている。
特に示し合わせてもいないのに、価格の釣り上げや釣り下げをする奴らも居るくらいだ。
恐らく時間経過と共にそう言う事がはびこってくるだろうが、今はそんな事を気にしていられない。
「ではすぐにでも手配を?」
「そうだな。後は……」
俺達が今後の事について相談していると、執務室の外が突然騒がしくなった。
「良いから通しなさい! 私を誰だと思ってるの?」
「いえ、そう言われましても、困ります。面会の予定の無い方が急に来られても……」
「貴方、私に何度言わせるの? 私はこの国の王女ですのよ? 王族以上に優先されるものがあるというの?」
「ですから、そういう問題では……」
聞こえる限りかなり面倒そうなのが来たのが分かった俺は、ウォルに商人達への手配を依頼して扉を開けさせた。
ウォルが開けるのと同時に、小柄な身長のまだ少女と言うべき年齢くらいの子どもが入ってきた。
彼女は部屋に入るのと同時に、俺の頭を見て驚愕の表情を見せた。
「な、ま、魔人!? この子爵領はエルフじゃなくて魔人に支配されたというの!?」
「誰が魔人だ! 商人でももっとマシな反応したぞ!」
突然魔人と言われ、色々と巡らせていた考えを全て吹き飛ばされてしまった。
いかん、ペースを乱されてはいかんぞ。ディークニクト。
俺は自分にそう言い聞かせると、少し咳ばらいをしてから少女の方を見た。
腰まで伸びた豪奢な金髪と、それに負けないくっきりとした目鼻。
後3~4年くらいしたら『絶世の』と冠に付く美女になるだろう。
そして、彼女の後ろにはウォルと同じくらいの60~70くらいの老紳士が侍っていた。
身のこなしは年齢を感じさせず、足運びからも相当の武人だと見受けられる。
「姫様、流石に一言目で『魔人』は失礼すぎますぞ。それに、あの尖った耳をご覧ください。エルフに間違いありません」
「うっ……、も、申し訳なかったわね」
「……いえ、お気になさらず。それで本日はどういったご用件で?」
俺が改めて用件を聞くと、王女と呼ばれた少女は、今度は俺に向かって指を指して名乗ってきた。
「貴方がエルフの長ね? 我が名はセレス・エルドール! エルドール王国の第三王女よ!」
「セ、セレス王女殿下!? こ、これは失礼を!」
彼女の名前を聞いた途端、俺の隣でクローリーが膝をついて最敬礼をしていた。
俺はというと、特段何もせず椅子に座ったまま彼女の方を見ていた。
「な、なんで貴方は膝をつかないのよ! 私が名乗ったら皆膝をつくのに!」
「それは王国の国民だからだろ? 俺はエルフなんだ。君に膝をつく謂れは無い」
「うっ……。た、確かにそうね。けど私は王族なのよ? 礼儀くらい……」
「それを言ったら俺はエルフを束ねるものだ」
俺がきっぱりと言うと、王女の隣に控えていた老執事が腰の剣に手をかけた。
それを察した俺と部屋に居たウォルが構える。
一触即発。
まさにそんな状態だった。
だが、この状態は王女の一言ですぐに終わった。
「キール、やめなさい。私も無礼だったわ。エルフの長……えっと……?」
何ともしまらないが、彼女のその一言でキールと言われた老執事は構えを解いた。
他する俺とウォルもゆっくりと構えを解き、しどろもどろになっている王女に詫びと挨拶を返す。
「こちらこそ失礼しました。俺の名はディークニクト。エルフの里の長をしております」
「ディークニクトね」
そう言って彼女が手を差し出してきたので、俺も席を立って彼女と握手した。
ただ、握手中ずっとキールが殺気を飛ばしてきているのが気になる。
「ところで王女殿下。本日はどのようなご用件で?」
「あ、そうだったわ。子爵の件でお話を伺いに来たのでしたわ」
「子爵の件で、ですか?」
俺が問い返すと、彼女はニッコリと笑いながら俺の姿を興味深そうに見てきた。
「貴方がね~。長っていうからもっとお爺さんとかおじさんを想像してたわ」
「王女殿下はエルフを見るのが初めてですか?」
「えぇ、王都ではエルフを見たことが無いですから」
「そうですか、これでも私は116歳なんですよ」
俺が年齢を言った瞬間、彼女は眼を見開いた。
まぁそりゃ目の前の二十歳前くらいの男が116歳とか言ったら驚くよな。
「え、エルフは冗談が上手いのね。流石にそれは嘘でしょ?」
「まさか、エルフは長寿の種族ですから、嘘偽りなく116歳ですよ」
「……私よりも100も上なんて」
え? この子成人してたの!?
どっからどう見ても見た目が……。
何せ身長がまず小さいのだ。
恐らく150㎝無いくらいで、幼児体型で……。
俺がそんな事を考えていると、王女は何かを察したのか、むっとした表情で俺の方を見ていた。
「今明らかに、『この人16歳なの? 嘘?』って思っていたわね?」
「え、あ、いえその……」
流石に俺も図星を突かれて何も言えなくなっていると、先ほどまでの怒ったような顔から急にニヤリと口元をゆがめた。
「まぁ、この無礼はさっきの無礼もあるから許してあげましょう」
そう言うと、彼女は更に悪戯っぽく笑いながら俺の方を見てきた。
「それじゃしばらく私、ここに泊まらせて頂くわ。あ、心配しないでお兄様達には、私が逗留しているから攻めない様に手紙を書いてあげるから。じゃ誰か部屋に案内してね」
「え? ちょ、ちょっと、本気ですか!?」
「もちろん! あ、子爵は後で何故攻めたのか理由をしっかりと私まで報告しに来てね?」
「ひっ! か、かしこまりました!」
とんでもない嵐の様な姫様が来てしまった。
さてはて、どうなることやら……。
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