赤紙を持って死んだ

香衛

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二十五.故郷②

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 私は歩いて行けば、その場所に着くと、勝手に想像をしていた、今、喫茶店は家と同じように空襲で壊れ、無くなっている

「復旧するお金が無いのだと思うわ、私達しか、歩いていないから」

 私と麻美は、崩れて焼かれた自分の家の前に座った

「今、どう感じているの?」

「……私は、腹が減ったら何も考えれないのだと、思った」

「……これは、あなたの家でしょう」

「……そうだ、この壊れ方は、あの時の物だ」

 私は後ろにある自分の家の木を少し移動させた

「花瓶が割れている、これは、母の物だったと思う」

「それを見て、あなたは怒りが沸く?」

「……いや、沸かない、もう、あの時見た爆撃機が遠い存在になって、乗っていた操縦者も、死んだのではないかと、無意識に思っている」

「……無意識に思った、というのは、どういう事?」

「私は、目の前の感情や、出来事に対して考えず思った生物としての本能的な感情を、無意識と呼んだ、考えれば操縦者が生きている事等、可能性が高いと判断できても、その無意識にに支配される」

 麻美の質問で、あの場所の様な会話になっている事に気が付く

「支配されるから、死ぬ事が出来ないの?」

「……そうだ、行動より、感情を変える方が難しいが、死ぬという行動は、人間の理性の限界なのかもしれない」

「……私はあなたの感情が、分からないの」

「そうか……」

「……あなたは、無意識に死のうと思わないのね」

「……私が、無意識に生きる道を探しているからだ、後ろに爆撃機が見えた時、無意識に生きる事を諦めていた、だから死のうとした」

 麻美は、それを楽しそうな話ではなく、何も思わず、聞いている様だ

「もし、戦争が終わったら、何をするの?」

「その戦争は、勝ったのか?」

「勝った、としたら?」

 私は、その未来を浮かべて、自分の感情を想像した

「……私が兵士になったら、この手で自分が広げた世界だと思い、領土に踏み込めば吐き気がするだろう」

「幸せには、なれると思う?」

「前にも言った、なれると……思っている、勝てれば、それでも、日本が争い続けるなら、不幸かもしれない」

「……負けたら?」

「私は、不幸になる、それは、国民の全てだと思う」

「あなたが意識して、不幸になれないと思っているのは、日本が負けると思っているから?」

「……自分の無意識の感情が、完全に分かるわけでは無いが、そうだと思っている、空襲を受け続ける事は、良い事ではない、新聞も、全て戦わせるという為の嘘に聞こえる」

「聞こえるのは、無意識でしょう?」

「そうだ、負けるというのは、俺の、無意識かもしれない」

「だから、兵士になろうとするのを嫌がっているの?」

「それは、違う、私は、戦争に対しての怒りを無意識に持っているからだ」

 私達以外誰も居ない道で、冷たい風が吹いた

「……私達は、不幸な時代に生まれたと思う」

「仕方の無い事だとは、思う」

「?」

「いつもしている、争いを、人間が武器を持ってから、それが生きる道の様に」

「いつも、なの?」

「……そうだと思っている、私は国の話はしていない、欲が増えた結果起きるのが、暴力や暴言による物だ、あの刑事も、私に吐き出させる為に、最後は私を殴り椅子を投げた」

「……」

「それが、良い事とも思わない、悪い事とも思わない、殴りその拳の感触が不快な者もいれば、傷付けて奪っても何も思わない者もいる」

「何も思わない者が、争いを起こすと言いたいの?」

「私は、そう考えていた、だが人の共感をして、苦しみ、喜ぶ事を多くしている者は、戦争に行く、自分の家族や友人の笑顔の為に、行動しているからだ、だが、それが出来ない、私が弱いから」

「……」

「悪いといくら言われても、私はその者が悪いという事を理由に行動を止めず、苦しんでいるのを見て喜び続ける人間なら、悪いという言葉は言えない、そう生まれて来て、そう感じてしまったのなら、仕方の無い事だ」

「それでも、無意識に戦争に怒りを感じている自分が矛盾していると言う事ね」

 私は頷いた

「それは、矛盾している事も、仕方無いと思わないの?」

「……無意識に矛盾していると嫌悪して、頭では、仕方無いとも思っている」

「面白いわ、あなたが」

「……」

「この場所で話すとは思っていなかったから、違う店でも行きましょう」

「……今の様な話は出来ないな」

「そうね、いつも誰も居ない場所で話してるわね」
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