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二十.不安
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雨が降り、それはとても厳しい作業だった、私が反戦思想で逮捕され、その弊害は大きく、工場で働く事は無くなり、寒い中どこかにある防空壕を作り続ける
「……」
大きな防空壕の中を広げ、持って来ている小さな灯りを頼りに複数人で作業を進め、作業をしている他の者も私と同じ様な扱いで恐らく逮捕され、信用を失った者なんだろう
指で作業をする工場よりも時間が掛かり、身体が痛くなり、同じ程の集中力が必要でも、誰もが出来る様な仕事はとても賃金が低かった
終わるのは、工場が終わる時間と変わらなかったが、それよりも身体が疲労しかなり遠い場所であればかなり時間が掛かる
祖父の家に帰れば、夕食を食べ直ぐに眠ろうとしていた
今日も麦飯と芋を食べ、少しだけ父の方を見た、火傷をした場所は色が変わり、足の火傷でも大きく身体全体に異常が出ている
何も出来ずただ見ている事は苦しい事だった、父が工場での作業が少なくなり、代わりに賃金が減り夕食は時間が経つほど少なくなっていた
「……新しい仕事は、慣れたか」
父が起き、私に話し掛けた
「慣れた……身体は……」
私は父の足を見た
「いつもと変わらない、良くなってたら、良いけどな」
「……」
変わらないというのも、父が言っている嘘だ、それは顔色や、様子を見れば分かる物だった、確実に、調子は悪くなり続けている
「昔は……こんな事多かったからな……安心してくれ」
安心をさせようとしたその表情を見るのが、とても苦痛だった
祖父は何も言わず父の事を見ている
「それは、面白いわね」
痛んだ身体で麻美に、勾留所で会った事をひたすら話していた、麻美は変わらずの反応で、刑事が私にどう暴力を振るい、それがどのように変わり、私がどう感じたのかを聞くのが気に入っていた
「刑事は、怒っていた、その気持ちが何となく分かった」
「あなたが話さず黙り続けていたら、誰でもそうなるわよ」
「……そうだ、私は徐々に刑事が怒っているのを見ながら、飽きるのを待っていた」
「殴られた跡はまだ残っているの?」
私は数ある痣の内、手首の近くにある腕の痣を見せた
「これでも良くなった、あの時は激痛で、青くなっていた」
「これは、どうやって殴られたの?」
麻美は私が刑事にされた話を、興味深そうに聞いている
「殴られたのではなく、椅子を投げられた、その時は、時間が経って刑事が怒りが強くなっていた時だった」
「……椅子の、どの辺りで?」
「そこまで覚えていない」
「そう、その時どう思ったの」
「痛いと思って、尚更演技をしようと徹底した」
「……あなたは刑事の言う通り、長くなるとは思わなかったの?」
「思ったが、誰かに迷惑が掛かる事はしたくなかった、少なくとも、何の証言も得ていない者を処罰する事は出来ないだろう」
「迷惑を掛けない様にしているあなたは、自分が勝手な人間だと思っているの?」
「……そうだ」
「話が長く聞けるから、嬉しいわ」
「……」
「……そういえば、あなたは学校に行けていないの? 仕事もどうしているの?」
「仕事はしている、学校は、来るなと言われていた、当然だろう」
「……あなたの性格を見ていると、可哀想に思うわ」
「そうか、私は、そう思わない様にしている」
長く会話が続いたのは、二か月間麻美が好奇心を抱く様な話題を溜め続けていた影響だった
「今日は、もう終わりましょう」
「……」
麻美にしては、もう少し聞いて来ると思っていた
「話は、また明日聞いて良い?」
「勾留所での話なら、幾らでもある」
「……それも、そして、今思っている違う悩みも聞きたいわ」
「…………」
私が抱えている不安は、麻美には見透かされている
「……」
大きな防空壕の中を広げ、持って来ている小さな灯りを頼りに複数人で作業を進め、作業をしている他の者も私と同じ様な扱いで恐らく逮捕され、信用を失った者なんだろう
指で作業をする工場よりも時間が掛かり、身体が痛くなり、同じ程の集中力が必要でも、誰もが出来る様な仕事はとても賃金が低かった
終わるのは、工場が終わる時間と変わらなかったが、それよりも身体が疲労しかなり遠い場所であればかなり時間が掛かる
祖父の家に帰れば、夕食を食べ直ぐに眠ろうとしていた
今日も麦飯と芋を食べ、少しだけ父の方を見た、火傷をした場所は色が変わり、足の火傷でも大きく身体全体に異常が出ている
何も出来ずただ見ている事は苦しい事だった、父が工場での作業が少なくなり、代わりに賃金が減り夕食は時間が経つほど少なくなっていた
「……新しい仕事は、慣れたか」
父が起き、私に話し掛けた
「慣れた……身体は……」
私は父の足を見た
「いつもと変わらない、良くなってたら、良いけどな」
「……」
変わらないというのも、父が言っている嘘だ、それは顔色や、様子を見れば分かる物だった、確実に、調子は悪くなり続けている
「昔は……こんな事多かったからな……安心してくれ」
安心をさせようとしたその表情を見るのが、とても苦痛だった
祖父は何も言わず父の事を見ている
「それは、面白いわね」
痛んだ身体で麻美に、勾留所で会った事をひたすら話していた、麻美は変わらずの反応で、刑事が私にどう暴力を振るい、それがどのように変わり、私がどう感じたのかを聞くのが気に入っていた
「刑事は、怒っていた、その気持ちが何となく分かった」
「あなたが話さず黙り続けていたら、誰でもそうなるわよ」
「……そうだ、私は徐々に刑事が怒っているのを見ながら、飽きるのを待っていた」
「殴られた跡はまだ残っているの?」
私は数ある痣の内、手首の近くにある腕の痣を見せた
「これでも良くなった、あの時は激痛で、青くなっていた」
「これは、どうやって殴られたの?」
麻美は私が刑事にされた話を、興味深そうに聞いている
「殴られたのではなく、椅子を投げられた、その時は、時間が経って刑事が怒りが強くなっていた時だった」
「……椅子の、どの辺りで?」
「そこまで覚えていない」
「そう、その時どう思ったの」
「痛いと思って、尚更演技をしようと徹底した」
「……あなたは刑事の言う通り、長くなるとは思わなかったの?」
「思ったが、誰かに迷惑が掛かる事はしたくなかった、少なくとも、何の証言も得ていない者を処罰する事は出来ないだろう」
「迷惑を掛けない様にしているあなたは、自分が勝手な人間だと思っているの?」
「……そうだ」
「話が長く聞けるから、嬉しいわ」
「……」
「……そういえば、あなたは学校に行けていないの? 仕事もどうしているの?」
「仕事はしている、学校は、来るなと言われていた、当然だろう」
「……あなたの性格を見ていると、可哀想に思うわ」
「そうか、私は、そう思わない様にしている」
長く会話が続いたのは、二か月間麻美が好奇心を抱く様な話題を溜め続けていた影響だった
「今日は、もう終わりましょう」
「……」
麻美にしては、もう少し聞いて来ると思っていた
「話は、また明日聞いて良い?」
「勾留所での話なら、幾らでもある」
「……それも、そして、今思っている違う悩みも聞きたいわ」
「…………」
私が抱えている不安は、麻美には見透かされている
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