34 / 49
32.清拭
しおりを挟む「さてと。そのままではいけないね」
ルイは、まだほのかに体温が残るしっとりとした小さな布の塊を手にしたまま、何かを探している。
(探し物をするのなら、そんなモノをずっと持っていないでさっさとそこら辺に放り投げておいて欲しい……)
しかし、今の珠奈にはそれを口にする事よりも先にやるべき事が他にあるのだ。
ノーパンの珠奈のためにルイが探してる物といえばひとつしかない。
そう新しいパンツである。
それをルイに見つかってしまっては、確実にまた彼による強制お着替えタイムが始まってしまう。
最悪の事態を阻止するためにも、なんとしても珠奈はルイよりも先に己のパンツを勝ち取らねばならないのだ。
だがしかし、不要に焦る必要はない。
幸い、この部屋の物の置き場所ならば珠奈が全て把握していた。
目的の下着は衣類と一緒に珠奈からほど近い場所にまとめて置いてある。距離にして数歩。
珠奈には自分の勝利が見えていた。
ルイに勘付かれないようにそろりそろりと移動すると、素早く新しい下着を掴み取る。
デザインの違う物を何種類か買ってあるが、この際もうパンツであればどれでも構わない。上下の色がバラバラでも誰が気にするものか。
(よしっ!さっさと履いてしまおう!!)
恥ずかしい状態の下着がルイの手元にある今、もう恐れる事など何もない。
生着替えがなんだ。さっと足を通してしまえば、後はもうスカートの中なのだから恥ずかしくもなんともない。
と、珠奈が己の心に言い聞かせながら下着に足を通そうとした時、ルイがくるりと珠奈の方へと向きを変えた。
「あぁ、駄目だよ。そのままでは新しい下着も汚してしまうから、これで拭いてからにしようね」
爽やかな水色の下着を手にし、中途半端な姿勢で固まっている珠奈の方へと向かって来るルイの手には、宿屋で用意されている真っ白なタオルがあった。
(ルイはパンツじゃなくてタオルを探してたのね!)
珠奈は焦っていたため下着を履く事しか考えていなかったが、確かにルイの言う通りそのまま履いてしまって駄目だ。
何かで拭いてからでなくてはせっかくの新しい下着もまた汚してしまう。
「……ありがと」
そうお礼を言ってタオルを受け取ろうとした珠奈の手には、一向にタオルがやってくる気配がない。
おやおや嫌な予感がするぞ、とルイを見上げれば、眩しいばかりの満面の笑みを浮かべていた。
「私が綺麗にしてあげる」
――何となく、そんな予感はしていた。
大人しくタオルを渡すような人でない事は、ルイと出会ってからの短い時間の中で十分に理解していたのだ。
「あー、えっと……。自分で全部出来るからあっち向いてて欲しいんだけどな……?」
珠奈は諦めムードを漂わせつつも、砂粒ほどのわずかな可能性を掴み取ろうとする。
それが無駄な抵抗だとしても、一応ポーズとして抵抗しておきたいという意図もあったりした。
「珠奈にはお世話になってばかりだからね。私にも珠奈のお世話をさせて欲しいな?ほら、大人しくしていればすぐに終わるよ」
「……私が何言っても無駄なんでしょ?」
「おや、よく分かったね。珠奈は私に身を任せていればいいよ。今日のところは何もしないからね」
「え?ちょ、その言い方だと――」
「ほらほら。早くしないとオオカミ君が出てきてしまうよ?」
(それは困る。めちゃくちゃ困る)
今この状況下でアランに乱入されたら、この部屋は恐ろしく混沌とした状態になってしまうだろう。
そんな珠奈の考えを見抜いたのか、ルイは余裕の笑みでタオルをひらひらとさせている。
「珠奈?」
「あーもう!分かった!分かりましたよ!……うぬぐぅ」
羞恥や不服を飲み込んで喉の奥で唸りつつ、先ほどと同じように膝が見える所までスカートたくし上げた。
これならば股間はもちろんのこと、内ももにとろりと垂れてしまっている愛液もルイには見えまい。
珠奈の前に膝をついたルイは、スカートの中にタオル持った手をそっと差し込む。
不埒な真似はせず、ぬかるんだ秘所を正しく拭ってゆく。
「……ん、………ぁ…」
珠奈の敏感な場所はただ拭われるだけでも緩やかな甘さを感じとってしまった。
しかし、ルイはそんな珠奈の反応をしっかり見てはいるものの、揶揄したりせず自らの仕事を全うする。
珠奈の秘所が綺麗さっぱり快適な状態になり、ルイが秘所からタオルを離した、その時。
「……おやおや」
「~~っ!」
珠奈の内ももにルイの手の甲が当たった。
それも、一筋だけ蜜が垂れてしまっていた所へピンポイントに。
ルイはその内ももにもタオルを当て綺麗にすると、スカートの中から手を引き抜いた。
そして、ルイは濡れたタオルを手にしたまま、珠奈の蜜が付着した手の甲をペロリと舐めてしまった。
「ん…、とても甘いね」
「……え?は?な、な、何やってるの!?」
(アランもルイも!なんでそんなことするの!)
この世界の常識ではそういったモノを舐めるのが普通なのか、と混乱する頭で一瞬考えたが即座に否定する。そんなわけがあってたまるか。
「体力回復の一環、かな?命が宿る場所から溢れる体液の方が良質な魔力があるんだよ。……それにしても本当に甘いね」
「なんかもう反論する気力がなくなってきた……」
「おやおや。では、早く着替えてしまおうね」
「ハイ……」
ここまで来ると着替えの一つや二つで動じることはない。
たとえ、先ほどまで珠奈が持っていたはずの新品の下着が、いつの間にかルイの手の中に収まっていたとしても。
「私の肩に手を置いていて?うん、良い子。さて、次は足を上げて?」
珠奈は素直に応じて、ルイの肩に手を置き足元に広げられた下着に足を通す。
ふくらはぎから太ももへと肌触りの良い下着とそれを持つルイの手がスルスルと上がってゆき、正しくそこに収まった。
そしてなんと、下着のフチに指を掛けて綺麗に整えてくれるサービス付きだ。それはもう泣きたくなるほどに気の利く対応である。
(あぁ…なんでこんな事になってるんだろ……)
珠奈が遠い目をしてる中、ルイがテキパキと珠奈の服を整えていると、カチャリと扉の開く音がした。
「珠奈!何もされていませ………待て。その手にしている物はなんだ」
どこかスッキリとした様子で出て来たアランは、珠奈に話しかけようとした途中で相手を変えた。
はたから見ればルイの手にある物はただの布の塊であるが、鼻の利く獣人であればそこから放たれるにおいに気がつく。
それがつい先ほどまで珠奈とあらぬ事をしていたアランであれば尚更な事だろう。
「君が珠奈のお世話を放り出していたからね。私が代わりに手伝ってあげただけだよ」
「貴様っ……!!」
「あーもう!いいから!ほら、アランはちゃんとシャツのボタン留めて。ルイは早くそれから手を離して」
「珠奈、本当に何もされてませんか?もし無体な真似をされたのなら…」
「されてません!」
「私はこれを洗ってくるよ。……おや。誰かが来るようだね」
「え、無理無理無理!そんな物を他人に洗わせるなんて…!……ん?誰か来るの?」
――コンコンコン
来訪者の予定などないはず、と珠奈が考え始めると同時に、扉から来訪者を告げる音がした。
「本当に誰か来たみたい。はーい!今出ます!」
珠奈がドアを開けると、そこには宿屋の従業員の男性が立っていた。
その手には何やら立派な封筒が載っている。
「お手紙をお預かりしております」
「手紙……?あ、届けてくださってありがとうございます」
「いえ、では私はこれで」
封蝋がされた封筒には流れるような美しい文字で署名らしき物が記されていたが、あいにく珠奈には読むことが出来なかった。
「アラン、これ読める?」
「……マルクス・ルーベンと書かれていますが、心当たりはありますか?」
「あー、マルクスさんからだったんだ。この人は魔術省の人で、私が今日会ってきた人だよ。それにしても、会ったばかりなのに手紙だなんてどうしたんだろう?」
文字が読めない珠奈は、封筒の開封から中身の確認までアランに任せた。
アランは手紙を開封すると珠奈の要望通りに読み上げてゆく。
引越しの日に魔術省への案内のためにも馬車の迎えを出すため、手紙記載の時間までには準備を終わらせて欲しい事。
給料の前借りの許可が下りたため、面会をしたときにそのお金を渡す事。
要約するとそんな事が書いてあった。
「今日話したばかりなのにもう色々決めてくれたんだ。それに、荷物も少ないし馬車はいらないって言ったのに用意してくれるみたい。迅速に動いてくれたマルクスさんに感謝しなくちゃね」
「この宿から別の場所へ移るのですか?」
(あ、怒涛の展開続きで大事な事伝えるのすっかり忘れてた)
魔術省で雇ってもらえる事、そしてそこの寮に移り住む事。
珠奈がそれらをアランに伝えると、今度はルイの方へと向きを変えた。
「と、言う訳で私達は数日でこの宿から引き上げる事になるけど、ルイはどうする?」
ルイは奴隷の身分ではあるものの、主人もおらず自らの認識票も自分で持っているという、誰の物でもない自由な状態だ。
真っ当な働き口を探すのは難しいかもしれないが、粗雑な扱いをするかもしれない主人を持つよりかは断然マシである。
「そんなモノそこら辺に捨ておけばいいんです」
「はいはい。アランは良い子だから少し静かにしててね。……ルイはどこか行く当てとかあるの?」
「行く当てなどないよ。だから、私のこの身を売って日銭を稼いで細々と生きてゆくしかないね。でももし、珠奈が側に置いてくれるのならそのような事をしなくて済むのだけれど?」
(あ、これ絶対私に付いてくる気だ……)
その言葉に悲壮感が漂うが、ルイの表情はとても明るい。
珠奈としてはこれ以上人手は要らないと思っていたが、一人くらい増えてもさほど変わらないだろう。
「分かった。そしたらルイも一緒に行こうか。でも、お客さん対応はしないし、家事とか色々やってもらうからね!それと、認識票はルイが自分で持っていて」
「おや?契約はしないのかい?私が勝手に逃げたり珠奈の命令に逆らったりするかもしれないよ?」
「私が困るような事はして欲しくないけど、逃げたかったら逃げていいし、嫌な事は断ってくれていいよ」
「……珠奈は変わってるね。では、今はそれでお願いしようかな」
「うん!これからよろし――」
珠奈が言い終わるより先に、突然後ろからぎゅっと抱きしめられた。
(あらまぁ……)
ぺそんと耳と尻尾を垂らしたアランが、迷子の様な顔をしながら珠奈に抱きついてきたのだ。
子犬なアランのケアを少々怠ってしまっていたらしい。
「アランもよろしくね?アランが居てくれるから安心して私が働けるんだから。……私を守ってね?」
「珠奈っ……!」
珠奈が後ろに手を伸ばして頭を撫でてやれば、たちまち耳も尻尾もアランも元気を取り戻した。
首筋にグリグリと頭を擦り付けられているが、今はそのままにしておく。
アランには甘える時間が必要なのだろう。
(急に他の人が増えたらアランだって不安になるものね。さて、二人の顔合わせを改めてきちんとしないと。美味しいご飯を食べながらなら少しは良い感じになるかも!)
「アラン、ルイ!そろそろお腹も空いたしご飯食べに行こうか!」
多少の言い合いはあったものの、明るい雰囲気の食事はとても楽しく、珠奈はお腹だけでなく心まで満たされた。
珠奈が自分の就職祝いにと全員分のお酒を頼むと、意外なことにアランは下戸なようで真っ赤に染まった顔で珠奈に甘えていた。どうやらアランは酔うと甘えたさんになるらしい。
そうして、食事をしながらのアランとルイの自己紹介はつつがなく終わった。
0
お気に入りに追加
714
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
おじ専が異世界転生したらイケおじ達に囲まれて心臓が持ちません
一条弥生
恋愛
神凪楓は、おじ様が恋愛対象のオジ専の28歳。
ある日、推しのデキ婚に失意の中、暴漢に襲われる。
必死に逃げた先で、謎の人物に、「元の世界に帰ろう」と言われ、現代に魔法が存在する異世界に転移してしまう。
何が何だか分からない楓を保護したのは、バリトンボイスのイケおじ、イケてるオジ様だった!
「君がいなければ魔法が消え去り世界が崩壊する。」
その日から、帯刀したスーツのオジ様、コミュ障な白衣のオジ様、プレイボーイなちょいワルオジ様...趣味に突き刺さりまくるオジ様達との、心臓に悪いドタバタ生活が始まる!
オジ専が主人公の現代魔法ファンタジー!
※オジ様を守り守られ戦います
※途中それぞれのオジ様との分岐ルート制作予定です
※この小説は「小説家になろう」様にも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる