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31.スカートは鉄壁
しおりを挟むアランの姿が完全に浴室へと消えると、珠奈とルイが残された部屋には沈黙がやって来た。
この静けさの中、ルイの腕に抱かれたままというのは少々居心地が悪い。
恐る恐る間近にあるルイの顔を見上げてみれば、にこりと女神のような微笑みを浮かべて珠奈のことを見下ろしていた。
(顔が、近い。……それにしてもほんと綺麗な顔)
どうやら今日は、顔面偏差値が天井を突破してる男性を至近距離で拝む日のようだ。
アランとは別のタイプの顔の良さを持つルイをまじまじと眺めつつも、早急にベッドから降りるべく、ペシペシとルイの腕を叩く。
「えっと、もう手を離して大丈夫だよ」
「珠奈は柔らかくて良い香りだね」
(わぁ、話が通じないぞー?……それにルイまでアランみたいな事言い出したんだけど……)
ルイはそう言いながら珠奈を抱えている腕に更に力を込めてきた。
決して苦しいような強さではないが、振り解けないほどにはしっかりと力がこもっている。
清潔な石鹸の香りがするルイに身体を預けたまま珠奈が遠い目をしていると、ひょいっと軽い動作で彼の膝の上へと乗せられてしまった。
「へっ!?急にどうしたの?」
そんなルイの行動に驚いた珠奈がその名を呼べば、それに応えるかのようにちゅっ、と音を立てて額にキスを落としてくる。
浴室でそれ以上の事もされていたというのに、珠奈はすぐ目の前にある形の良い唇にドギマギしてしまう。
「うん、どうしたんだろうね?」
「なんで疑問系なの……。ルイ自身がしてる事で――んっ」
ルイは珠奈の小さな抗議を唇で直接塞ぐと、横になっていたせいで随分と乱れた柔らかな黒髪を、長くしなやかな指で優しく整える。
啄むような軽いキスをされながら手櫛でさらさらと髪を梳かれるのはなんとも心地が良かった。
「んん……、ルイ……」
珠奈はちゅっ、ちゅっ、と降り注ぐキスの合間に何とかルイを呼ぶ。
快楽に滅法弱い珠奈としては、この心地良さをもう少し堪能したい、と本音ではそう思っている。
しかし、あまり長引かせるとアランが戻って来てしまうのだ。
そうなれば、先ほどルイが最悪なタイミングで戻って来たのと同じようなことが、今度はアランバージョンで確実に展開されるだろう。
いたたまれない思いはつい数分前に十二分に味わったのだから、同じ轍はもう二度と踏みたくはない。
「大丈夫。分かっているよ。盛った犬のような真似はしないから安心して」
最後に一つふわりと口付けを落とすと、それ以上のことはせずにルイの美麗な顔が離れていった。
だがしかし、依然として膝の上からは下ろしてもらえない。
「髪の毛もちゃんと整えたいし、そろそろ下ろして欲しいな?」
「髪が気になるのなら後で私が綺麗にしてあげる。それよりも、まずは珠奈の服を整えてしまおうね」
「服?……………っあ」
(ああああぁぁ!アランにボタン外されたままだ!人の胸を散々弄ったあげく、服を直さずにいなくなるなんて……アランの馬鹿っ!)
珠奈が自身の身体を見下ろせば、胸元がそれはもうがっつりとはだけているではないか。
柔らかな胸を包むピンク色の下着が、その開いた服の合わせから元気よくコンニチハしている。
チラ見えを大幅に越えたそれを慌てて隠そうとするも、ルイの手によってやんわりと止められてしまう。
「ふふ、慌ててる珠奈も可愛いね」
「それはどうもっ!そんなことよりも手を離してくれるかな!?」
「おや。貴婦人は身支度を自分でせず、他の者にやらせるものだよ」
「貴婦人はそうかもね!でも、私はただの一般人だから!!」
「うんうん、そうだね。それじゃあ、少しだけ大人しくしていてね」
珠奈の意見を丸ごと無視すると、ルイは珠奈の胸元に並ぶ小さなボタンを下から順に留めてゆく。
爪の形まで整ったルイの指先でひとつひとつ丁寧に穴に通すその動きを、珠奈は恥ずかしさを覚えつつもじっと眺める。
(何か変なことされるかもとか思ったけど、本当に服を整えてくれるだけみたい。……んー、こんな風にお世話され続けたら駄目人間になってしまいそう……)
一番上までしっかりとボタンを留め終わると、ルイは珠奈の手を取り、ベッドサイドに座ったままの彼の前に立つように促す。
スカートの裾でも直すのだろう、と珠奈も大人しくルイの手に従った。
「さて。こちらは早めに着替えてしまった方がいいだろうね」
「え、せっかくボタン留めたのに。そんなにスカートがシワになってる?後はもうご飯食べるだけだし、多少服にシワが寄ってても大丈夫だと思うけど…」
「服は問題ないよ。珠奈に似合っていてとても可愛いね。……問題があるのはこっち」
ルイは人指し指でツンッと珠奈の恥骨を優しく突く。
「?」
「下着、濡れてるでしょ?」
「――っ!? 」
今現在、珠奈の下着は浴室でナニかをしているどこかの誰かさんのせいでぐっしょりと湿っている。
身体の中で燻っていた甘い熱はもうすっかり冷めてなくなったが、物理的に残ってしまっているそれが自然に消えることは、残念ながら当然ない。
珠奈ももちろん下着の不快感は気になってはいた。
しかし、アランやルイの前で堂々と己の愛液に濡れたパンツを変える事など出来るわけがない。
そのため、後でこっそりと変えようと思っていたのだ。
(今この流れでルイが下着の話題を出すことに嫌な予感しかしないんだけど……)
現代人の、それも一般人の珠奈は、貴婦人の着替えがどのようなものなのかは知らない。
しかし、今まさに身に付けている下着を、それもちょっと人様の前には出せない状態のパンツを他人に履き替えさせてもらう趣味は断じてない。
今この場で公開着替えショーを開催するくらいなら、股間にある多少の不快感くらい我慢出来るというものだ。
「あー、うん。えーっと、それは後で自分で着替えるから気にしなくていいかなぁ、なんて……」
むしろ、気にされると珠奈が大変困る。
とりあえず、今はルイと距離を取りつつ身の安全第一に行動すべきだろう。
その計画の第一段階として、掴まれたままの片手をやんわりと引き抜こうとしたのだが、にっこり笑顔のルイが素直に離してくれるわけがなかった。
「ほら、濡れたままだと身体を冷やしてしまうよ」
「大丈夫大丈夫!そんなに濡れてるわけじゃないし!」
「……へぇ?」
パッと掴んでいた珠奈の手を離したかと思うと、ルイはその手を目の前にある細腰へと回した。
両腕で囲むように捕らえられてしまえば、もう珠奈に逃げ道はない。
「ねぇ、珠奈。私にベッドへ押し倒されて下着を無理やり脱がせられたい?」
「絶対イヤ」
「うん、そうだよね。それならここで大人しく脱いでしまおうね」
「そ、それも嫌なんだけど……」
「ワガママを言われるのは嫌いではないけど、今は聞けないかな。さぁ、もう少し足を開いて?」
「ちょ、待って待って待って。下着くらい自分で取り替えられるから!ルイはあっち向いてて!!」
この場で行う生着替えに無論抵抗はあるが、ルイに着替えさせてもらうよりかは何倍もマシだ。
珠奈は懸命に自分自身で着替える事を主張する。
「今日は私が着替えさせてあげるから駄目。もしどうしても嫌だって言うのなら……」
「言うのなら?」
「有無を言わさず脱がせて、私が舐めて綺麗にしてあげようかな?」
(何ということでしょう。本格的にルイがアラン化してしまいました……)
珠奈は麗しい笑顔から放たれた言葉を受け止めきれずフリーズした。
そんな珠奈のスカート越しの太ももに、腰に回していたはずの手がいつの間にか降りて来ている。
「さて、オオカミ君が戻る前に着替えを終わらせようね。少しスカートを持ち上げてくれるかな?」
「………ハイ」
「うん。珠奈は良い子だね」
これ以上の事態の悪化を恐れた珠奈は、無駄な抵抗を止めて大人しくスカートをたくし上げる。
すると、膝小僧が見える程度まで上げた裾の下からルイの両手が侵入してきた。
太ももの外側をなぞるように進み、下着の両サイドに辿り着くとフチに指を掛けて下へと引きずり下ろす。
(んんっ。…………っ!あぁ、最悪。太ももに垂れた……)
とろりと太ももの内側を伝った蜜に内心焦りつつも、ルイに気取られないように必死で平静を装う。
珠奈がヘマをしない限り、スカートという壁で守られている場所がルイに見られる事はないのだ。
「……随分と濡れているね。そんなに彼の手は気持ち良かったのかな?」
珠奈はルイの質問には答えず、足元まで下ろされた下着から足を引き抜く。
(沈黙は金なり……。下手に答えたらまた変な方向に行きそうだもの)
ルイの手にある濡れた何かから目を逸らしつつ、珠奈は貝のように口を閉じた。
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