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17.寝起きのもふもふ

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 翌朝、珠奈が目を覚ますとすでにアランは目覚めていた。アランの立場上そうするのが当たり前なのだろう。
 そう考えると、珠奈の起きた気配にも気付かず寝ていた昨日は、相当疲れていたのだとよく分かった。


「おはようございます、珠奈様」
「……んー、おはよ……」

 布団の中から寝ぼけ眼で声の方を見れば、珠奈のベッドの側にアランが膝をついていた。
 目覚めきれていない思考のまま、珠奈はぼんやりとアランの端整な顔を眺める。

(あー綺麗な顔だなぁ……。奴隷なんかじゃなければモッテモテだろうなぁ……。あー、もふもふも素晴らしい……)

「……もふもふ」
「珠奈様?」
「……しっぽ」
「尻尾ですか……?」

 困惑しつつも、自らの尻尾を大人しく差し出すアランのなんと優しいことか。
 そして、その優しさによってもたらされたもふもふの尻尾を、珠奈は思い切り抱きしめた。


「……っ!?珠奈様!?」


(もふもふ~、んん~、良い手触り。良い匂い)

 抱き枕のように抱き抱え、その豊かな被毛に顔を埋めた。そして、ぐりぐりと顔を押し付けながら、ツヤツヤふかふかの尻尾を遠慮なく堪能する。
 昨日も珠奈自ら丁寧にブラシを通し、オイルで整えて手入れをしたのだ。手触りも香りも素晴らしい美しい尻尾に仕上がった。

「アランさんの尻尾は最高級のもふもふだよぉ……」
「しゅ、珠奈様っ!!……んっ」

 何やらアランの焦った声が聞こえたような気がするが、残念なことに夢現の状態の珠奈には届かない。
 ご機嫌でアランの尻尾を堪能していると、するりと尻尾が逃げていってしまった。

「あぁ~……もふもふ……」
「…珠奈様、もうそろそろ起きてください」
「………起きます。ちゃんと起きますから、もう少しだけもふらせてもらってもいいですか……?」
「駄目です。………これ以上は俺に障りがありますので」

 アランへ懇願の視線を送ったのだが、顔を逸らされてしまった。心なしか薄っすらとその目元が赤い。

(ふっかふかで気持ちよかったんだけど仕方がないね……。今日はアランさんの腕輪を外すんだもの!その後も予定が詰まってるし、早く支度しなくちゃ!)

「んん~!よし、起きました!支度してご飯食べて出掛けましょう!」

 ベッドからがばりと勢い良く起き上がると、大きく伸びをして、昨日ジョアンにもらったばかりの紺色のワンピースを手に取る。
 洗面所で着替えようかとも思ったのだが、珠奈の行動を察してアランが背を向けてくれたので、そのまま部屋で着替えて準備を整えることにする。まったくもって気の利くアランである。




「いやはや!こんなにも早くシュナ様に再びご来店いただけるとは!ささ、どうぞどうぞ!」

 奴隷商に着くと珠奈が扉を開けるより早く、揉み手をした店主に出迎えられた。相変わらず服の組み合わせが成金風だ。

「本日はどのようなご用件で?新しい奴隷でしたらおすすめがございますよ!!」
「新しい人は必要ありません。今日は彼の腕輪を外してもらいに来ました」
「え……?」

 大きな鳥籠型の檻に入れられた、本日のおすすめ奴隷たちを紹介しようと腰を上げかけた店主が固まった。
 ちなみに、おすすめとして檻にいるのは線の細いうさぎの耳が生えた獣人だ。とても可愛らしいが、珠奈には必要ない。


「彼を購入した時に、問題がなければ外してくれると言っていましたよね?」
「は、はい。確かにそう言いましたが……。まだ買ってからたった二日ですよ?本当に外してしまってよいのですか?」
「問題ありません」
「そ、そうですか……。いえ、お客様が良いとおっしゃるのなら構いません。お望み通りすぐに外す準備をしましょう!」

 そう言うと、前回とは違う従僕らしき奴隷がアランを奥の部屋へと連れて行った。
 目が届かない場所に連れて行かれるのは少々不安だが、我慢である。

「今からすぐ取り掛かりますので、そうですね……。恐らく夕方頃には外れるかと思います」
「え、すぐに外せないのですか?夕方までとなるとかなり時間がありますが……」

 今はまだ昼にもなってない時間である。
 今から夕方まで掛かるとなると、約六時間程はこのままアランを預けなくてはならないという事だ。

「はい。腕輪や首輪には特殊な魔術が施されていますので、どーーーしても着脱に時間が掛かってしまうんですよ!いやぁ、私も本当に申し訳ないと思っているんですが……」

 繋ぎ目などもない不思議な腕輪だと思っていたが、どうやらマジカルなアイテムだったようだ。
 そのような特殊な物であれば、外すのに時間が掛かってしまうのも仕方がない事なのだろう。

(長い時間アランをこんな場所に居させたくないけど……)

 魔力があると言われた珠奈だが、魔力の使い方など当然の事ながら知らない。
 アランの腕輪を珠奈が外す事が出来ない以上、今はこの店を信じて任せるしかないのだ。

「……分かりました。では、彼をよろしくお願いします。くれぐれも、くれぐれも彼を大事に扱ってくださいね。もう彼はここの商品ではなく、私の管轄下にありますので」


 このまま店でアランが戻ってくるのを待っていたいのだが、生憎今日はこの後すっぽかす事の出来ない大事な約束がある。
 雑に扱う事がないよう店主にしっかりと念押しをしてから、珠奈は店を後にした。
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