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初めてのお出掛け ③
しおりを挟むお店に入ると、ふわっといい香りがした。
「あらいらっしゃいませ。かわいらしいお客様ねぇ。」
奥にはとっても優しそうな老婦人が座っている。
そんな婦人にフロリアン様は尋ねた。
「婦人、ミモザの香油はありますか?」
「ミモザねぇ、ありますよ。ちょうど今は春の月ですからねぇ。……あぁ、これです。どうぞ。」
「ありがとう。リア、香りを試してみて?」
フロリアン様から手渡されたサンプル用の小さなビンの蓋をあけると、草原の中にあるかすかに甘い香りがした。香りは強くないけれど、落ち着くような、すっきりするような、そんな感覚。
「とてもいい香りです…!これがミモザというんですね。」
「おやお嬢様、ミモザはまだ見たことがないのかい?それならこれをどうぞ。」
婦人が渡してくれたのは、鮮やかな黄色の、私が知っている花…というには控えめな花がたくさんついた、ちいさな花束。
「たくさんあるからねぇ、よければもらってくださいな。」
「い、いいのですか…?ありがとうございます。」
「えぇえぇ。お嬢様のような可愛らしい方が来てくださって嬉しいわ。なんでもお申し付けくださいな。」
にこやかな婦人につられて笑顔になる。
すると、お店を見て回っていたクラウシー様が婦人に声をかけた。
「……婦人、これと……これを合わせて香油にすることはできるか?」
「あらまぁ、若い騎士様が相性のいいものを知っているなんて嬉しいわぁ。もちろんですよ。ライラックとベルガモットですね。お嬢様用でしたらライラックを少し多めにしてみようかしら。いいわねぇ、若いって素晴らしいわぁ。」
「ライラック……」
ドレスを仕立てて貰ったときにも、私の髪はライラックの色だからと言われた気がする。
「そう。おじょーさまの髪の色だし、それに…ライラックは奥様がとてもお好きだったから。」
「へぇ…!そうなんですね!」
「うん。まだおじょーさまは幼かったから覚えてないかもしれないけど、昔はおれとヘルベルトがたくさん摘んで奥様にプレゼントしてたんだ。お部屋に飾っていたし香油も使っていたから懐かしく感じるんじゃないかなと思って。」
私にはその頃の記憶がないけど、お母様のことを少しでも近くに感じられるなんてとっても素敵だわ。
「さぁできましたよ。いかがですか?調整したい部分があれば遠慮なく仰ってくださいねぇ。」
婦人が部屋の奥から戻ってきた。
ビンを受け取り、香りを嗅ぐと、クラウシー様が言っていたように確かに懐かしい感じがした。ミモザよりも華やかな甘い香り。でも重たく感じないのは、クラウシー様が選んでくれたもうひとつの香りのおかげかしら。
……そう、お母様の髪とベッドからはこんな香りがしていたと思う。
「…と、とてもいい香りです。お母様みたい…。」
「んふ。それはよかった。これがあればいつでも奥様がそばにいる気がするでしょ?」
「はい…!嬉しいです、ありがとうございます!」
「ふふ、喜んでもらえて嬉しいわぁ。それじゃあこの配合にしますね。使い道は香油でいいのかしら?」
「はい、お願いします!」
「では少々お待ちくださいねぇ。あぁ、好きなビンを2つ選んでおいてくださいな。」
婦人が指を指した方をみると、色のついたガラスのビンが並んだ棚があった。
「あ、婦人。もうひとつ選んでもいいですか?この子が選んだものもほしくて。」
「あら!そうですねぇ!調合もできますからゆっくりお選びになってくださいね。」
婦人が再び奥の部屋に向かった。
クラウシー様とフロリアン様はビンを眺めている。きっと私がゆっくり選べるように気遣ってくれているのだわ。
改めて店内のサンプルを手に取り、嗅いでいく。
スースーするものや、土みたいなもの、とびきり甘いバニラのような香りに、ラベンダーのようなハーブ。香りだけでどこか別の場所にいると錯覚してしまいそうになる。まるで魔法みたいだわ!
「あ…とてもいい香り」
8つめのビンを嗅いでみると、甘く優しい花の香りがした。
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