彼女と私の冷戦と部活

阿峰 剛

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第1話 奪う

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「山本 亜里沙」

ぼーっとしていた私は、突然聞こえた自分の名前に心臓が跳ねた。

「はいっ」

反射で大きな返事をする。まだ鼓動が耳に響く。

「補欠、甲田 真奈」

続いて呼ばれた名前に、今度は体が強ばった。

 監督を囲むようにただずむ同期と後輩達。時折目に入りかける汗をTシャツで捲りあげて拭う人もいる。
 その中で、私の斜め左前、監督の正面に立つ真奈は、返事をする時以外微動だにしなかった。

 そのまま監督は、明後日の来校試合に来る学校名を挙げ始める。


 制服に袖を通した。いくら夏服と言っても、部活後の制服は本当に暑苦しい。
体に張り付く制服を剥がして、パタパタと煽ぐ。

 制汗剤の匂いと汗の匂いが織り交ざる。
たまにコールドスプレーの匂いもする。

 私はずっと落ち着かなかった。
スタメンで名前を呼ばれるのは初めてだったのだ。
万年補欠。3年生になってもきっと補欠で終わると思い切っていた。

「負けてられないね」

2年生の時、先輩達と、身長とセンスに恵まれた同期達の試合中、応援席で真奈がぼそっと言った言葉。
 「ああ。勝てないな。」と、素直に思った。羨ましそうに試合を見つめる視線の奥底には、確かにぎらりと光る熱が垣間見えていた。
 私にはそれがない。
 練習が楽になるなら、わざわざ選手になんて選ばれる必要を感じなかった。メンバー含め、監督、本気で応援する親達の期待を背負って試合なんてしたくなかった。
 伝統がなんだ、後悔がなんだ。そんなもの知らない。今日を乗り越えるので私は精一杯だ。

 「うん。」

私の返事は、真奈には聞こえていたのだろうか。





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