22 / 34
京子・ルルカ編
第20怪
しおりを挟む
カーテンの閉め切った薄暗い自室に後藤はいた。ここ数日で後藤の周りでは奇妙なことが立て続けに起きていた。下駄箱にカエルの死骸が置いてあったり、下校中誰かにつけられているように感じたり、毎日誰かに見張られているように感じていた。
「あいつだ……事故で死んだ太一郎が呪ってるんだ」
表向き、太一郎は車に撥ねられ死亡した事になっている。ガタガタと布団の中で震える。いつ目の前に現れてもおかしくないと感じていた。母親が部屋に入ってくる。
「お友達が来てるけど……緑沢中の子」
姫小路が現れてから、純は後藤の家に来ていた。青崎の権力で家を割り出し、姫小路に何かさせる前に結界を張りに来たのだ。
「アンタ……大会の」
以前、大会で見たときよりもやつれている。見る影もないほどに。
「状況が変わって来てな、お前の周囲で知らん人が話しかけに来たことあるか?」
「あ、ある……太一郎の親戚とかいう奴」
(元凶を探してると言いながら、もう既に接触してるじゃねぇか)
「お前さ、幽霊のこととか……どう思ってる?」
唐突な純の質問に後藤は戸惑ったが、すぐに答えた。
「信じてる……というか今までそれで勝ってきたもんだし」
「変な話に聞こえるかも知れないが、太一郎は事故で死んだんじゃない」
純は後藤に真実を話すことに決めた。事故で死んだことになっている太一郎は、実は間違った能力の使い過ぎにより、闇に引き込まれて死亡したこと。そして死の真相を知った太一郎の親族が、原因を作った後藤に復讐をしようとしていること。
「信じられないだろうが、絶対俺たちが何とかするから」
「そうか……全部俺のせいだったんだな」
(全く反省してなかったらほっとこうと思っていたが)
後藤はかなり反省しているようだった。純はそれを見てから部屋の四隅に護符を設置した。後藤は純に問う。
「お前は一体何者なんだ」
「緑沢中のただの怪奇研究部員さ」
深夜、夢の中で後藤は太一郎に会った。二人だけの全く色のない世界だった。太一郎は後藤を指差し、言う。
「お前だけ……お前だけ罰を与えられてない」
太一郎が後藤から下の地面を指差し、その地面から無数の真っ黒い手が伸びてきた。後藤を地面に引き摺り込もうとしている。
「お前も一緒に苦しめばいい……地獄の底で」
「た、太一郎……」
後藤は必死に叫んだ。今までの悪行、その全てを太一郎になすりつけたこと。必死に謝った。
「まさか、こんなことになるなんて……分かってなかった! お前だけ苦しめた、悔やんでも悔やみきれないのは分かってる。本当にごめん! 申し訳ございませんでした!」
黒い手は数を増し、後藤を包み込んだ。そして地底に引き摺り込む。
ハッと飛び起きると、そこはベッドの上だった。
「あ、あれ。生きてる?」
後藤の夢に何者かの侵入があった三十分前、結界に異常を感じた純は一目散に後藤の家に向かった。案の定、後藤の家の前には知らない女性がいた。
「もしかして貴女が姫小路の家の人?」
「ふむ、そういうそなたは結界術の佐々木家の者じゃの。この結界の方式、見たことがある」
後藤に復讐を誓っている姫小路、何をしでかすか分からない。
「アンタの言い分は分かるが、ここで後藤の命を狙えばアンタも同類だよ」
「それが何じゃという。我々はとっくのとうに覚悟を決めておる」
一触即発の状況になる純と姫小路、だがそこに思わぬ客が現れることになる。月夜に影が重なり合った。純の背後で深い闇が姿を表す。赤い瞳に漆黒の髪が夜に映えた。
「誰だっ!」
「僕は亜門。今日はね、そちらのレディにお返しをしに来たんだ」
そう言って姫小路を見る謎の人物。姫小路は不快そうに睨みつけた。
「妾が妖嫌いなのは有名だと思っておったが、そうでもなかったようじゃの。のこのこと現れおったわ」
それに笑顔で答える亜門。
「知ってるよ、だから何って感じ。人間如きに僕は殺せない」
冷たい風が三人の間に流れる。「さて、本題だけど」と亜門が手を叩き、注目をさせる。
「魔王でも魔界の出来事を全て把握するのは難しい、だから今まで気づかなかったけど、人間の痕跡があったからね」
亜門は目線を後藤の家に送った。そして続ける。
「お返しに来たって言ったでしょ? 僕は魔界に堕ちた比米太一郎の魂を返しに来たんだ。一度堕ちた人間の魂を人並みに浄化させるのは苦労したけど、これで頭打ちにしてくんない?」
「何とまあ、これは有難いことじゃが……そなたに何のメリットがある」
メリットという言葉に一瞬驚きを見せた亜門だがすぐにニコッと笑い、純を見た。
「イイコトしてみようと思って。ただの気まぐれだよ」
姫小路はふうっとため息をつき、二人を見る。そして約束した。
「復讐は終いじゃ。だが妾なりに罰を与えてやろうぞ。何、ちょっとした灸を据えるだけじゃ」
そう言って姫小路は去っていった。純は亜門を見て思う。
(こいつのことが全く分からない、何者なんだ? 一体何のために)
翌朝、純は後藤の家に向かった。後藤は思っていた以上に冷静に言う。
「昨日、夢で太一郎に会った。もう二度とあんなことはしないと誓ったよ」
姫小路なりの復讐が遂げられた。夢で恐ろしい目にあった後藤は改心しただろう。
「その気持ちを絶対に忘れないで生きろよ」
後藤は後日、弟を連れて比米家に行った。死んだ太一郎に線香を上げにいったのだ。
「あら、後藤くん。お兄さんも一緒なのね」
「仏壇に手を合わせても良いですか?」
「もちろんよ、今日は来てくれてありがとう」
後藤の中で込み上げるものがあった。手土産を太一郎の母に渡し、手を合わせる。後藤は少しでも供養になれば良いと思っていた。
「あいつだ……事故で死んだ太一郎が呪ってるんだ」
表向き、太一郎は車に撥ねられ死亡した事になっている。ガタガタと布団の中で震える。いつ目の前に現れてもおかしくないと感じていた。母親が部屋に入ってくる。
「お友達が来てるけど……緑沢中の子」
姫小路が現れてから、純は後藤の家に来ていた。青崎の権力で家を割り出し、姫小路に何かさせる前に結界を張りに来たのだ。
「アンタ……大会の」
以前、大会で見たときよりもやつれている。見る影もないほどに。
「状況が変わって来てな、お前の周囲で知らん人が話しかけに来たことあるか?」
「あ、ある……太一郎の親戚とかいう奴」
(元凶を探してると言いながら、もう既に接触してるじゃねぇか)
「お前さ、幽霊のこととか……どう思ってる?」
唐突な純の質問に後藤は戸惑ったが、すぐに答えた。
「信じてる……というか今までそれで勝ってきたもんだし」
「変な話に聞こえるかも知れないが、太一郎は事故で死んだんじゃない」
純は後藤に真実を話すことに決めた。事故で死んだことになっている太一郎は、実は間違った能力の使い過ぎにより、闇に引き込まれて死亡したこと。そして死の真相を知った太一郎の親族が、原因を作った後藤に復讐をしようとしていること。
「信じられないだろうが、絶対俺たちが何とかするから」
「そうか……全部俺のせいだったんだな」
(全く反省してなかったらほっとこうと思っていたが)
後藤はかなり反省しているようだった。純はそれを見てから部屋の四隅に護符を設置した。後藤は純に問う。
「お前は一体何者なんだ」
「緑沢中のただの怪奇研究部員さ」
深夜、夢の中で後藤は太一郎に会った。二人だけの全く色のない世界だった。太一郎は後藤を指差し、言う。
「お前だけ……お前だけ罰を与えられてない」
太一郎が後藤から下の地面を指差し、その地面から無数の真っ黒い手が伸びてきた。後藤を地面に引き摺り込もうとしている。
「お前も一緒に苦しめばいい……地獄の底で」
「た、太一郎……」
後藤は必死に叫んだ。今までの悪行、その全てを太一郎になすりつけたこと。必死に謝った。
「まさか、こんなことになるなんて……分かってなかった! お前だけ苦しめた、悔やんでも悔やみきれないのは分かってる。本当にごめん! 申し訳ございませんでした!」
黒い手は数を増し、後藤を包み込んだ。そして地底に引き摺り込む。
ハッと飛び起きると、そこはベッドの上だった。
「あ、あれ。生きてる?」
後藤の夢に何者かの侵入があった三十分前、結界に異常を感じた純は一目散に後藤の家に向かった。案の定、後藤の家の前には知らない女性がいた。
「もしかして貴女が姫小路の家の人?」
「ふむ、そういうそなたは結界術の佐々木家の者じゃの。この結界の方式、見たことがある」
後藤に復讐を誓っている姫小路、何をしでかすか分からない。
「アンタの言い分は分かるが、ここで後藤の命を狙えばアンタも同類だよ」
「それが何じゃという。我々はとっくのとうに覚悟を決めておる」
一触即発の状況になる純と姫小路、だがそこに思わぬ客が現れることになる。月夜に影が重なり合った。純の背後で深い闇が姿を表す。赤い瞳に漆黒の髪が夜に映えた。
「誰だっ!」
「僕は亜門。今日はね、そちらのレディにお返しをしに来たんだ」
そう言って姫小路を見る謎の人物。姫小路は不快そうに睨みつけた。
「妾が妖嫌いなのは有名だと思っておったが、そうでもなかったようじゃの。のこのこと現れおったわ」
それに笑顔で答える亜門。
「知ってるよ、だから何って感じ。人間如きに僕は殺せない」
冷たい風が三人の間に流れる。「さて、本題だけど」と亜門が手を叩き、注目をさせる。
「魔王でも魔界の出来事を全て把握するのは難しい、だから今まで気づかなかったけど、人間の痕跡があったからね」
亜門は目線を後藤の家に送った。そして続ける。
「お返しに来たって言ったでしょ? 僕は魔界に堕ちた比米太一郎の魂を返しに来たんだ。一度堕ちた人間の魂を人並みに浄化させるのは苦労したけど、これで頭打ちにしてくんない?」
「何とまあ、これは有難いことじゃが……そなたに何のメリットがある」
メリットという言葉に一瞬驚きを見せた亜門だがすぐにニコッと笑い、純を見た。
「イイコトしてみようと思って。ただの気まぐれだよ」
姫小路はふうっとため息をつき、二人を見る。そして約束した。
「復讐は終いじゃ。だが妾なりに罰を与えてやろうぞ。何、ちょっとした灸を据えるだけじゃ」
そう言って姫小路は去っていった。純は亜門を見て思う。
(こいつのことが全く分からない、何者なんだ? 一体何のために)
翌朝、純は後藤の家に向かった。後藤は思っていた以上に冷静に言う。
「昨日、夢で太一郎に会った。もう二度とあんなことはしないと誓ったよ」
姫小路なりの復讐が遂げられた。夢で恐ろしい目にあった後藤は改心しただろう。
「その気持ちを絶対に忘れないで生きろよ」
後藤は後日、弟を連れて比米家に行った。死んだ太一郎に線香を上げにいったのだ。
「あら、後藤くん。お兄さんも一緒なのね」
「仏壇に手を合わせても良いですか?」
「もちろんよ、今日は来てくれてありがとう」
後藤の中で込み上げるものがあった。手土産を太一郎の母に渡し、手を合わせる。後藤は少しでも供養になれば良いと思っていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
鬼の御宿の嫁入り狐
梅野小吹
キャラ文芸
【書籍化します!】【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】
鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。
彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。
優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。
「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」
劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。
そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?
育ててくれた鬼の家族。
自分と同じ妖狐の一族。
腹部に残る火傷痕。
人々が語る『狐の嫁入り』──。
空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
彩鬼万華鏡奇譚 天の足夜のきせきがたり
響 蒼華
キャラ文芸
元は令嬢だったあやめは、現在、女中としてある作家の家で働いていた。
紡ぐ文章は美しく、されど生活能力皆無な締め切り破りの問題児である玄鳥。
手のかかる雇い主の元の面倒見ながら忙しく過ごす日々、ある時あやめは一つの万華鏡を見つける。
持ち主を失ってから色を無くした、何も映さない万華鏡。
その日から、月の美しい夜に玄鳥は物語をあやめに聞かせるようになる。
彩の名を持つ鬼と人との不思議な恋物語、それが語られる度に万華鏡は色を取り戻していき……。
過去と現在とが触れあい絡めとりながら、全ては一つへと収束していく――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
イラスト:Suico 様
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる