私達、怪奇研究部!!

たけまる

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京子・ルルカ編

第20怪

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 カーテンの閉め切った薄暗い自室に後藤はいた。ここ数日で後藤の周りでは奇妙なことが立て続けに起きていた。下駄箱にカエルの死骸が置いてあったり、下校中誰かにつけられているように感じたり、毎日誰かに見張られているように感じていた。

「あいつだ……事故で死んだ太一郎が呪ってるんだ」

 表向き、太一郎は車に撥ねられ死亡した事になっている。ガタガタと布団の中で震える。いつ目の前に現れてもおかしくないと感じていた。母親が部屋に入ってくる。

「お友達が来てるけど……緑沢中の子」



 姫小路が現れてから、純は後藤の家に来ていた。青崎の権力で家を割り出し、姫小路に何かさせる前に結界を張りに来たのだ。

「アンタ……大会の」

 以前、大会で見たときよりもやつれている。見る影もないほどに。

「状況が変わって来てな、お前の周囲で知らん人が話しかけに来たことあるか?」

「あ、ある……太一郎の親戚とかいう奴」

(元凶を探してると言いながら、もう既に接触してるじゃねぇか)

「お前さ、幽霊のこととか……どう思ってる?」

 唐突な純の質問に後藤は戸惑ったが、すぐに答えた。

「信じてる……というか今までそれで勝ってきたもんだし」

「変な話に聞こえるかも知れないが、太一郎は事故で死んだんじゃない」

 純は後藤に真実を話すことに決めた。事故で死んだことになっている太一郎は、実は間違った能力の使い過ぎにより、闇に引き込まれて死亡したこと。そして死の真相を知った太一郎の親族が、原因を作った後藤に復讐をしようとしていること。

「信じられないだろうが、絶対俺たちが何とかするから」

「そうか……全部俺のせいだったんだな」

(全く反省してなかったらほっとこうと思っていたが)

 後藤はかなり反省しているようだった。純はそれを見てから部屋の四隅に護符を設置した。後藤は純に問う。

「お前は一体何者なんだ」

「緑沢中のただの怪奇研究部員さ」





 深夜、夢の中で後藤は太一郎に会った。二人だけの全く色のない世界だった。太一郎は後藤を指差し、言う。

「お前だけ……お前だけ罰を与えられてない」

 太一郎が後藤から下の地面を指差し、その地面から無数の真っ黒い手が伸びてきた。後藤を地面に引き摺り込もうとしている。

「お前も一緒に苦しめばいい……地獄の底で」

「た、太一郎……」

 後藤は必死に叫んだ。今までの悪行、その全てを太一郎になすりつけたこと。必死に謝った。

「まさか、こんなことになるなんて……分かってなかった! お前だけ苦しめた、悔やんでも悔やみきれないのは分かってる。本当にごめん! 申し訳ございませんでした!」

 黒い手は数を増し、後藤を包み込んだ。そして地底に引き摺り込む。



 ハッと飛び起きると、そこはベッドの上だった。

「あ、あれ。生きてる?」





 後藤の夢に何者かの侵入があった三十分前、結界に異常を感じた純は一目散に後藤の家に向かった。案の定、後藤の家の前には知らない女性がいた。

「もしかして貴女が姫小路の家の人?」

「ふむ、そういうそなたは結界術の佐々木家の者じゃの。この結界の方式、見たことがある」

 後藤に復讐を誓っている姫小路、何をしでかすか分からない。

「アンタの言い分は分かるが、ここで後藤の命を狙えばアンタも同類だよ」

「それが何じゃという。我々はとっくのとうに覚悟を決めておる」

 一触即発の状況になる純と姫小路、だがそこに思わぬ客が現れることになる。月夜に影が重なり合った。純の背後で深い闇が姿を表す。赤い瞳に漆黒の髪が夜に映えた。

「誰だっ!」

「僕は亜門。今日はね、そちらのレディにお返しをしに来たんだ」

 そう言って姫小路を見る謎の人物。姫小路は不快そうに睨みつけた。

「妾が妖嫌いなのは有名だと思っておったが、そうでもなかったようじゃの。のこのこと現れおったわ」

 それに笑顔で答える亜門。

「知ってるよ、だから何って感じ。人間如きに僕は殺せない」

 冷たい風が三人の間に流れる。「さて、本題だけど」と亜門が手を叩き、注目をさせる。

「魔王でも魔界の出来事を全て把握するのは難しい、だから今まで気づかなかったけど、人間の痕跡があったからね」

 亜門は目線を後藤の家に送った。そして続ける。

「お返しに来たって言ったでしょ? 僕は魔界に堕ちた比米太一郎の魂を返しに来たんだ。一度堕ちた人間の魂を人並みに浄化させるのは苦労したけど、これで頭打ちにしてくんない?」

「何とまあ、これは有難いことじゃが……そなたに何のメリットがある」

 メリットという言葉に一瞬驚きを見せた亜門だがすぐにニコッと笑い、純を見た。

「イイコトしてみようと思って。ただの気まぐれだよ」

 姫小路はふうっとため息をつき、二人を見る。そして約束した。

「復讐は終いじゃ。だが妾なりに罰を与えてやろうぞ。何、ちょっとした灸を据えるだけじゃ」

 そう言って姫小路は去っていった。純は亜門を見て思う。

(こいつのことが全く分からない、何者なんだ? 一体何のために)





 翌朝、純は後藤の家に向かった。後藤は思っていた以上に冷静に言う。

「昨日、夢で太一郎に会った。もう二度とあんなことはしないと誓ったよ」

 姫小路なりの復讐が遂げられた。夢で恐ろしい目にあった後藤は改心しただろう。

「その気持ちを絶対に忘れないで生きろよ」



 後藤は後日、弟を連れて比米家に行った。死んだ太一郎に線香を上げにいったのだ。

「あら、後藤くん。お兄さんも一緒なのね」

「仏壇に手を合わせても良いですか?」

「もちろんよ、今日は来てくれてありがとう」

 後藤の中で込み上げるものがあった。手土産を太一郎の母に渡し、手を合わせる。後藤は少しでも供養になれば良いと思っていた。
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