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たびはふたたびの章
第35話 青年はついに魔王城に侵入して王女を探す
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冒険者達は恨めしそうに魔王城を見上げる。
山の一部と化している城には正門以外に出入り口があるようには見えない。
さすがに非常時用に抜け道の類くらいあるのだろうが、そんなものが簡単に見つかるほど現実は甘くない。
(ドットキャラだった頃なら魔王城に重なるだけで中に入れたんだろうなぁ)
かもね。
とはいえ愚痴っていても始まらない。
だいたいにおいてゲーム世界の魔王城は正面突破がお約束じゃないか。
(そういえば、どのゲームでも敵の本拠地って正門から入っていくよな。現実ならあり得ないだろうに。そもそも城なら敵が入れないように対策してるもんじゃないのかね?)
まったくだ。
目の前の城も門が全開である。
もちろん、四人の冒険者は堂々と正門から侵入だ。
ただ、みんな姿を消しちゃいるがな。
ちなみに指輪の魔神がいると騒動になるので指輪に戻ってもらっている。
じゃあ、どうやって姿が見えない四人は集団行動をとっているかといえば、実は魔神の力である。
前夜、対策を話し合っている際に知れた魔人の力の一端「ものに魔力を込めることができる能力」で、小石に念話の魔法をかけてそれぞれが握っているのである。
トランシーバーみたいになものだね。
『こんな便利な魔法があるなら最初から使ってればよかったのに』
『知らなかったのよ。こんな魔法があるなんて。それも魔人が使えるだなんてさ』
『便利だからといって雑談に使うなんて、緊張感が足りないぞ』
『ソフィアは相変わらずお堅いなぁ』
『なっ……』
『まぁまぁ、まずは魔王に囚われているというクリスティーン王女を見つけないと』
『ビルヒーの言う通りだな』
城内はレイトが想像していたよりもずっと単純な構造になっていた。
(城の中が迷路になっているなんて誰が考えたんだろう?)
ほんとだね。
王様が住む城が迷路になってたら住むの大変だよね。
でも、日本の城はトラップだらけの迷路だねぇ。
ま、他の国と違って城郭都市が発展しなかったんで「城」の意味と機能が少し違うんだろうけど。
とはいえ魔王城は半端ない広さで、迷路じゃなくても探索するのは大変だったけれど、そうはいってもあくまで魔王の住む場所「居城」である。
魔王の居城もレイトの想像の範疇の建物であり、基本構造はヨーロッパの王侯貴族の住居のそれと大差はなく、一応城としての体裁を保つ衛兵の詰所や執務室、応接室など為政者としての仕事部屋があり、寝室などがあるばかり。
どんなに広かろうと半日もあれば目的の場所に辿り着ける。
しかしそれは避けられない戦いのきっかけでもあった。
囚われの王女は魔王の居住スペースからは離れた場所にあるだろう幽閉用の客室に、二体のデーモンに見張られ閉じ込められていた。
『下位デーモンね』
アシュレイが念話で語りかけてくる。
『この戦闘は避けられそうにないな』
『なるべく一撃で倒しておきたいね』
『部屋の中はクリスティーン王女一人なのでしょうか?』
『どうだろう? ただ、拐われた時すでに光の巫女として力が覚醒し始めていたことを考えると、魔王以外の魔族がクリスティーンに近づけるかはあやしいと思うな』
レイトの言う通り、魔王の攻撃でさえ阻む光の巫女の障壁が魔王以外の魔族に破れるとは思えない。
ただ、クリスティーンがどのように囚われているかは判らない。
『考えてたって埒はあかない。覚悟を決めていくぞ』
ソフィアの檄に覚悟を決めた四人はそれぞれに武器を手に構える。
『先制はあたしに任せな』
ヴァネッサがいう。
肩を回しながらいっているんじゃないかとレイトに思わせる言い草だ
『同時がいいんじゃないか?』
と、レイトが訊ねたが、
『この石を握ってなきゃ念話ってやつができないんだから、同時には難しいな』
と、却下される。
そりゃそうだ。
『じゃあ私がヴァネッサが攻撃をしたのを合図に右側のデーモンを倒そう』
『ってことはあたしは左側のやつを倒しゃいいんだね?』
『向かって左側ね』
『向かって、ね』
話し合いがすんで二人が忍び足で移動する。
『じゃあ私とレイトは魔法の準備ね。魔法を唱えた瞬間に姿が現れるからそのつもりで』
『了解』
レイトは握っていた小石を懐にしまい、その時を待つ。
デーモンの短い悲鳴と同時にヴァネッサが姿を現す。
喉を斬り裂かれたデーモンは血飛沫は派手に噴き出すが叫ぶことができない。
突然のことに驚いたもう一体のデーモンも、背後から延髄を斬られて絶命する。
「それにしても使ってるこっちがびっくりするほどの斬れ味だね」
と、ヴァネッサが唸るほどである。
相手はレッサーとはいえデーモンだ。
これまでの戦いでは一撃必殺なんてできた試しがない。
もちろん、必殺技であれば文字通り一撃で必殺できたのだろうけれど、デメリットも小さくない必殺技の使用なんてボス戦でもなければ選択しないだろう。
それが、大型の武器を振るうパワーファイターのヴァネッサのみならず、レイトよりも非力なソフィアも一振りでデーモンを屠ったのだから、その切れ味に驚嘆しないわけにいかない。
ヴァネッサが二体のデーモンが完全に絶命しているのを確認したところで、アシュレイが開錠の魔法でドアを開ける。
「姫っ!」
ソフィアが我先にと部屋の中へ入る。
レイト達も後に続くと、そこにはクリスティーンではなく華奢なデーモンが一体、部屋の中央に立っていた。
「貴様何者!?」
「それはこちらのセリフだ。よくも人の分際でこの魔王城に侵入してきたものだ。それもたった三人で……いや?」
そういうと、何かの魔法を唱え始める。
「なるほど、姿を消す魔法か。姑息な」
デーモンは再び別の魔法を唱える。
すると、レイトとビルヒーの姿が現れた。
「それにしても五人とは……ずいぶん舐められたものだ」
そして三度魔法を唱え始める。
「まずい、攻撃魔法よ!」
アシュレイの警告にレイト達が行動を起こす。
ソフィアとヴァネッサが左右に散開する。
レイトはビルヒーとアシュレイを庇うように移動するとレジストマジックの魔法を唱える。
庇われる二人もそれぞれに魔法を唱え出す。
魔法合戦は、神への祈りで発動するビルヒーのブレッシングが最初に発動した。
次に攻撃魔法より防衛魔法の方が発動が早いのか? はたまた主人公補正なのか? レイトのレジストマジックが発動する。
(これで最悪の事態は避けられるはずだ)
グッジョブだ、レイト!
さすがに後から唱え出したアシュレイがデーモンに勝つことはできなかったらしい。
デーモンの攻撃魔法はアイススピア。
これまでアシュレイの使ってきたアイススピアよりサイズも数も多い。
その全てをレジストすることは無理だったが、レイトの魔法はその大半を防ぎ、体を張って被弾したことで後ろの二人を無傷で守ることができた。
アシュレイが放ったのは得意のマジックミサイルだ。
同時に七本を生み出し発射する。
炎や氷などに変換して放つ他の魔法と異なり、純粋な攻撃魔力の塊である魔法の矢は標的を外すことがない。
全弾被弾したデーモンがくぐもった呻き声を漏らす。
そこにソフィアが斬りかかる。
それをなんとか避けたデーモンだったが、半拍遅れて迫るヴァネッサの剣を避けきることはできなかったようだ。
ずいぶんとうまく機能する連携である。
とはいえ敵もさるもの、傷は浅くまだまだ倒れてはくれそうにない。
「人の分際でっ!」
華奢な形で次々と魔法を使っていたデーモンを誰が肉体派じゃないと思った?
なかなかどうして近接戦にも長けているようだぞ。
山の一部と化している城には正門以外に出入り口があるようには見えない。
さすがに非常時用に抜け道の類くらいあるのだろうが、そんなものが簡単に見つかるほど現実は甘くない。
(ドットキャラだった頃なら魔王城に重なるだけで中に入れたんだろうなぁ)
かもね。
とはいえ愚痴っていても始まらない。
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もちろん、四人の冒険者は堂々と正門から侵入だ。
ただ、みんな姿を消しちゃいるがな。
ちなみに指輪の魔神がいると騒動になるので指輪に戻ってもらっている。
じゃあ、どうやって姿が見えない四人は集団行動をとっているかといえば、実は魔神の力である。
前夜、対策を話し合っている際に知れた魔人の力の一端「ものに魔力を込めることができる能力」で、小石に念話の魔法をかけてそれぞれが握っているのである。
トランシーバーみたいになものだね。
『こんな便利な魔法があるなら最初から使ってればよかったのに』
『知らなかったのよ。こんな魔法があるなんて。それも魔人が使えるだなんてさ』
『便利だからといって雑談に使うなんて、緊張感が足りないぞ』
『ソフィアは相変わらずお堅いなぁ』
『なっ……』
『まぁまぁ、まずは魔王に囚われているというクリスティーン王女を見つけないと』
『ビルヒーの言う通りだな』
城内はレイトが想像していたよりもずっと単純な構造になっていた。
(城の中が迷路になっているなんて誰が考えたんだろう?)
ほんとだね。
王様が住む城が迷路になってたら住むの大変だよね。
でも、日本の城はトラップだらけの迷路だねぇ。
ま、他の国と違って城郭都市が発展しなかったんで「城」の意味と機能が少し違うんだろうけど。
とはいえ魔王城は半端ない広さで、迷路じゃなくても探索するのは大変だったけれど、そうはいってもあくまで魔王の住む場所「居城」である。
魔王の居城もレイトの想像の範疇の建物であり、基本構造はヨーロッパの王侯貴族の住居のそれと大差はなく、一応城としての体裁を保つ衛兵の詰所や執務室、応接室など為政者としての仕事部屋があり、寝室などがあるばかり。
どんなに広かろうと半日もあれば目的の場所に辿り着ける。
しかしそれは避けられない戦いのきっかけでもあった。
囚われの王女は魔王の居住スペースからは離れた場所にあるだろう幽閉用の客室に、二体のデーモンに見張られ閉じ込められていた。
『下位デーモンね』
アシュレイが念話で語りかけてくる。
『この戦闘は避けられそうにないな』
『なるべく一撃で倒しておきたいね』
『部屋の中はクリスティーン王女一人なのでしょうか?』
『どうだろう? ただ、拐われた時すでに光の巫女として力が覚醒し始めていたことを考えると、魔王以外の魔族がクリスティーンに近づけるかはあやしいと思うな』
レイトの言う通り、魔王の攻撃でさえ阻む光の巫女の障壁が魔王以外の魔族に破れるとは思えない。
ただ、クリスティーンがどのように囚われているかは判らない。
『考えてたって埒はあかない。覚悟を決めていくぞ』
ソフィアの檄に覚悟を決めた四人はそれぞれに武器を手に構える。
『先制はあたしに任せな』
ヴァネッサがいう。
肩を回しながらいっているんじゃないかとレイトに思わせる言い草だ
『同時がいいんじゃないか?』
と、レイトが訊ねたが、
『この石を握ってなきゃ念話ってやつができないんだから、同時には難しいな』
と、却下される。
そりゃそうだ。
『じゃあ私がヴァネッサが攻撃をしたのを合図に右側のデーモンを倒そう』
『ってことはあたしは左側のやつを倒しゃいいんだね?』
『向かって左側ね』
『向かって、ね』
話し合いがすんで二人が忍び足で移動する。
『じゃあ私とレイトは魔法の準備ね。魔法を唱えた瞬間に姿が現れるからそのつもりで』
『了解』
レイトは握っていた小石を懐にしまい、その時を待つ。
デーモンの短い悲鳴と同時にヴァネッサが姿を現す。
喉を斬り裂かれたデーモンは血飛沫は派手に噴き出すが叫ぶことができない。
突然のことに驚いたもう一体のデーモンも、背後から延髄を斬られて絶命する。
「それにしても使ってるこっちがびっくりするほどの斬れ味だね」
と、ヴァネッサが唸るほどである。
相手はレッサーとはいえデーモンだ。
これまでの戦いでは一撃必殺なんてできた試しがない。
もちろん、必殺技であれば文字通り一撃で必殺できたのだろうけれど、デメリットも小さくない必殺技の使用なんてボス戦でもなければ選択しないだろう。
それが、大型の武器を振るうパワーファイターのヴァネッサのみならず、レイトよりも非力なソフィアも一振りでデーモンを屠ったのだから、その切れ味に驚嘆しないわけにいかない。
ヴァネッサが二体のデーモンが完全に絶命しているのを確認したところで、アシュレイが開錠の魔法でドアを開ける。
「姫っ!」
ソフィアが我先にと部屋の中へ入る。
レイト達も後に続くと、そこにはクリスティーンではなく華奢なデーモンが一体、部屋の中央に立っていた。
「貴様何者!?」
「それはこちらのセリフだ。よくも人の分際でこの魔王城に侵入してきたものだ。それもたった三人で……いや?」
そういうと、何かの魔法を唱え始める。
「なるほど、姿を消す魔法か。姑息な」
デーモンは再び別の魔法を唱える。
すると、レイトとビルヒーの姿が現れた。
「それにしても五人とは……ずいぶん舐められたものだ」
そして三度魔法を唱え始める。
「まずい、攻撃魔法よ!」
アシュレイの警告にレイト達が行動を起こす。
ソフィアとヴァネッサが左右に散開する。
レイトはビルヒーとアシュレイを庇うように移動するとレジストマジックの魔法を唱える。
庇われる二人もそれぞれに魔法を唱え出す。
魔法合戦は、神への祈りで発動するビルヒーのブレッシングが最初に発動した。
次に攻撃魔法より防衛魔法の方が発動が早いのか? はたまた主人公補正なのか? レイトのレジストマジックが発動する。
(これで最悪の事態は避けられるはずだ)
グッジョブだ、レイト!
さすがに後から唱え出したアシュレイがデーモンに勝つことはできなかったらしい。
デーモンの攻撃魔法はアイススピア。
これまでアシュレイの使ってきたアイススピアよりサイズも数も多い。
その全てをレジストすることは無理だったが、レイトの魔法はその大半を防ぎ、体を張って被弾したことで後ろの二人を無傷で守ることができた。
アシュレイが放ったのは得意のマジックミサイルだ。
同時に七本を生み出し発射する。
炎や氷などに変換して放つ他の魔法と異なり、純粋な攻撃魔力の塊である魔法の矢は標的を外すことがない。
全弾被弾したデーモンがくぐもった呻き声を漏らす。
そこにソフィアが斬りかかる。
それをなんとか避けたデーモンだったが、半拍遅れて迫るヴァネッサの剣を避けきることはできなかったようだ。
ずいぶんとうまく機能する連携である。
とはいえ敵もさるもの、傷は浅くまだまだ倒れてはくれそうにない。
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