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フィールドアドベンチャーの章

第21話 青年は王女とちょっぴり親密になる

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 クレリックのライアンを失ったパーティは苦戦を強いられた。
 サラマンダー以外には特にモンスターもいないフレイテン火山はまだよかった。
 平地に戻ると攻撃的なモンスターであるゴブリンやオークがかなりの集団で襲ってくる。
 町までの二日間で遭遇した集団は七つ。
 レイトも数が多すぎて正確には数えていなかったのだけれども、おそらく一二〇体はくだらないだろう。
 一体一体は決して強くない。
 しかし、そんな弱いモンスターといえども一度に一〇も二〇もの集団で襲ってくるとなると話は違ってくる。
 しかも、こちらは治癒の中核だったライアンがいないのだ。
 必然的にクリスティーンの負担が増すことになる。
 クリスは完治は求めず最低限パフォーマンスが落ちない程度の回復にとどめさせた。
 おかげで町についた頃の彼らは満身創痍の状態だった。
 冒険者組合ギルドで戦利品の換金を済ませ、そこで得たお金で治癒術師に傷の治癒を頼み、宿についた。

 その翌日、レイトとクリスの部屋をヴァネッサが訪うた。

「どうした、ヴァネッサ?」

「ああ、その……クリスティーンがな、すごい熱いんだ」

「熱い?」

 うん、そう聞き返すか、クリス。

「どんな状態なんだ? 詳しく教えてくれないか」

 さすが現代人レイト、なんとなく判ったようだね。

「呼吸が浅くて汗がいっぱいで、熱いんだ」

 レイトはクリスと見合ってガタと椅子を倒しながら部屋を出る。
 クリスはノックもせずにクリスティーンの部屋へとずかずか入っていく。

(デリカシーがないなぁ)

 だね。
 クリスは苦しそうなクリスティーンの額に手を当て、深刻そうに腕を組む。

「治癒の魔法で回復しているはずなのに、これは一体どういうことだ? なにかの呪いか?」

「なにが呪いだよ。疲労によるダウンだろう。長旅で精神的にも肉体的にも疲れていたんだ。しかし、二、三日は休ませる必要があるだろうな」

「そうか……疲れとは魔法でも治らないものなんだな。仕方がない。早く城に戻りたいが、姫の無事が最優先だ。姫の体調が完全に回復するまでここにとうりゅうしよう」

 そうと決まったらと、レイトは買い物に出る。

「あたしも付き合っていいかい?」

 なんて言いながらヴァネッサもついてきた。
 クリスはなんだかんだで騎士らしく、今日は一日クリスティーンの看病をするそうだ。

 まず、向かったのは防具屋だ。
 レイトは焼け焦げたり傷だらけになっている鎧と盾を防具屋の前に出してこう訊く。

「直すのと買い換えるのとじゃどっちが安く上がる?」

 訊ねられた防具屋の親父は拳で叩いたり持ち上げてひっくり返したりした後、大きくため息をついた。

「買い替えだな。特に鎧は寿命だよ。直したところでいくらもしないうちにまた壊れるだろう」

「そうかぁ」

「武具防具は消耗品だ。どんなにメンテナンスしたところで、使えば壊れる。大事にしたいなら使わないことだな」

「使わないですみゃあそれに越したことはないんだろうけど、戦闘になったらそうもいかないからなぁ」

 それは、今回の旅で身に染みて実感したことだった。

「だが、隣のねーちゃんの鎧はあんたのと違って傷ついた様子はねーぞ。相当実力に差があるんじゃねーのか?」

 そう言われてレイトはちょっとムッとした。
 今でこそ異世界で冒険者なんてやってはいるけれど、もとをただせば人間のまだできていない大学生だ。
 ヴァネッサの鎧は魔力的防御力が付与された「アマゾネスの胸当て+1」である。
 そんな一級品の鎧と市販の鎧の損傷具合を見比べて戦士としての実力を測られるなんて心外以外のなにものでもない。
 レイトはドンと金の入った袋をカウンターに置いて

「これで買えるもっともいい鎧と盾をくれ」

 と、ぶっきらぼうにいう。

「おお、気前がいいな。しかし、自分の命を預ける防具に出す金をケチらないのは冒険者として見込みがあるぞ。どれ、少しサービスしてやろう」

 金額を確認してホクホクと奥の部屋へ行くと、真新しい鎧と盾を抱えて戻ってきた。

「鎧は俺の作った最高傑作だ。盾もA級品だ」

 たしかに悪くない。
 しかし、本当なら「鋭利な鋼鉄の剣・鋼鉄の鎧・鋼鉄の盾+1・鋼鉄の兜」という地下迷宮ダンジョンで手に入れたクリス曰く「国宝級」の装備を身に帯びていたレイトである。
 なんとなく納得いかない気分が残るのは仕方がない。

 次に武器屋へ行く。
 ここでもカウンターに出した剣を散々な言われようでこき下ろされ、憤慨しつつ金を積んで二本の剣を購入した。

「散財したねぇ」

「本当だよ」

「よし、冒険の消耗品はあたしが全部出してやろう。どうせあたしにゃ欲しいもんもないしね」

 ということで、食料以外の旅の準備をして宿へ戻る。
 クリスティーンの様子をうかがいに行くと、まだ熱は高いもののだいぶ容体が落ち着いたらしく、小さな寝息を立てて穏やかに眠っていた。

「代わるよ」

「う・うむ……」

 クリスは後ろ髪ひかれるように部屋を出て行った。

「うーむ、とはいったものの……」

 女部屋にいるのは案外いたたまれないなと、レイトは考えてしまった。

「どうしたのさ」

「いやぁ……男として女性の部屋にいるってのはどうも居心地が悪いというか……」

「なにをいまさら」

 確かにいまさらだな、レイト。
 とはいえ、視覚的にデフォルメ二頭身ドットキャラだった頃とは違い、今は七頭身リアル系ポリゴンキャラで見えている。
 そりゃあソワソワもしますわな。

「で、あたしはなにをすればいいんだい?」

「あ、ああ。じゃあ、洗面器の水をかえてきてくれないか?」

「水をかえてくりゃいいんだね? お安い御用だ」

「ありがとう。よろしく頼むよ」

「意外というのは失礼ですが、細やかな気遣いのできる方ですよね」
 ヴァネッサが部屋を出ていくと、クリスティーンが声をかけてきた。

「起きてたの?」

 たぶん質問には微笑で答えてくれたんだと思うが、なにぶんにもレイトの視覚的にはレイトの腰掛けているイスの横にあるベッドに寝ているキャラがわずかに首を振ったようにしか見えない。

「ごめんなさい」

「なにが?」

「私が非力なばかりにライアンを助けることができなかったばかりか、こんな状態になってしまって……」

「君のせいじゃないよ。それをいうならライアンの死は俺のせいってことになる」

「…………」

「なにかして欲しいことはあるかい?」

「…………」

「なんでも言って?」

「本当になんでもいいですか?」

「え? ああ……俺にできることだよ?」

「じゃあ……」

 と言って、クリスティーンは掛け布団から手をそっと差し出した。

「私が眠りにつくまで手を、握っていてもらえませんか?」

 おそらく、彼女は人の温もりを感じていたいんだろう。
 疲弊した精神にそっと寄り添ってくれる心優しい身近な誰か。
 レイト、君がその誰かに選ばれたんだ。
 レイトが優しく手を握ると、熱を持った柔らかな手が軽く握り返してくる感触が伝わってきた。
 きっと、安心しきった表情で目を閉じていることだろう。
 なぜかそんな表情がありありと目に浮かぶようなレイトであった。

(これで視覚がこんなじゃなかったらなぁ……)

 レイト、それを言っちゃあおしめぇよ。
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