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フィールドアドベンチャーの章
第17話 青年は価値観の違いを認識する
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ガゼラクトは人口三千人、三分の一の千人が兵士という砦の町だ。
中に入ってまず驚いたのが2D四頭身が、懐かしいくらい粗いポリゴンキャラに変わったことだった。
そこかよ、レイト。
(これならまだ2Dだった方がよかった)
なんて思ってもしかたなくはある。
なにせヴァネッサの大きなおっぱいが丸みのかけらもない三角錐になってしまっているし、クリスティーンにいたっては女性らしいフォルムを作る努力を放棄したんじゃないかというまな板表現だ。
フィールドも3Dで描画されている。
ワイヤーフレームの壁と天井に囲まれていたダンジョンと違ってパターンこそ少ないもののテクスチャを貼られた街並みは、とりあえず街の雰囲気が楽しめる。
しかし、やっぱり自分の姿を背後から見るTPSで、さらに重力感もなく地に足がついていないブレイクダンスみたいな動きがぎこちなくて、ついつい自分の体を動かすのもそのイメージに引っ張られそうになるから頭を抱えたくなるのもしかたない。
鎧を着た兵士たちはフルフェイスのカブトまで被って個性がなく、道行くモブも類型的でおじさんは典型的なおじさんだし、おばさんもテンプレートのようなおばさんだ。
(どいつもこいつも2Pカラーみたいに服が色違いなだけとか、手抜きすぎだろ)
などと心の中で悪態をつくのは、レトロゲームオタクではあってもそこは21世紀生まれってことなのだろう。
彼らはここで三泊した。
町についた翌日は八日間の冒険の疲れを癒すための休養日に当てた。
……のにだ。
クリスは自慢がしたかったのか、クリスティーンを連れて守備隊長や町長のところへ出かけて行く。
クリスティーンは泣き言ひとつ愚痴一つ漏らすことなく公務として受け入れる。
「よくできたお姫様だと言いたいよ」
「別に、当然じゃないですか? それが王族の勤めでしょう」
ライアンがそういうところを見るとこの世界ではそういうものなのか?
なんて「時代と世界が違う」と釈然としないまま納得するしかないレイトである。
むしろ
「ま、あたしは嫌だね。好き勝手に生きたい」
というヴァネッサの方がレイトの考えに近い。
もっとも、感情とは切り離して有益なこともあった。
「冒険者ライセンス?」
「ああ。通常、王国内でモンスターなどから戦利品を得たとしてもそれは王国の財産であるとして、国庫に収める義務がある。しかし、冒険者ギルドに所属する冒険者は国内のモンスターを駆除する報酬としてギルドに利益の二割を収めてあとは私財としていいことになっているのだ」
これまたいかにもRPGな設定だとレイトはクリスから手渡された認識票をしげしげと眺める。
「で、俺とヴァネッサとライアンを登録したのか」
「ああ」
「クリスやクリスティーンは?」
と、問いかけると、クリスティーンがクスクスと笑い出し、クリスは呆れた顔を彼に向ける。
「俺は騎士だ。モンスターと戦うのは騎士の義務であって私腹を肥やすためではない」
「はぁ、ご立派なことで……で、クリスティーンは?」
「馬鹿かお前は。姫に冒険者などさせられるか!」
謎理論である。
(じゃあ、ダンジョンでの利益はどうなんだよ?)
というもっともな疑問はしかし、ぐっと飲み込むレイトだった。
レイトにもだんだん判ってきたのだ。
この世界の常識が自分の持っている21世紀日本の常識で考えてはいけない問題だってことを。
考慮にいれるなら戦国時代以前の、人の命がとにかく軽かった死生観と「高貴さは強制する」という義務感だ。
クリスはそこに忠実なだけだと解せば、なるほど下々であるレイトたちに尊大でクリスティーンが彼の装備に金を出すのを当然と考えることに理はある。
そして当然、彼はその代償としてモンスターとは積極的に戦うし、命を投げ出してもクリスティーンを守るだろう。
そう考えればクリスに対する嫌悪感も和らぐレイトであった。
とはいえ、クリスティーンを独り占め(と、レイトは感じている)することには嫉妬を禁じ得ない。
翌日の買い出しも、レイトはヴァネッサ、ライアンと出かけることになったのだから、若い男として多めに見てあげて欲しい。
買い物は主に消耗品の補充である。
砦の町だけあってなぜか一軒ずつしかないのはこの際置いておいて、武器屋も防具屋も道具屋も充実している。
レイトはありがたいことにゲームのように性能を見比べることができることに感謝しながら、自分の装備をグレードアップする。
ヴァネッサは自身の装備をメンテナンスするようだ。
ライアンは元ボスプリーストだけあって装備を変更することはしないようだ。
「ダンジョンでドロップした装備の方がよかったのになぁ……」
と嘆くレイトの肩を叩く粗ポリゴンの5頭身ヴァネッサの眼差しが生暖かい気がするのは、気のせいじゃなかったんじゃないかな?
翌日、王都への道へ続く門を出る冒険者たちを砦の守備隊長と町長が見送りに出てくれた。
「道中お気をつけて」
と町長がクリスティーンに向けて挨拶をする。
「商隊の報告ではサラマンダーの生息地にドラゴンが出たという未確認情報があります。十分気をつけてください」
と守備隊長はクリスに注意を促す。
それが当たり前と思っているライアンやそんなところに頓着しないヴァネッサと違い、ここのところまったく主人公感のないレイトはちょっといじけ気味に拗ねている。
本ト、やーね、未成熟の男って。
町を出て街道を進む冒険者たち。
幾らもいかないうちにちょっとした違和感にレイトは気づいた。
そう、例によってビジュアルがアップデートされていたのだ。
なぜすぐに気づかなかったのか?
それは視界に仲間たちがあまり入ってこなかったからだ。
え?
どうしてかって?
そりゃ、ガゼラクトの町長がクリスティーンのためにと新しい馬車を用意してくれたからだよ。
寂れた村の荷馬車から箱馬車になって四人はその中に乗り込んでいたので気づかなかったってわけだ。
単純にポリゴン数が一〇〇から一〇〇〇くらいになっていると見て間違いない。
10倍の表現力はヴァネッサの魅力的なナイスバディをより強調し、クリスティーンを可憐に表現している。
頭身も現実感を感じさせる六頭身(ライアン)から七頭身あり、2D四頭身のデフォルメな可愛らしさとはまた違う好感をレイトに感じさせる。
それでは現在のパーティの装備を確認しよう。
●レイト
鋼鉄の剣
鉄の鎧
鉄の盾
鉄の兜
耐火マント
大きな背負いカバン
力の石
知恵の石
守りの石
加護の十字架
HPポーション2
MPポーション5
解毒薬3
金貨8,147GP
宝石7
鋭利な鉄の剣
●クリスティーン
木製ワンド
王族のドレス
耐火マント
神のシンボル
豪華なポーチ
HPポーション5
MPポーション6
金貨842GP
●ヴァネッサ
アマゾネスの大剣+2
アマゾネスの胸当て+1
耐火マント
質素なかつぎ袋
HPポーション2
MPポーション2
金貨4,597GP
●ライアン
鋼鉄のメイス
頑丈な鎧
耐火マント
神のシンボル
背負い袋
HPポーション4
MPポーション9
金貨5,522GP
●クリス
騎士の剣
騎士の鎧
騎士の盾
騎士の兜
耐火マント
冒険道具一式は箱馬車の中だ!
中に入ってまず驚いたのが2D四頭身が、懐かしいくらい粗いポリゴンキャラに変わったことだった。
そこかよ、レイト。
(これならまだ2Dだった方がよかった)
なんて思ってもしかたなくはある。
なにせヴァネッサの大きなおっぱいが丸みのかけらもない三角錐になってしまっているし、クリスティーンにいたっては女性らしいフォルムを作る努力を放棄したんじゃないかというまな板表現だ。
フィールドも3Dで描画されている。
ワイヤーフレームの壁と天井に囲まれていたダンジョンと違ってパターンこそ少ないもののテクスチャを貼られた街並みは、とりあえず街の雰囲気が楽しめる。
しかし、やっぱり自分の姿を背後から見るTPSで、さらに重力感もなく地に足がついていないブレイクダンスみたいな動きがぎこちなくて、ついつい自分の体を動かすのもそのイメージに引っ張られそうになるから頭を抱えたくなるのもしかたない。
鎧を着た兵士たちはフルフェイスのカブトまで被って個性がなく、道行くモブも類型的でおじさんは典型的なおじさんだし、おばさんもテンプレートのようなおばさんだ。
(どいつもこいつも2Pカラーみたいに服が色違いなだけとか、手抜きすぎだろ)
などと心の中で悪態をつくのは、レトロゲームオタクではあってもそこは21世紀生まれってことなのだろう。
彼らはここで三泊した。
町についた翌日は八日間の冒険の疲れを癒すための休養日に当てた。
……のにだ。
クリスは自慢がしたかったのか、クリスティーンを連れて守備隊長や町長のところへ出かけて行く。
クリスティーンは泣き言ひとつ愚痴一つ漏らすことなく公務として受け入れる。
「よくできたお姫様だと言いたいよ」
「別に、当然じゃないですか? それが王族の勤めでしょう」
ライアンがそういうところを見るとこの世界ではそういうものなのか?
なんて「時代と世界が違う」と釈然としないまま納得するしかないレイトである。
むしろ
「ま、あたしは嫌だね。好き勝手に生きたい」
というヴァネッサの方がレイトの考えに近い。
もっとも、感情とは切り離して有益なこともあった。
「冒険者ライセンス?」
「ああ。通常、王国内でモンスターなどから戦利品を得たとしてもそれは王国の財産であるとして、国庫に収める義務がある。しかし、冒険者ギルドに所属する冒険者は国内のモンスターを駆除する報酬としてギルドに利益の二割を収めてあとは私財としていいことになっているのだ」
これまたいかにもRPGな設定だとレイトはクリスから手渡された認識票をしげしげと眺める。
「で、俺とヴァネッサとライアンを登録したのか」
「ああ」
「クリスやクリスティーンは?」
と、問いかけると、クリスティーンがクスクスと笑い出し、クリスは呆れた顔を彼に向ける。
「俺は騎士だ。モンスターと戦うのは騎士の義務であって私腹を肥やすためではない」
「はぁ、ご立派なことで……で、クリスティーンは?」
「馬鹿かお前は。姫に冒険者などさせられるか!」
謎理論である。
(じゃあ、ダンジョンでの利益はどうなんだよ?)
というもっともな疑問はしかし、ぐっと飲み込むレイトだった。
レイトにもだんだん判ってきたのだ。
この世界の常識が自分の持っている21世紀日本の常識で考えてはいけない問題だってことを。
考慮にいれるなら戦国時代以前の、人の命がとにかく軽かった死生観と「高貴さは強制する」という義務感だ。
クリスはそこに忠実なだけだと解せば、なるほど下々であるレイトたちに尊大でクリスティーンが彼の装備に金を出すのを当然と考えることに理はある。
そして当然、彼はその代償としてモンスターとは積極的に戦うし、命を投げ出してもクリスティーンを守るだろう。
そう考えればクリスに対する嫌悪感も和らぐレイトであった。
とはいえ、クリスティーンを独り占め(と、レイトは感じている)することには嫉妬を禁じ得ない。
翌日の買い出しも、レイトはヴァネッサ、ライアンと出かけることになったのだから、若い男として多めに見てあげて欲しい。
買い物は主に消耗品の補充である。
砦の町だけあってなぜか一軒ずつしかないのはこの際置いておいて、武器屋も防具屋も道具屋も充実している。
レイトはありがたいことにゲームのように性能を見比べることができることに感謝しながら、自分の装備をグレードアップする。
ヴァネッサは自身の装備をメンテナンスするようだ。
ライアンは元ボスプリーストだけあって装備を変更することはしないようだ。
「ダンジョンでドロップした装備の方がよかったのになぁ……」
と嘆くレイトの肩を叩く粗ポリゴンの5頭身ヴァネッサの眼差しが生暖かい気がするのは、気のせいじゃなかったんじゃないかな?
翌日、王都への道へ続く門を出る冒険者たちを砦の守備隊長と町長が見送りに出てくれた。
「道中お気をつけて」
と町長がクリスティーンに向けて挨拶をする。
「商隊の報告ではサラマンダーの生息地にドラゴンが出たという未確認情報があります。十分気をつけてください」
と守備隊長はクリスに注意を促す。
それが当たり前と思っているライアンやそんなところに頓着しないヴァネッサと違い、ここのところまったく主人公感のないレイトはちょっといじけ気味に拗ねている。
本ト、やーね、未成熟の男って。
町を出て街道を進む冒険者たち。
幾らもいかないうちにちょっとした違和感にレイトは気づいた。
そう、例によってビジュアルがアップデートされていたのだ。
なぜすぐに気づかなかったのか?
それは視界に仲間たちがあまり入ってこなかったからだ。
え?
どうしてかって?
そりゃ、ガゼラクトの町長がクリスティーンのためにと新しい馬車を用意してくれたからだよ。
寂れた村の荷馬車から箱馬車になって四人はその中に乗り込んでいたので気づかなかったってわけだ。
単純にポリゴン数が一〇〇から一〇〇〇くらいになっていると見て間違いない。
10倍の表現力はヴァネッサの魅力的なナイスバディをより強調し、クリスティーンを可憐に表現している。
頭身も現実感を感じさせる六頭身(ライアン)から七頭身あり、2D四頭身のデフォルメな可愛らしさとはまた違う好感をレイトに感じさせる。
それでは現在のパーティの装備を確認しよう。
●レイト
鋼鉄の剣
鉄の鎧
鉄の盾
鉄の兜
耐火マント
大きな背負いカバン
力の石
知恵の石
守りの石
加護の十字架
HPポーション2
MPポーション5
解毒薬3
金貨8,147GP
宝石7
鋭利な鉄の剣
●クリスティーン
木製ワンド
王族のドレス
耐火マント
神のシンボル
豪華なポーチ
HPポーション5
MPポーション6
金貨842GP
●ヴァネッサ
アマゾネスの大剣+2
アマゾネスの胸当て+1
耐火マント
質素なかつぎ袋
HPポーション2
MPポーション2
金貨4,597GP
●ライアン
鋼鉄のメイス
頑丈な鎧
耐火マント
神のシンボル
背負い袋
HPポーション4
MPポーション9
金貨5,522GP
●クリス
騎士の剣
騎士の鎧
騎士の盾
騎士の兜
耐火マント
冒険道具一式は箱馬車の中だ!
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