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㊲剣大会 最終日の衝撃

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 剣大会の最終日が終わって、私とライガはメシ屋の仮店舗にいる。
 営業を終えたばかりのカフェのテーブルの上には、まだたくさんの使用後の皿やコップが残っている。

 店舗内には、ビーとロンといつもの2人、私とライガ、そして見慣れない2人の姿がある。

 ベスト8に残った、コフィナとピーターソンだ。

 コフィナは、私がアマゾネスみたいだと思った女戦士で、ピーターソンは、彼女の双子の兄だそうだ。確かに2人はよく似ている。

 私は、ついさっきに衝撃の事実を知らされた。まあ、何となく感じてたけど。

「つまり、お二人とロンは、私が優勝出来るようにサクラで出場してたってこと? ハッキリ言うと、今回の剣大会はデキレースだったってことよね」
「まあ、そう言われたらそうとも言えるね。だけど、チカ。あんたが弱かったら、この作戦は成り立たなかった訳だし。デキレースというよりは、チーム戦だった、と受け取ってほしいね。優勝してあの無作法な連中のプライドをズタボロにする為に、こちらも連携して戦った。それだけさ」
「そうそう、準決勝で、俺はガチでサンダと戦って負けたし。悔しいけど、そのサンダに勝って優勝したチカは、本当に強いってよくわかったよ」

 ビーの言葉に、ロンも同調する。

 そう、私は優勝したのだ。一応は。

「だけど、本気でやったら、コフィナさんやピーターソンさんの方が強いでしょ。なのに私が優勝って、なんだかなあ」

 結局、コフィナさんとピーターソンさんが、準決勝でワザと負けてくれたお陰で、私とサンダが無事に決勝に進んだ。そういう事らしい。

 なんだ、それ。

「あら、でもチカが出場した目的は、あの男をフルボッコにする為でしょ? あなたは、あなたの目的を果たした。我々は、あなたの実力を知る事ができた。お互いに満足の結果を得られたのよ。結果オーライじゃなくて?」
「は、はい……そう、ですね……」

 妖艶なコフィナさんに、ニッコリ笑顔でそう諭されると、それ以上は何も言えなくなる。

(まあ、確かに。私の剣大会出場の動機は、彼奴等に詫びを入れさせる事で、個人的な強さの証明を求めて出た訳じゃない。結局、サンダもブルガもサンドも一言も謝らなかったけど、湯気がでそうな程悔しがってたから、まあ良しとするか)

 私はオレンジのような柑橘系のジュースを飲みながら、大きなため息をついた。急にここ数日間の疲れがどっとやってきた。

「あの、皆様、色々とご協力いただき有難うございました。また、あらためてお礼に参ります。ライガ、今日は帰ろう。私もう疲れてクタクタだし」
「チカ、お疲れのところ悪いんだけど、本題はこれからなんだよ」

 ビーの真剣な声に、ドキリとする。
 思わずライガの顔を見ると、彼は眉間に皺を寄せながら小さく頷いた。

 先程までの和やかムードが一転、皆の深刻な表情に私は背筋を伸ばし、椅子に座りなおした。

「チカ、前にも少し話したが、私達は北の一族、リーザ一だ。一族は色々な国に散らばっていて、お互いに情報のやり取りをしている。その私達の情報網を、各国の為政者に役立ててもらっている。まあ簡単に言うと、各国に私達の情報を売っている。一般人には内密にしているが、ここ100年以上その体制は継続されてるんだ」
「私とピーターソンはシャムスヌール帝国人よ。私達の家系は北の一族ではないけれど、やはり心威力を持つものが多く、昔からリーザー族と協力関係にあるの。改めてよろしくね、チカ」
「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします……」

 急に舞台が、古風な戦士ものから、スパイの諜報戦へとかわった。なんか、すぐには話について行けない。

「私達の存在意義は、ただひとつ。平和の維持。戦争を煽る為の情報は渡さない。無用な争いを避ける為に活動する。綺麗事に聞こえると思うけど、長年虐げられた歴史を持つ私達一族の鉄則なのさ」
「一年程前から、シャムスヌール帝国内で、不穏な話が聞こえだしたの。平和な状況が続くと、どうしても欲深いバカが一定数出てきちやうのよ。穏やかな日常への感謝を忘れ、己の肥大した権力欲、支配欲を満たすために行動する思慮の浅いバカがね」
「まさか、本当にやるつもりだとは思わなかったけどね。残念ながら、いよいよ現実味を帯びてきちまったんだ」

 ビーとコフィナさんの口から、次々と恐ろしい話が飛び出してくる。

「あの、私、そんな大事なお話を伺って大丈夫なんでしょうか……?」

 恐る恐る、口を挟む。

(こんな国家間の一大事に関わるような事を、いくら公爵令嬢とはいえ、15歳の小娘に話すのはどうかと思うんだけど……)

「申し訳ない、チカ。我々もまだ若いあなたに、このような話を聞かせるのは心苦しいのだが、どうしてもあなたの協力が必要なのだ」

 ピーターソンさんが、そう言いながら頭を下げる。

「え、いえいえ、そんな。……私の、協力……?」
「端的に言うとね、チカ。シャムスヌール帝国の一部の過激派が、ヨーロピアン国への侵略シナリオを書いたの。『ヨーロピアン国で貴族の謀反が起き、黒幕はトウゾウ国だった』っていうストーリーをね」
「ヨーロピアン国の貴族の謀反……!?」

 平和だと思っていたヨーロピアン国に似つかわしくないきな臭い言葉に、私は驚きを隠せない。

(え、ちょっと待って! なに、この展開は……? 謀反って、謀反……。時代小説でよくある、国王やお殿様への裏切りって事よね。現実味がなくて、よくわからんけど。でも、ライガ達は人の考えが読めるんだし、阻止できるんじゃ……)

「そう。その現在進行中のシナリオに、登場人物として選ばれ活動している人間の一人が、チカ。言いにくいんだけど、あんたの家族なんだよ」
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