37 / 74
㊲剣大会 最終日の衝撃
しおりを挟む剣大会の最終日が終わって、私とライガはメシ屋の仮店舗にいる。
営業を終えたばかりのカフェのテーブルの上には、まだたくさんの使用後の皿やコップが残っている。
店舗内には、ビーとロンといつもの2人、私とライガ、そして見慣れない2人の姿がある。
ベスト8に残った、コフィナとピーターソンだ。
コフィナは、私がアマゾネスみたいだと思った女戦士で、ピーターソンは、彼女の双子の兄だそうだ。確かに2人はよく似ている。
私は、ついさっきに衝撃の事実を知らされた。まあ、何となく感じてたけど。
「つまり、お二人とロンは、私が優勝出来るようにサクラで出場してたってこと? ハッキリ言うと、今回の剣大会はデキレースだったってことよね」
「まあ、そう言われたらそうとも言えるね。だけど、チカ。あんたが弱かったら、この作戦は成り立たなかった訳だし。デキレースというよりは、チーム戦だった、と受け取ってほしいね。優勝してあの無作法な連中のプライドをズタボロにする為に、こちらも連携して戦った。それだけさ」
「そうそう、準決勝で、俺はガチでサンダと戦って負けたし。悔しいけど、そのサンダに勝って優勝したチカは、本当に強いってよくわかったよ」
ビーの言葉に、ロンも同調する。
そう、私は優勝したのだ。一応は。
「だけど、本気でやったら、コフィナさんやピーターソンさんの方が強いでしょ。なのに私が優勝って、なんだかなあ」
結局、コフィナさんとピーターソンさんが、準決勝でワザと負けてくれたお陰で、私とサンダが無事に決勝に進んだ。そういう事らしい。
なんだ、それ。
「あら、でもチカが出場した目的は、あの男をフルボッコにする為でしょ? あなたは、あなたの目的を果たした。我々は、あなたの実力を知る事ができた。お互いに満足の結果を得られたのよ。結果オーライじゃなくて?」
「は、はい……そう、ですね……」
妖艶なコフィナさんに、ニッコリ笑顔でそう諭されると、それ以上は何も言えなくなる。
(まあ、確かに。私の剣大会出場の動機は、彼奴等に詫びを入れさせる事で、個人的な強さの証明を求めて出た訳じゃない。結局、サンダもブルガもサンドも一言も謝らなかったけど、湯気がでそうな程悔しがってたから、まあ良しとするか)
私はオレンジのような柑橘系のジュースを飲みながら、大きなため息をついた。急にここ数日間の疲れがどっとやってきた。
「あの、皆様、色々とご協力いただき有難うございました。また、あらためてお礼に参ります。ライガ、今日は帰ろう。私もう疲れてクタクタだし」
「チカ、お疲れのところ悪いんだけど、本題はこれからなんだよ」
ビーの真剣な声に、ドキリとする。
思わずライガの顔を見ると、彼は眉間に皺を寄せながら小さく頷いた。
先程までの和やかムードが一転、皆の深刻な表情に私は背筋を伸ばし、椅子に座りなおした。
「チカ、前にも少し話したが、私達は北の一族、リーザ一だ。一族は色々な国に散らばっていて、お互いに情報のやり取りをしている。その私達の情報網を、各国の為政者に役立ててもらっている。まあ簡単に言うと、各国に私達の情報を売っている。一般人には内密にしているが、ここ100年以上その体制は継続されてるんだ」
「私とピーターソンはシャムスヌール帝国人よ。私達の家系は北の一族ではないけれど、やはり心威力を持つものが多く、昔からリーザー族と協力関係にあるの。改めてよろしくね、チカ」
「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします……」
急に舞台が、古風な戦士ものから、スパイの諜報戦へとかわった。なんか、すぐには話について行けない。
「私達の存在意義は、ただひとつ。平和の維持。戦争を煽る為の情報は渡さない。無用な争いを避ける為に活動する。綺麗事に聞こえると思うけど、長年虐げられた歴史を持つ私達一族の鉄則なのさ」
「一年程前から、シャムスヌール帝国内で、不穏な話が聞こえだしたの。平和な状況が続くと、どうしても欲深いバカが一定数出てきちやうのよ。穏やかな日常への感謝を忘れ、己の肥大した権力欲、支配欲を満たすために行動する思慮の浅いバカがね」
「まさか、本当にやるつもりだとは思わなかったけどね。残念ながら、いよいよ現実味を帯びてきちまったんだ」
ビーとコフィナさんの口から、次々と恐ろしい話が飛び出してくる。
「あの、私、そんな大事なお話を伺って大丈夫なんでしょうか……?」
恐る恐る、口を挟む。
(こんな国家間の一大事に関わるような事を、いくら公爵令嬢とはいえ、15歳の小娘に話すのはどうかと思うんだけど……)
「申し訳ない、チカ。我々もまだ若いあなたに、このような話を聞かせるのは心苦しいのだが、どうしてもあなたの協力が必要なのだ」
ピーターソンさんが、そう言いながら頭を下げる。
「え、いえいえ、そんな。……私の、協力……?」
「端的に言うとね、チカ。シャムスヌール帝国の一部の過激派が、ヨーロピアン国への侵略シナリオを書いたの。『ヨーロピアン国で貴族の謀反が起き、黒幕はトウゾウ国だった』っていうストーリーをね」
「ヨーロピアン国の貴族の謀反……!?」
平和だと思っていたヨーロピアン国に似つかわしくないきな臭い言葉に、私は驚きを隠せない。
(え、ちょっと待って! なに、この展開は……? 謀反って、謀反……。時代小説でよくある、国王やお殿様への裏切りって事よね。現実味がなくて、よくわからんけど。でも、ライガ達は人の考えが読めるんだし、阻止できるんじゃ……)
「そう。その現在進行中のシナリオに、登場人物として選ばれ活動している人間の一人が、チカ。言いにくいんだけど、あんたの家族なんだよ」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
Flower
碧
恋愛
普通の女子高生の宮井麻希子。
出版社に勤める麻希子の従兄の宇野智雪。
5月のある日、麻希子の何も変哲のない日常が新しい出会いで少しずつ変わり始める。なんの変哲もない日常が、実は鮮やかな花のような日々だと気がついた麻希子の一時の物語。
表題の花はその日の誕生日の花となっております。一応重複をしないため、一般的でない物も色違い等も含まれております。文内には、その花の花言葉が必ず含まれております。それほどキツイ描写はないのですが、性的なものを匂わせる部分はありますのでR指定をかけております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる