上 下
65 / 76

小さな裏切りの代償

しおりを挟む
「ここに君が来たのは、彼女を連れ帰ってくれとお願いするだけではないよね」
リファルは、身構えた。
構えた右手には、いつの間にか、細い剣が握られていた。
「招待したつもりが、招待されるなんてね」
薄く笑う。
「縁があるよ。全く、壁画が思い出させてくれたよ」
「私に、剣を向けるのですか?」
陽葵は、怯む様子もなく、その剣先に、首元を突き出す。
「そう、思うなら、どうぞ、私の命をお取りください」
「以前も、そう言って、逃げ出したよね」
リファルと陽葵のやりとりに、エルタカーゼは、戸惑っていた。
「リファル様、何の事なんです?この娘は・・」
「魂石を持って、逃げた侍従がいたな・・」
「えぇ・・確か、10年位前だったような」
「こんなところで、逢うとはな」
「えぇ?あの雪葵??」
エルタカーゼは、陽葵の顔を、正面から、何度も、見下ろした。
「どうして、ここに?」
剣の先を向けているリファルより、エルタカーゼの方が冷静な様だ。
「何か、理由があっての事でしょう?」
「同情するな。魂石を持ち出すなんて、許せない」
「ですけど、雪葵は、そんな娘では・・」
エルtかーぜは、陽葵の手を取る。
「逢えば、バレてしまうのに、どうして、ここに来たの。本当のあの女性を連れ帰ればいいの?」
「彼女さえ、いなければ、安全なんです」
「誰の事?」
聞かれて陽葵は、目を伏せた。
「一体、何があったの?」
エルタカーゼが、詳しく聞き出そうとした時に、化身した陸羽を伴って、桂華が現れた。
「おや?結局、みなさん、お揃いで?」
化身を解き、人間の姿に戻る。
陸羽は、エルタカーゼやリファルの顔を、見下ろすと、陽葵の前で、ふと、考え込む表情になった。
「お前・・・どこかで」
険しい顔つきで、考え込んだ後、両手を叩く。
「兄者のクリニックの看護師・・・いや、待て。もう少し、前に見た気もする」
険しい顔が、山犬の目になる。
「そうだ・・・あの時、兄者が助けに行った、雪兎だ」
四人の視点の先に、陽葵が居る。
「結局、兄者を追いかけて、現れたか」
その言葉を聞いて桂華の胸が少し痛んだ。
「あなたも、ここに来るとはね」
口を開いた陽葵の言葉が、攻撃だった。
「みんな、ここに簡単に入ったみたいだけど、危険は、感じなかったの?」
桂華は、陽葵の言葉が、届かない振りをした。
「ここには、何かがある。だけど、普通は、入れない筈なのに、入れる」
リファルは、言う。
「罠だと、知ってるよ。この階段は、終わりがない。閉じ込める気なんだ」
「知っているんだ。へぇ」
陸羽は、茶化した。
「なら、この先、どうなるかは、予測つくはずだ」
リファルは、そう言われて笑った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

処理中です...