星渡る舟は、戻らない

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
56 / 86

奇妙な関係

しおりを挟む
そこに、現れたのが、寧大である事が、意外だった。
「どうして、ここに?」
口々に、叫びながら、僕らは、寧大をコテージの部屋に寝かせた。
理由は、こうだ。
音夢と、揉めた寧大は、思い余って、シーイの素顔を公開してしまった。
今までの、活動の裏も、全て、曝け出してしまった。
僕を逃れなくさせる為だったらしい。
音夢は、僕の身代わりである事で、怒り心頭だった。
責められて寧大は、自分の気持ちの底にある、何かに気付いたらしい。
僕の行き先を追いかけてきたが、途中、道路が閉鎖されて行けないので、車を乗り捨てて、ここまで、歩いて来たらしい。
食べる事も、飲む事も、惜しんで来た彼は、脱水状態だったが、少し、眠ると、すぐに起きて、僕を呼んだ。
「行かないで欲しい」
別の部屋で、過ごしていた澪は、僕に、そう言った。
「よくわからないけど。濁った水に、飛び込んで行くようなものよ。もう、彼とは、終わったの」
「うん・・・わかっているよ」
僕は、心配する澪の手を取った。
シーイの偽物の件で、澪は、寧大を警戒していた。
「彼とは、何度も、喧嘩してここまで来た。本当に、もう、これっきりと思った事は、何度もある。」
「何度もあるって、事は、離れた方が良かったのでは?結局、シーイの才能で、持っていたんじゃないの?」
僕は、言葉に詰まった。
澪は、彼をよく思っていない。
「澪。彼は、僕にたくさん、機会をくれた。音楽のセンスだってある。ただ・・・ただ・・・行動が、無計画すぎるだけで」
「無計画だから、シーイのお陰で、持ったのよ。彼とは、離れた方がいいわ」
「澪。彼は、友達なんだ」
澪の言葉を塞ぎたくはなかった。が、ここは、認めてほしかった。
「シーイも、彼が居たから、生まれたんだ」
「海は、優しすぎる。」
澪は、機嫌が悪いのか、僕の手を払った。
「寧大は、あなたを危険に晒す。私には、わかるの」
もう一度、口を開こうとしたが、奥から、寧大が呼ぶので、
「少し、待って」
澪を抱き寄せた言った。
「あれ?そんな仲だったんですか?」
後輩の女の子が、そう言うので、
「知らなかった?」
僕は、寧大が、水が飲みたいと訴えるので、ペットボトルを手に取った。
「少し、話てくる」
シーイを暴露した本当の理由を寧大に聞きたかった。
そして、これから、僕らは、どうしたいのか?
別の道を歩く。
一時は、そう言っていたよね。
最初から、別の道を歩いていたんじゃないか。
僕らは、楽しく、歌い、演奏し、毎日を過ごしてきた。
それだけじゃ、なかったのか。
「海・・・」
澪が、呼んだ。
「あなたの声は、雪の様に白い。そう、氷の様に見える」
そう言うと、澪は、奥の部屋に戻ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...