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荒れ狂う風だけが聞こえる夜に
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僕は、その日。
榊さんとの契約の為、構想の一つだった、関東のキャンプ場に来ていた。勿論、次の日は、実家。と言っていいのか、疑問だが、手伝いもあったので、日帰りのつもりだった。
一通り、物件を見させてもらって、
「検討します」
との事で、帰るつもりだった。
つるんでいた寧大ではなく、別の友人、ゲーマーの陸亜と落ち合う事になっていた。
「行けそうにないよ」
その陸亜から、連絡があった。
「なんで?」
「ニュース見ろよ」
この日、進路を外れるはずだった、季節外れの台風が、進路を変え、こちらに向かっていた。
大雨をもたらしたこの台風は、僕らの居るキャンプ場に向かっており、土砂崩れをもたらし、僕らを孤立させていた。
「そこに向かうのは、時間がかかる」
陸亜は、舌打ちした。
「いいよ。何とかする」
僕は、肩をすくめた。
「結局、泊まる事になりそうだね」
榊さんは、笑った。
「コテージは、とってあるんだ。ゆっくりして行くといい」
すぐ返事をしない僕に、榊さんは、親切だった。
その後、榊親子は、普段から、仲が良いらしく、二人で、レストランにあるピアノを見て周り、囁き歩く姿が、微笑ましかった。
「大事に育てられたんですね」
そう言うと、榊さんは、目を細めた。
「妻が、命懸けで、産んだ子なので」
榊さんの妻は、娘さんを産んで、すぐに亡くなってしまったらしい。
僕と似ている境遇に、榊さんは、ただならぬ物を感じたらしい。
「他人とは、思えないんだよ」
事ある度に、そう言った。
「疲れたので、部屋に戻りますね」
僕は、そう言って、コテージの部屋に入った。
山間にあるキャンプ場の中を、風が渦巻いていた。
音は、大きく、都会で耳にする音とは、異なる。
目を閉じても、静かなコテージ内に、外の音が響いてくる。
「こんな時・・・」
音に敏感な人は、どうするのだろう。
木々の間を抜ける風の音が怖い。
「音にも、敏感なの」
以前、澪がそう言って、僕の腕にしがみついた事があった。
「人の声は、不思議ね。色で、見えるの。だから、わかるんだけど・・。だめ。自然の音は、怖い。特に風の音が怖い」
「風の音?」
「だって、悲鳴みたいでしょう?」
「場合に、よるね」
「そうかな。木々が悲鳴を上げていく。ビルの間の風もそう。私には、優しい風はないの」
「そよ風は?」
「風は、私の感覚を狂わせるのよ」
「大変なんだな」
「音でしか、情報を取れないから・・・あ、そうそう」
スイーツの店の前で、足を止めたので、海は、思わず、笑った。
「匂いから、情報をとる方法もあるよね」
「そう。」
二人は、カップのアイスを2つ購入し、近くのベンチに座った。
「海の匂いって、」
「海?」
「違う違う。あなた。シーイの匂いって・・」
「僕の匂い?」
「そう。」
「どんな匂い?」
「甘い、匂い」
そい言われて、海は、笑った。
「そりゃそうだ。うちは、お菓子屋さんだもの」
「嘘!」
「本当。配達だってする」
「配達?」
「和菓子屋なんだ。お茶用の生菓子とか・・」
「え?」
「上流家庭にお届けに行く」
「本当?」
澪が、笑う。
他愛のない会話を思い出していた。
風が強い。
海は、ようやく、澪に電話を掛けてみた。
榊さんとの契約の為、構想の一つだった、関東のキャンプ場に来ていた。勿論、次の日は、実家。と言っていいのか、疑問だが、手伝いもあったので、日帰りのつもりだった。
一通り、物件を見させてもらって、
「検討します」
との事で、帰るつもりだった。
つるんでいた寧大ではなく、別の友人、ゲーマーの陸亜と落ち合う事になっていた。
「行けそうにないよ」
その陸亜から、連絡があった。
「なんで?」
「ニュース見ろよ」
この日、進路を外れるはずだった、季節外れの台風が、進路を変え、こちらに向かっていた。
大雨をもたらしたこの台風は、僕らの居るキャンプ場に向かっており、土砂崩れをもたらし、僕らを孤立させていた。
「そこに向かうのは、時間がかかる」
陸亜は、舌打ちした。
「いいよ。何とかする」
僕は、肩をすくめた。
「結局、泊まる事になりそうだね」
榊さんは、笑った。
「コテージは、とってあるんだ。ゆっくりして行くといい」
すぐ返事をしない僕に、榊さんは、親切だった。
その後、榊親子は、普段から、仲が良いらしく、二人で、レストランにあるピアノを見て周り、囁き歩く姿が、微笑ましかった。
「大事に育てられたんですね」
そう言うと、榊さんは、目を細めた。
「妻が、命懸けで、産んだ子なので」
榊さんの妻は、娘さんを産んで、すぐに亡くなってしまったらしい。
僕と似ている境遇に、榊さんは、ただならぬ物を感じたらしい。
「他人とは、思えないんだよ」
事ある度に、そう言った。
「疲れたので、部屋に戻りますね」
僕は、そう言って、コテージの部屋に入った。
山間にあるキャンプ場の中を、風が渦巻いていた。
音は、大きく、都会で耳にする音とは、異なる。
目を閉じても、静かなコテージ内に、外の音が響いてくる。
「こんな時・・・」
音に敏感な人は、どうするのだろう。
木々の間を抜ける風の音が怖い。
「音にも、敏感なの」
以前、澪がそう言って、僕の腕にしがみついた事があった。
「人の声は、不思議ね。色で、見えるの。だから、わかるんだけど・・。だめ。自然の音は、怖い。特に風の音が怖い」
「風の音?」
「だって、悲鳴みたいでしょう?」
「場合に、よるね」
「そうかな。木々が悲鳴を上げていく。ビルの間の風もそう。私には、優しい風はないの」
「そよ風は?」
「風は、私の感覚を狂わせるのよ」
「大変なんだな」
「音でしか、情報を取れないから・・・あ、そうそう」
スイーツの店の前で、足を止めたので、海は、思わず、笑った。
「匂いから、情報をとる方法もあるよね」
「そう。」
二人は、カップのアイスを2つ購入し、近くのベンチに座った。
「海の匂いって、」
「海?」
「違う違う。あなた。シーイの匂いって・・」
「僕の匂い?」
「そう。」
「どんな匂い?」
「甘い、匂い」
そい言われて、海は、笑った。
「そりゃそうだ。うちは、お菓子屋さんだもの」
「嘘!」
「本当。配達だってする」
「配達?」
「和菓子屋なんだ。お茶用の生菓子とか・・」
「え?」
「上流家庭にお届けに行く」
「本当?」
澪が、笑う。
他愛のない会話を思い出していた。
風が強い。
海は、ようやく、澪に電話を掛けてみた。
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