死神の守人

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
27 / 50

僕の血肉を真実の後継者に。

しおりを挟む
僕は、市神を街の外れ鉱山跡の深山に呼び出した。昔は、大きな石を切り出したという跡が、たくさんあるが、今は、誰も人気がなく、鉱石を取り出した後の土を捨てた崖が、深い口を開けていた。市神は、流行りの開業医らしく赤いスポーツカーで、颯爽と現れた。
「待ったか?」
細身のスーツがよく似合い、白衣を着ていなければ、どこかのモデルと、間違われそうだ。
「今、きた所。。」
僕は、いつもの僕らしく、事業所のポンコツ車で、やってきた。途中で、止まるんじゃないかと、ビクビクだったけど、なんとか、坂道を上り詰め、ここまできた。
「うるさい看護師の目を盗んできたから、早めに戻りたいんでね」
市神は、言った。
「あの看護師の事だろう?」
市神は、沙羅の事を言った。
「普通じゃない事は、気づいていたけどね」
市神は、車のボンネットに腰掛けた。
「それも、あるけど」
僕は、市神の前に立ち塞がった。
「お願いがある。八の命も掛かっている。助けてほしい」
「おや?」
市神は、笑った。
「お願いされるのは、意外だな。。。私の命を狙われるのかと思ったけど」
「それなのに、あなたは来た」
「まあね」
市神は、僕の顔を見つめた。
「高野蓮に興味があったからね」
「僕に?」
市神は、うなづいた。
「信徒とやらは、私が、どうのこうのとと騒ぐが、全く、まだ、わからないんだ」
首を振る市神。
「ただ、わかるんだよ。自分の持ち物が、どこにあるのかは」
そう言いながら、市神は、胸ポケットから、あのペンを取り出した。柄は、香木で出来ており、キャップを開けると、中から、刃物が顔を覗かせた。
「それで、沙羅を刺した。。」
「私ではないけどね。けど、私が、念を込めたらしい」
らしいと言うのは、市神は、まだ、記憶が戻っていない為だと言った。
「八を助けたい」
八は、幼い頃から、一緒にいた。あの時から、何度も、八の機転で生き延びていた。
「わかるよ。人を助けるのが、僕の役目だし。今、君の背にあるのも、僕が、人を助ける為に必要な物らしいからね」
市神h、僕の背中を指差した。
「どうして、僕にあるのかは、僕も、わからない。返すことで、終わるなら、返したい」
それは、本心だ。僕が、みんなと変わらず、生活できるなら、ない方がいい。あの日、ブリキの缶を開けた事から、全てが始まっている。
「交換条件だ。返してくれるなら、返してもらおう。それで、終わり。」
市神は、笑った。
「あの看護師も、お前の友達も、変わらず、生活はできるよ。ただ、この街には、住みにくくなると思うがな」
「沙羅が、元に戻って、八が助かるなら」
市神は、立ち上がり、僕の背後に回ると、いきなり僕のシャッツを引きちぎったボタンが、飛び散り、シャッツから、僕の背中が、むき出しになった。
「確かに、ある」
市神は、ペンの先で、僕の背中に触れていた。僕の背中には、痣がある。丁度、肩甲骨の辺りに、赤くペンキを塗りつけたような拳大の染みがある。
「ここから、象徵とも言うべき、羽根は生える」
市神は、立てに、ペン先を振った。
「!」
背中に、熱が走った。
「本当に、いいんだな」
僕は、黙っていた。僕の翼を根本から、引きちぎっていく。市神は、遠慮もせずに、僕の背中に刃先を突き立て、余りの痛みに僕は、立って居られず、膝をついてしまった。
「痛いだろう?」
市神は、まるで、何か、車のパーツでも、外すかのように、僕の赤いシミを、皮ごと、切り落としていった。医者だけあって、手慣れた様子で、両肩甲骨にあった、赤いシミは、市神の手によって、削りとらえていった。乾いた地面に、僕の赤い血飛沫が、落ちていった。
「ほら。。。」
市神は、掌にある、赤いシミだった物を僕に見せた。真っ赤な僕の、血肉の中には、なぜか、小さな眼球が、2つ並んでいた。
「確かに。。」
そう言うと市神は、ポケットから、小さな小瓶を取り出した。中には、真っ白い粉の様な物が入っていた。
「解毒薬?みたいな物だ。」
少し、スパイシーな香りがする。市神は、僕の体から、取り出した眼球を、ハンカチで、丁寧に包んだ。
「お互い、もう、会わない方がいいな。そう祈っているよ」
そう言うと、市神は、嬉しそうに車に乗り込み、走り去っていった。
「それで、いいの?」
隠れていた牛頭と馬頭が顔を出した。
「いいんだ」
最初から、僕のものではない。
「大丈夫か?」
「大丈夫」
僕は、小瓶を牛頭と馬頭に渡した。
「頼んだよ」
僕は、そのまま、地面に崩れ落ちていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

処理中です...