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そうだね、君という人は。
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ほんの一瞬だった。奴が怯み歯が外れた。振り解こうとしてもがていた僕は、反動で、後ろに倒れそうになった。
「ちょっと」
そうだった。僕は、ハッとして見上げた。揉み合う僕達の前に立ちはだかっていたのは、あの紗羅だった。
「こういう事になっていたのね」
紗羅は、制服の胸ポケットから、ボールペンを出すと奴の鼻先に突き出した。
「さあ、どうするの?ここには、誰も見ている人はいないのよ」
さらは、ゆっくりと突き出したボールペンを鎌を振り上げるかの様に、後ろ手に引いていった。少しずつ、腕を振り上げる動作に、引きつられる様に、包帯男の目が、見開いていく。
「覚悟するのね」
ペン先に、白い光が見え始めた。細い糸となり包帯男の肩先から、何かを引き摺り出していく。
「おぉ。」
とも、何とも言えない気持ちの悪い声が木霊していく。包帯男の肩先から、渦巻くように血だらけの包帯が、剥ぎ取られて息、包帯の下に、いくつもの顔が覗き始めた。包帯の下には、たくさんの人の顔が、痣のように苦悶に歪み、皮膚の間を埋め尽くしていた。
「これは」
僕は、凝視していた。千顔痕。。。苦痛に歪む多くの魂が、包帯男を支配していた。包帯男というより、元は、ここの主人だったのか。。紗羅は、苦痛に歪む元は、人だったらしき物を、ペン先から吸い込んでいった。
「また、ここで会うとはね」
紗羅は、憎々しげに僕を見ていた。
「今更だと、思うけど」
ボールペンと思っていた細い線は、いつの間にか、柄の長い細い鎌に姿を変えていた。
「不味くて、たまらないわ」
紗羅は、口汚く罵ると、ぺっと、唾を吐き出した。
「今日は、このくらいにしておくわ」
包帯男の半身は、剥き出しの裸体となっていたが、肌を埋め尽くしていたたくさんの人面は、残す所、後少しとなっていた。
「これ以上は、不味くて敵わないわ」
紗羅は、胸ポケットに、小さなボールペンにをさした。銀色に光っていた鎌は、もうない。看護師の制服は、紗羅を普通の人間に見せていた。
「いい加減、立ち上がったら」
軽蔑するように僕を紗羅は、見下ろしていた。腰が抜けたように、僕は、立ち上がると、沙羅が看護師らしく、僕の怪我をした肩の処置をしようとしている事に気がついた。
「あの。。」
僕は、口ごもった。包帯男は、ポカンとして、紗羅と僕らを見つめ、他の2人も、固まって沙羅の様子を見ていた。何事もなかったように、とり繕わないと、紗羅の逆鱗に触れそうで怖かった。
「どうして、ここに?」
やっと、僕は聞けた。
「それは、私も聞きたいわ。もしかして?」
紗羅は、僕の後ろを指さした。その方向は、ここに来るように仕向けたあいつのいる方向だった。
「うん」
僕は、頷いた。
「どちらを選ぶかは、あなた次第だと思うけど。」
処置が終わったらしく紗羅は、道具をしまい始めていた。
「そうそう。。静かに生活していけないと思うわよ。私だって、こんな不味いので、我慢しているのは、もう、ごめんだわ」
紗羅の目の奥で、何かが、怪しく光っていた。
「そろそろ、起きたら?」
「え?」
僕は、すっとぼけた。
「もう、動き出しているの」
紗羅は、立ち上がり持ってきたバックを手に取った。
「私は、行くけど。ここをうまく抜け出したら、また、会いましょう」
立ち去ろうとして、また、包帯男に向き直った。
「今までの事が、状態を悪化させてるの。お腹が空いたら、また来てあげるわ」
紗羅は、笑うと、絶対、外には出れないと奴らが言っていた部屋から、簡単に出て行ってしまった。そう、紗羅は、そういう奴だ。僕は、知っていた。沙羅が何者なのか。そして、紗羅も、僕が何者なのか、知っている。僕が、解放される前に、紗羅は来てくれる。そういう奴だった。
「ちょっと」
そうだった。僕は、ハッとして見上げた。揉み合う僕達の前に立ちはだかっていたのは、あの紗羅だった。
「こういう事になっていたのね」
紗羅は、制服の胸ポケットから、ボールペンを出すと奴の鼻先に突き出した。
「さあ、どうするの?ここには、誰も見ている人はいないのよ」
さらは、ゆっくりと突き出したボールペンを鎌を振り上げるかの様に、後ろ手に引いていった。少しずつ、腕を振り上げる動作に、引きつられる様に、包帯男の目が、見開いていく。
「覚悟するのね」
ペン先に、白い光が見え始めた。細い糸となり包帯男の肩先から、何かを引き摺り出していく。
「おぉ。」
とも、何とも言えない気持ちの悪い声が木霊していく。包帯男の肩先から、渦巻くように血だらけの包帯が、剥ぎ取られて息、包帯の下に、いくつもの顔が覗き始めた。包帯の下には、たくさんの人の顔が、痣のように苦悶に歪み、皮膚の間を埋め尽くしていた。
「これは」
僕は、凝視していた。千顔痕。。。苦痛に歪む多くの魂が、包帯男を支配していた。包帯男というより、元は、ここの主人だったのか。。紗羅は、苦痛に歪む元は、人だったらしき物を、ペン先から吸い込んでいった。
「また、ここで会うとはね」
紗羅は、憎々しげに僕を見ていた。
「今更だと、思うけど」
ボールペンと思っていた細い線は、いつの間にか、柄の長い細い鎌に姿を変えていた。
「不味くて、たまらないわ」
紗羅は、口汚く罵ると、ぺっと、唾を吐き出した。
「今日は、このくらいにしておくわ」
包帯男の半身は、剥き出しの裸体となっていたが、肌を埋め尽くしていたたくさんの人面は、残す所、後少しとなっていた。
「これ以上は、不味くて敵わないわ」
紗羅は、胸ポケットに、小さなボールペンにをさした。銀色に光っていた鎌は、もうない。看護師の制服は、紗羅を普通の人間に見せていた。
「いい加減、立ち上がったら」
軽蔑するように僕を紗羅は、見下ろしていた。腰が抜けたように、僕は、立ち上がると、沙羅が看護師らしく、僕の怪我をした肩の処置をしようとしている事に気がついた。
「あの。。」
僕は、口ごもった。包帯男は、ポカンとして、紗羅と僕らを見つめ、他の2人も、固まって沙羅の様子を見ていた。何事もなかったように、とり繕わないと、紗羅の逆鱗に触れそうで怖かった。
「どうして、ここに?」
やっと、僕は聞けた。
「それは、私も聞きたいわ。もしかして?」
紗羅は、僕の後ろを指さした。その方向は、ここに来るように仕向けたあいつのいる方向だった。
「うん」
僕は、頷いた。
「どちらを選ぶかは、あなた次第だと思うけど。」
処置が終わったらしく紗羅は、道具をしまい始めていた。
「そうそう。。静かに生活していけないと思うわよ。私だって、こんな不味いので、我慢しているのは、もう、ごめんだわ」
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「そろそろ、起きたら?」
「え?」
僕は、すっとぼけた。
「もう、動き出しているの」
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「私は、行くけど。ここをうまく抜け出したら、また、会いましょう」
立ち去ろうとして、また、包帯男に向き直った。
「今までの事が、状態を悪化させてるの。お腹が空いたら、また来てあげるわ」
紗羅は、笑うと、絶対、外には出れないと奴らが言っていた部屋から、簡単に出て行ってしまった。そう、紗羅は、そういう奴だ。僕は、知っていた。沙羅が何者なのか。そして、紗羅も、僕が何者なのか、知っている。僕が、解放される前に、紗羅は来てくれる。そういう奴だった。
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