77 / 106
同居します。
しおりを挟む
その夜。僕らは、藤井先生の家に泊まった。莉子は、這いつくばり、苦しさのあまり、涙を流していたが、落ち着いたのか、僕の腕の中で、眠りについていた。寝ようとしても、頭が冴えて眠れない夜。カーテンの隙間から、朝日が昇るのがわかった。朝は、少し、肌寒い。壁を背にして寄りかかる僕達に、藤井先生は、そっと毛布を差し出した。
「きっと、莉子は、何も覚えていない」
夜間に苦しみ抜いて、泣き叫んだとしても、翌日は落ち着いている。忘れてしまうのか、夜間とは、全く違う顔だ。彼女の中に、抑圧された感情が眠る。解放されるのは、夜。あの睡眠導入剤も、その症状を抑える物だった。常用しているから、ふらつき、思い通りにリハビリだって進まない。莉子の苦しみを取り除く事が、最短の道のりなんだ。
「眠れなかったか?」
隣の部屋にいた黒壁が、ひょっこり顔を出した。
「うん。色々考えてね・・」
「まあ・・・そばに、好意を持つ女性が居たら、眠れる状態では、ないよな」
自分は、しっかり、睡眠を取りましたって、顔をした黒壁が言う。
「やっぱりさ。莉子の環境が悪すぎるんじゃないか?」
「逃げ出すにも、逃げられないし・・」
僕は、ため息をついた。
「どうするよ。架に言うのか?」
「それは、架が原因だったら、どうする?」
「何が原因で、彼女を追い込むのか、わからない」
「愛情が憎しみに変わる時もあるよ」
僕は、笑った。黒壁がそんな事を言うとは、思っていなかったから。
「おいおい・・・俺だって、色々あるし・・莉子が、新に魅かれてるって知った時は、ショックだったな」
「え?そんな事あった?」
「お前が知らないだけで、何度も、お前が担当にならないか、確認していたんだよ。俺も話すのは、癪だから、黙っていたけど」
「そっか・・」
「ハードル高いよな。人の奥さんだもんな」
「紙一枚の関係だろう?莉子がどう思うのかだよ」
僕は、横で眠る莉子の顔を見ていた。顔を歪め苦しんでいた莉子の姿は、もうない。
「あのさ・・・いっその事、お前ら、くっついちゃえよ」
「へ?」
「だって、莉子の夫も、人の事言えないだろう!お前、言ってやれよ」
「お前って?荒いなぁ。そのやり方」
黒壁は、基本、短気だ。時には、荒っぽい方法に出る。僕らが、また、戯れ合う物だから、その騒ぎで、莉子の閉じた瞼が、微かに震えた。
「起きたのか?」
黒壁が急に顔を出したので、莉子は、一瞬、小さな悲鳴をあげ、体を固くした。
「へ?どうして?」
「どうして?って」
黒壁は言った。
「今日から、俺達、一緒に暮らす事にしたから」
「え?」
俺は、素っ頓狂な声を上げた。
「きっと、莉子は、何も覚えていない」
夜間に苦しみ抜いて、泣き叫んだとしても、翌日は落ち着いている。忘れてしまうのか、夜間とは、全く違う顔だ。彼女の中に、抑圧された感情が眠る。解放されるのは、夜。あの睡眠導入剤も、その症状を抑える物だった。常用しているから、ふらつき、思い通りにリハビリだって進まない。莉子の苦しみを取り除く事が、最短の道のりなんだ。
「眠れなかったか?」
隣の部屋にいた黒壁が、ひょっこり顔を出した。
「うん。色々考えてね・・」
「まあ・・・そばに、好意を持つ女性が居たら、眠れる状態では、ないよな」
自分は、しっかり、睡眠を取りましたって、顔をした黒壁が言う。
「やっぱりさ。莉子の環境が悪すぎるんじゃないか?」
「逃げ出すにも、逃げられないし・・」
僕は、ため息をついた。
「どうするよ。架に言うのか?」
「それは、架が原因だったら、どうする?」
「何が原因で、彼女を追い込むのか、わからない」
「愛情が憎しみに変わる時もあるよ」
僕は、笑った。黒壁がそんな事を言うとは、思っていなかったから。
「おいおい・・・俺だって、色々あるし・・莉子が、新に魅かれてるって知った時は、ショックだったな」
「え?そんな事あった?」
「お前が知らないだけで、何度も、お前が担当にならないか、確認していたんだよ。俺も話すのは、癪だから、黙っていたけど」
「そっか・・」
「ハードル高いよな。人の奥さんだもんな」
「紙一枚の関係だろう?莉子がどう思うのかだよ」
僕は、横で眠る莉子の顔を見ていた。顔を歪め苦しんでいた莉子の姿は、もうない。
「あのさ・・・いっその事、お前ら、くっついちゃえよ」
「へ?」
「だって、莉子の夫も、人の事言えないだろう!お前、言ってやれよ」
「お前って?荒いなぁ。そのやり方」
黒壁は、基本、短気だ。時には、荒っぽい方法に出る。僕らが、また、戯れ合う物だから、その騒ぎで、莉子の閉じた瞼が、微かに震えた。
「起きたのか?」
黒壁が急に顔を出したので、莉子は、一瞬、小さな悲鳴をあげ、体を固くした。
「へ?どうして?」
「どうして?って」
黒壁は言った。
「今日から、俺達、一緒に暮らす事にしたから」
「え?」
俺は、素っ頓狂な声を上げた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ご令嬢は一人だけ別ゲーだったようです
バイオベース
恋愛
魔法が有り、魔物がいる。
そんな世界で生きる公爵家のご令嬢エレノアには欠点が一つあった。
それは強さの証である『レベル』が上がらないという事。
そんなある日、エレノアは身に覚えの無い罪で王子との婚約を破棄される。
同じ学院に通う平民の娘が『聖女』であり、王子はそれと結ばれるというのだ。
エレノアは『聖女』を害した悪女として、貴族籍をはく奪されて開拓村へと追いやられたのだった。
しかし当の本人はどこ吹く風。
エレノアは前世の記憶を持つ転生者だった。
そして『ここがゲームの世界』だという記憶の他にも、特別な力を一つ持っている。
それは『こことは違うゲームの世界の力』。
前世で遊び倒した農業系シミュレーションゲームの不思議な力だった。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる