上 下
65 / 106

人格崩壊

しおりを挟む
今まで、思っていた人の人格が全く違うと知ったら、皆は、どう思うのか。確かに、僕は、莉子の顔、全てを知っている訳ではない。
「どうして、歩けないのか?」
思うように動かない足を叩いて、泣いている姿を見た事があった。
「歩けるんだ」
あの日、莉子が倒れた病棟で、僕は、確信していた。彼女を縛っているのは、動けなくなった足ではなくて、傷ついた心痕。深く傷ついてしまった心は、いつの間にか、僕の知らない所で、崩れ始まっていたのだろうか?
「あなたは、どうして、手を治さないのですか?」
今の技術なら、醜く傷痕を消す事だって、できるのに、どうして、彼は、そのままでおくのか?
「それは・・・今は、答えないでおくよ」
「僕だって、無理に聞きたくはりません」
「滑稽な夫婦だと、思うだろう?」
「夫婦?理解できない人だと思っています」
「君らには、わからないだろう。折れやすい心を持った人間の苦しみなんて」
僕だって・・・。苦しみはある。だけど、僕は、答えなかった。早く、手術が終わって欲しい。莉子の人格が、変わるのは、本当なのか?主治医に会って確かめたい。夫の言う事は、本当なのか?あの心陽は・・・一体、どんな関係なのか?
「薬の件は、莉子の友人から聞いたのか?」
僕の心を見透かすように、架は言った。
「あなたと、莉子の友人・・・いや、友人なんかではない。あの心陽という人とは、何があるんですか?」
「僕は、わからない。最初、声を掛けてきたのは、彼女だった。怖い程、才能のある女性だと思っていたが、まさか、莉子の友人だったとはね。莉子と結婚する前に、何度か、食事をした事がある」
「気が多いんですね」
「君も、変わらないじゃないか?」
「一緒にしないで、ください」
「心陽が何か、言ったのか?」
「莉子を彼女に任せて、いいんですか?僕には、危険な匂いしかしない」
「それを決めるのは、莉子だと思うよ」
「意外に、構わないんですね。こういう時は、放置ですか?」
莉子の意志に任せると言いながら、莉子を手放さない架に、愛情を感じる事は、できなかった。僕は、思わず聞いてしまった。
「莉子を大事に思っているのですか?」
架は、笑った。
「そんな感情で、ここまで、来れないよ。」
「愛情はないんですか?」
「なくても、一紙にいる事はできる」
気まずい空気が、僕らの間に流れた頃、手術が終わったと知らせがあった。ドラマのように、主治医が手術室から出てくる訳ではない。説明するから、面談室に来るように言われ、架は、薄笑いをしながら、僕に言った。
「家族として、話を聞いてくるよ。君は、ここで、待つんだな」
僕は、悔しい思いをしながら、廊下で待つことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】悪女のなみだ

じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」 双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。 カレン、私の妹。 私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。 一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。 「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」 私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。 「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」 罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。 本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

もういいです、離婚しましょう。

杉本凪咲
恋愛
愛する夫は、私ではない女性を抱いていた。 どうやら二人は半年前から関係を結んでいるらしい。 夫に愛想が尽きた私は離婚を告げる。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...