上 下
44 / 106

未成熟な愛

しおりを挟む
七海は、いたたまれず、新が通うフラメンコ教室を覗きに行っていた。週末には、車を使い、スタジオ入りしている。新や他のスタッフに見つけられるのを、恐れながら、通りに面したスタジオの窓から、そっと覗いていた。小さい頃から、新と一緒にいるのが当たり前になっていた。新や自分の両親も、二人が将来、一緒になるのを、望んでおり、いずれ、病院長の妻になるとばかり、思っていた。だが、新葉、医師になる事を、拒否し、親の反対する道を選んだ。
「リハビリ師なんて」
医師の妻になる事を切望していた母親は、落胆した。
「破棄してもいいのよ。あなたなら、もっと、いい嫁ぎ先があるから」
「いや。絶対、新がいい」
幼い時から、新以外、考えた事がなかった。いつも、新が側にいた。
「絶対、新と結婚する」
それ以外、考えられない。生活全てが、新を中心に回っていた。新が地方の病院を選んだ時には、地方に付いて行く事に躊躇したが、新幹線で通う事にした。新の周りで、何が起きているのか、知りたかった。
「どうして、彼女なの?」
新が、リハビリに力を入れている女性の存在を知った。病院にいる新の様子を見に行った時だ。応対した同期の男性が、冗談で言っていた。
「車椅子の女性に、力を入れている」
担当を外された黒壁がつまらない嫉妬に駆られた発言だったが、七海には、十分だった。
「どんな女性なのか」
何としても知りたかった。目にした時は、衝撃だった
「本当に、車椅子なの?」
新を問い詰めると、笑って
「ただの患者だよ」
否定した。が、新の彼女を見る目は、七海の知っている新の姿ではなかった。初めて見る、新の一面だった。
「違うと思う。不安なの」
七海は、勇気を出し新に、否定してくれる様に、頼んだが、新からの返事は、冷たかった。
「七海は、妹としてしか見れない」
絶望した。今までの、新の対応を見ていて、不安はあったが、その不安は、的中した。新は、自分を見ていない。何度も、遠くから見る車椅子の女性と新の姿に、胸騒ぎだけ、感じていた。
「よく見る顔ね」
週末に、スタジオの側で、新の到着を待っていると一人の女性に声をかけられた。スタジオの生徒かと思い、慌てて立ち去ろうとすると、その女性に腕を掴まれてしまった。
「そこのリハビリの先生のお知り合い?」
その女性は、新を目で、追いかけながら話しかけてきた。
「いいえ・・・。フラメンコに興味があって」
「中に入ればいいのに」
フラメンコに興味があって、と言った以上、断れない。
「レッスン中なのに、邪魔する訳には、行きませんから」
「大丈夫よ。だって、私もここの生徒じゃないのよ。知り合いが居て、時々、様子を見に来るの」
その女性は、新と一緒にいた車椅子の女性を指差す。
「中には入りましょう」
断れず、そのスタジオに見学に行く事になってしまった。
「あら?心陽?」
スタジオに入るなり、女性は、顔を上げるとすぐ、その女性の名前を呼んだ。
「七海?」
新が、険しい顔つきになるのが、わかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

「おまえを愛している」と言い続けていたはずの夫を略奪された途端、バツイチ子持ちの新国王から「とりあえず結婚しようか?」と結婚請求された件

ぽんた
恋愛
「わからないかしら? フィリップは、もうわたしのもの。わたしが彼の妻になるの。つまり、あなたから彼をいただいたわけ。だから、あなたはもう必要なくなったの。王子妃でなくなったということよ」  その日、「おまえを愛している」と言い続けていた夫を略奪した略奪レディからそう宣言された。  そして、わたしは負け犬となったはずだった。  しかし、「とりあえず、おれと結婚しないか?」とバツイチの新国王にプロポーズされてしまった。 夫を略奪され、負け犬認定されて王宮から追い出されたたった数日の後に。 ああ、浮気者のクズな夫からやっと解放され、自由気ままな生活を送るつもりだったのに……。 今度は王妃に?  有能な夫だけでなく、尊い息子までついてきた。 ※ハッピーエンド。微ざまぁあり。タイトルそのままです。ゆるゆる設定はご容赦願います。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

旦那様は私に隠れて他の人と子供を育てていました

榎夜
恋愛
旦那様が怪しいんです。 私と旦那様は結婚して4年目になります。 可愛い2人の子供にも恵まれて、幸せな日々送っていました。 でも旦那様は.........

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...