上 下
30 / 47
1章

ついに決着

しおりを挟む
5人で共同生活してもうすぐ一週間。

今のところ初日以降変わったことは起こっていない。

「わたしの外泊届が明日までなので
 明日は私ここに泊まれないの」
くるみは残念に言う。

それはそうだ。この1週間たのしかったのは間違いないし、
くるみにとっては施設じゃない場所で
1週間も過ごすなんて初めてのことだろう。

「くるみさんが帰るならわたしもそうさせてもらうわ。
 姉もほったらかしだしたまには面倒を見てあげないと」
未知はフェアだった。自分だけが抜け駆けをすることを許さなかった。
くるみの安心した顔が見て取れる。

みちさんのこういうところがすきだなぁと
おれは思ってしまう。

「じゃあ、先生も一度自宅に帰るね。
 最近はとくに大丈夫そうだしね」

「なんか変な感じね。自宅に戻るのに藍原くんの家の方が
 もう自宅みたいに感じてしまう」
未知さんの意見にみんなが同意する。

「先生、何かあったら私でもじょうくんでも未知さんで
 電話してくださいね」

「うん。わかった。ありがとうね。みんな」

次の日、みんなはそれぞれの家に帰っていった。

おれは久々のじんのとふたりの生活に戻った。

「じんの、おにいちゃんと二人はどうだ?」

「おにいちゃんと二人も大好きだけど
 みんながいるのはもっと好き」

あれほど知らない人を毛嫌いしていたじんのが
受け入れている。これはおおきな成長だと思っている。
いつかきっと病気が治りますようにと切に願う。

「でも今日は二人だけだ。久しぶりにたのしも~」

「うん。一緒にお風呂入って一緒に寝よ」

おれはじんのを寝かしつけた後、眠れなくなった。
思い出したのだ。シルさんのことを。
この1週間はみんなが泊まりに来ていたので
あの公園には行っていない。
そのことも忘れさせてくれた一週間だった。

おれは無性にあの公園に行きたくなった。
久しぶりに夜中に家を抜け出す。

久しぶりのいつも通った道を散歩する。
今日は心地よい風が吹いている。

もう少しでいつもの坂道だ。
繁華街に向かうのか、あの公園に向かうのか、
分岐路にさしかかる。

ふと杏子先生のことが頭によぎる。
(康生通りのさくら荘って言ってたな)
夜中はまだまだ長いし先に様子を見に行ってみるか。
ゴーゴルマップでさくら荘を探す。
すぐに出てきた。
携帯に映っていた写真はたしかにぼろアパートだった。
ここから15分くらい歩けば着くのか。

おれはトコトコ杏子先生の自宅に向かって歩き始める。

(しまった!部屋番号わからないや。
 ま、いっか。とりあえず行ってみよう)

たしかにぼろアパートだった。
暗くても建物のフォルムだけでもう昭和の香りがする。
名前の通りの○○荘という外観だった。

(杏子先生、ほんとうにお金無いんだ...)

すこし遠目からアパートを眺めてそう思う。

部屋もわからないし今度聞いておこうと思う。
携帯に電話してもいいけどさすがに23時を超えているので
遠慮をしてしまう。

さびているだろう階段を上るスラッとしたスーツ姿の
男の人がいた。
変な人ではなさそうだ。スーツも着ている。

動くモノには目が勝手に追いかけてしまう。
一番端の部屋にたどり着く。
鍵を取り出し、ドアを開けようとする。
念のため気になって見ていたが普通の人だ。
よし、公園に戻ろうと思った瞬間だった。

なぜかその男は急に頭になにかかぶった。

(目出し帽!?)

一瞬、「きゃっ」という声が聞こえたような気がした。

おれはダッシュでその部屋に向かう。
(杏子先生!杏子先生!)
階段を上り、一番端の部屋まで走る。

扉を開ける。

そこには押し倒された杏子先生と
目出し帽を被ったスーツの男がいた。

男と目が合った瞬間、おれはタックルをかました。
男ともみ合いになる。
俺は男を抑えるので精一杯だった。
男も必死で抵抗する。
相手は思ったより非力だった。

俺は男ともみ合いのままの方が良いと思った。
離れてナイフなど出されたら困る。
俺はその男をつかんで離さなかった。
男は俺の手を離そうと必死だった。

俺の手が目出し帽にかかる。
顔が半分見えそうになると男は自分の手で
それを防ごうとする。
結局奪えたのは目出し帽ではなくて
相手の手袋だった。

男は俺と離れると慌てて部屋から飛び出す。

「はあ、はあ、はあ」
おれは興奮していた。

(杏子先生は!?)

杏子先生は床で押し倒されたままの状態でくの字になって震えていた。

おれは杏子先生を抱きしめた。
じんのがつらかったときにしてあげたように。

俺の手の中でまだ震えている。

「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」
おれはやさしく包み込むように先生に話しかける。

すこしずつ震えがおさまっていく。

「大丈夫、大丈夫」

おれは先生をなだめる。

『ちゅ』

おれは先生のおでこにキスをする。
じんのによくしてあげていたので無意識にやってしまった。

そしてもう一度おでこにキスをする。
「だいじょうぶ、もうだいじょうぶだから」

そしてずっとおでこにキスをしてあげ抱きしめ続けてあげた。

10分くらい抱きしめてあげた。
震えもとまった。

「先生、警察にれんらくしようか」

「まだもうちょっと...」

「いいよ」

おれは先生の頭をなでながら
先生が安心するように抱きしめる。
おでこにもキスをしてあげる。

俺にやましい気持ちは一切無い。
妹のじんのを見ているようだった。

先生は子供のように身体をくの字に折って俺に
寄り添って寝ている。

何分経ったのだろうか。
先生が動かない。

すやすや寝ていた。

怖いことがあって疲れたんだろう。
安心したらそのまま眠ってしまったのかなと思う。

このまま寝かしてあげよう。
大変だったね。先生。

先生の寝顔には涙がツーとながれていたけど
すこし安心したような顔をしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~

いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。 橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。 互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。 そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。 手段を問わず彼を幸せにすること。 その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく! 選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない! 真のハーレムストーリー開幕! この作品はカクヨム等でも公開しております。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

処理中です...