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1章

シルさんの好きな男のタイプは?

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イベント会場は多くの人だった。
隣町の大きなホールで行われている。
コンサート会場みたいな形で観覧客は全員着席している。
予約をしたのが遅かったせいで後ろの方の席だった。

キャラショーとプロジェクションマッピングと
モニターを見るには問題なかった。

第二部は声優さんが壇上に現れた。
ペルー役の上田真知子さん、
シルー役の工藤しるくさん、
メルー役の北条かなさん、
チュー魔王役の沖田宗佑さん、

沖田さんが司会進行役で第二部をすすめていく。

声は聞こえるがこの席からでは遠くて声優さんたちの
表情までは見れない。
それでもわかることがある。

沖田さんはイケメンだ。
上田さんは女性なのにかっこいい感じだ。
工藤さんは清純そうだ。
北条さんはきれいなお姉さん風だ。

自己紹介が行われる。
それぞれが自己紹介の際に大画面モニターに映し出される。

「つづいては工藤しるくさ~ん」
司会進行役の沖田さんが声を張ると
大画面モニターに工藤しるくさんの顔がアップで映る。

「えっ!!」

おれは声を出してしまう。

呆然としてしまう。

近くの人だけが振り返っておれを見る。
俺の声は壇上まで聞こえる距離でもない。

なんと『シルさん』がそこに映っていた。

(シルさんが工藤しるくさん?)

ホステスのシルさんとは印象が違った。
ホステスのシルさんは華やかで色っぽかった。
髪型やドレスのせいもあったのだろう。

でもいまモニターに映ったシルさんは違った。
モニターでアップで映らなければ気づかなかったかもしれない。
どちらかというと清純で薄化粧な感じだ。
派手ではない。おしとやかな感じだ。

でもシルさんに間違いない!
おれはそう思った。

画面が次の声優に切り替わる。
すぐに肉眼でシルさんを確認しようとする。
距離が遠いせいではっきりとはわからない。
しかしよくみれば確実にシルさんだ。

おれの胸はドキドキが止まらない。

世界がとまる。
周りのざわめきは聞こえない。
おれの鼓動だけが波を打つ。

シルさんと話したい。話したい。
どうすればいいんだ。

頭の中はパニックになる。

でも見ていることしかできない。
もどかしい。

いや、探しても探しても会えなかったことを考えると
大成長だ。

このあとどうすればいい?どうすればコンタクトできる?

おれはそんなことを考えていたら
司会の沖田さんが「ファンからの質問コーナー」と
高らかに声を上げた。

「それではファンのみなさんが1番聞きたいことかも
 しれません。声優の皆さんに聞いてみましょう。
 『好きなタイプはどんな人ですか』これは王道だけど
 みんな聞きたい!ではしるくさんからどうぞ」

シルさんの好きなタイプの男性………
おれはごくりとつばを飲み込む。
どんな人なんだろう………

あきらかに前のめりになって聞いている人達がいる。
シルさんの声優ファンらしき人達だ
まさかのライバルがこんなにもいるなんて………

「私の好きなタイプはぁ~」
さすが小悪魔シルさん、ここでも焦らすことを怠らない。

「腕枕の上手な人!」

(!!)

確かにこの前も腕まくらが好きって言ってた。
というのとおれはその腕枕をしたことがある!と
いろんな感情が入り交じる。

事実、おれはシルさんに腕枕をした。
そして上手と褒められた。

一気に心臓が跳ね上がる。

おれのことかも、おれのことかも………
腕枕が上手な人とは
おれのことを指しているのではとドキドキする。

「しるくさん、最近、腕枕はしてもらったの?」
司会の沖田さんはおれがドキドキする質問をぶっ込んでくる。

「ひみつです」
両手でマイクを持って可愛らしく首を傾げながら答える。
これには会場の男達は萌えている。

「しるくさん、秘密ってことはそれはもう
 してもらったってことじゃないですか!」
沖田さんは盛り上げようと頑張っている。

「えへへ、さあどうでしょう?」
シルさんは可愛くごまかす。

「じゃあこれだけ、腕枕の上手なそのお相手はだれ?」
沖田さんはここが見せ場だとばかりにシルさんにくらいつく。

おれはドキドキの最高潮に達する。
この前腕枕したのは俺だ。
シルさん、そのおれはここにいます!
わけのわからないことが頭に浮かぶ。

「もちろんお父さんですよ。ふふっ」

おれの期待の答えとは違ったからこそ
一気に冷静になり逆に胸のドキドキがすごい自分に伝わってくる。
そりゃそう答えるよな、と冷静にそう思う。
ガッカリというよりも当たり前の答え方だよなという方が正しい。

「それはずるい答えだ、しるくさん!」
会場のしるくファンの気持ちを代弁する沖田さん。

「じゃあ………、
 1ヶ月前にしてもらった年下の男の子かな」

おおー!と会場から声が上がる。

『!!』

まさかのおれ!!だ。一気に身体の温度が急上昇する。
手をぎゅっと強く握りしめていた。
ドキドキを超えてバクバクだ。
俺の心臓は上がったり下がったり
完全にジェットコースターだ。

「しるくさん、それは彼氏宣言ですか!?」

「違いますよー。妹の彼氏にしてもらったんです」

「それは三角関係をカミングアウトじゃないの?」

「違います!妹から誘われたんです。
 妹も私もお父さんに腕枕してもらうのが大好きで
 妹の彼氏の両腕に2人で腕枕してもらったんです」

「なんでうらやましいシチュエーションなんだ。
 その男は人類の敵ですね」

沖田さんとシルさんの掛け合いは見事だった。
観客を意識して内容が間伸びもせず、
かと言って普通の話ではなくギリギリを攻める攻防。

おれは?とクエスションがおれの頭に浮かぶ。
シルさんに腕枕したのは確かに俺もしたけど、
妹の彼氏にしてもらったエピソードって...

さっきの年下の男の子はおれじゃないのか!

おれのジェットコースターは一気に急降下した。
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