24 / 24
第二十四話 それぞれの矜持
しおりを挟む「長らくお待たせしました。第10回「ドキっ地下アイドルだらけの大上演大会」の開演です!今回も10組の地下アイドルが出場しています。実力を秘めながらも辛酸を舐め続けた彼女たちの栄光は?未来は?今日で運命を変えることができるのか!?それでは今日のジャッジをしてくれる審査員5名を紹介します!」
そして舞台に5名の審査員が現れた。
今回の審査員は作曲家植松隆、ダンス講師ZOCH、元アイドルゆいちぃ、音楽プロデューサー秋吉元哉、サブカルアイドル評論家の田中八郎の5名が選ばれていた。
以前のワクワク神戸アイドルフェスとは訳が違い、公正な審査が期待できそうだ。
それは、同時に運だけでは勝てないと言うことでもある。
「そして今回から審査方法がかわります。その審査方法は、まず各グループ3曲のパフォーマンスが終わった時点で、審査員が『歌』、『ダンス』、そして『表現力』、これらの項目に各30点、合計90点満点で審査していただきます。そして4組目が終えた時点から合計値が暫定4位以下のグループはその場で敗退が決まっていきます。10組目が終わり、最終的に上位3組が決勝ポイントを獲得する権利が与えられます。この決勝ポイントとは今日の観客の反応を考慮しつつ、各審査員が、上位3組の中で今日一番輝いていたグループ1組だけに10点の『魅力』ポイントを振り込んでいただきます。そして最終的にそれらを足した合計値の一番高いグループが優勝となります!」
司会から審査の説明がなされた。
「なるほど。なら審査員一人に付き最高100点がもらえるわけだな」
「そうね。でもその為には実力だけでなく、アイドルとしての重要な要素として会場を盛り上げる力、最後の『魅力
』の10ポイントが肝になりそうね」
タオとルカは審査方法に納得していた。
「それではここで特別ゲストの登場!……の予定だったのですが、ちょっと遅れてまして、到着次第の登場となります。それでは、パフォーマンスの方に参ります!」
この「特別ゲスト」が誰かわかっている僕たちは訝しがっていた。
「亀戸汰騎士、遅れてくるみたいですね」
「ああ、多分それもあいつの演出だろ?」
恐らくそうかもしれない。
彼なら故意に遅れて来て、それで会場を盛り上げるというのはあり得る気がした。
そして、ライブも始まり、順調に5組が終え、6組目、乙男女じぇねれーしょんの番が控えていた。
「しかしどのグループもレベル高かったですね」
「そうね、以前のフェスとは比べ物にならないわね」
「今の所トップは409ポイントか。次いで406ポイント、そして404ポイント」
300点台後半の2組は既に敗退が決まっていた。
「まだ中盤だし、是非ともトップに踊りでたいわね」
「それにしても亀戸汰騎士のやつ来ねえな?」
「アルンちゃんのパフォーマンスも見せて上げたかったけど、仕方ないわね」
「あ、いよいよですよ!」
「それでは次のグループ、乙男女じぇねれーしょんです!」
1曲目が始まり、照明がパッと照らされた瞬間4人の姿が現れた。
プロの演出も相まって、最高のスタートを切れたと思う。
出だしはいつものアオちゃんで決まりだ。
この子は色んなことを抱え、それを一人で乗り越えてきたのだ。
彼女の肝が据わっているのも今では納得できる。
続いて紅ちゃんのパート。
今日の紅ちゃんはいつも以上に気合が入っている。
恐らく今日のライバルSixStar COYOTEZの存在とアルスタの3人が観に来ていることが紅ちゃんの心に火が付いたのだろう。
最高の笑顔で最高のパフォーマンスを魅せてくれた。
そしてミトちゃんとアルンちゃんの即席センターコンビ。
二人の息はピッタリとシンクロしていた。
歌も踊りもミトちゃんの方が上回っていて、二人でセンターをやるにはバランスが悪いと思いきや、何故か二人の呼吸はあっているのだ。
アルンちゃんの弛まぬ努力とミトちゃんのアルンちゃんを慮る気持ちがパフォーマンスに表れていた。
1曲目と2曲目が終わり、多分今この4人のできる中で、最高のステージだったと思う。
しかし、最後の曲で少しだけ問題が起きた。
音響トラブルで音の飛ぶところが数回あったのだ。
それにより、パフォーマンスに少しズレの生じる箇所が生まれた。
観客はそれほど気付きはしなかったろうが、今日の審査員は恐らく気付いているだろう。
しかし4人は瞬時にアイコンタクトし、最終的にそれが気にならないほどリカバリング出来ていた。
少し不運もあったが、僕が判断するに、現段階で登場したグループの中では一番の出来のような気がしていた。
「審査員の皆さま、得点は決まりましたか?それでは発表してください!」
僕たちは息を飲んだ。
植松隆 歌28点、ダンス27点、表現力29点、計84点
ZOCH 歌26点、ダンス28点、表現力27点、計81点
ゆいちぃ 歌26点、ダンス27点、表現力26点、計79点
秋吉元哉 歌28点、ダンス28点、表現力30点、計86点
田中八郎 歌27点、ダンス26点、表現力28点、計81点
トータル411ポイント!
「乙男女じぇねれーしょん、ここで暫定1位に躍り出ました!」
会場が湧いた。
「おおお!やったー!!」
「うんうん!みんな良くやったわ!」
僕たち3人は抱き合って喜んだ。
ステージ上の4人も満面の笑顔で喜び、そして僕たちに手を振ってきた。
暫定3位以内に入っている乙じぇねの4人はまだ舞台裏で待機することになった。
向こうの方で見ていたアルスタの3人は冷静に見ている。
しかし、マスク越しで断定はできないが、伊砂玲於那は少し喜んでいるようにも見えた。
ライブは終盤に入っていった。
7組目 ぱぴぷぺぽにぃ
植松隆 歌26点、ダンス26点、表現力27点、計79点
ZOCH 歌28点、ダンス26点、表現力27点、計81点
ゆいちぃ 歌27点、ダンス28点、表現力27点、計82点
秋吉元哉 歌26点、ダンス26点、表現力27点、計79点
田中八郎 歌27点、ダンス26点、表現力27点、計80点
トータル401ポイント!
「暫定4位!残念、敗退です!」
8組目 めいぷる☆しゅが~
植松隆 歌28点、ダンス27点、表現力27点、計82点
ZOCH 歌28点、ダンス26点、表現力27点、計81点
ゆいちぃ 歌28点、ダンス29点、表現力29点、計86点
秋吉元哉 歌28点、ダンス27点、表現力28点、計83点
田中八郎 歌27点、ダンス26点、表現力27点、計80点
トータル412ポイント!
出ました!暫定1位です!
また大きく拍手が沸いた。
「あらぁ残念、抜かれちゃったわね」
「正統派アイドルって感じでしたね」
「そうだな、でもまだ暫定2位だし、まだ大丈夫だ」
「次はいよいよSixStar COTOTEZの番ね」
「てか亀戸のやつホントに来ねえな。遅すぎじゃねえか?」
「どうしちゃったのかしら?」
終盤に入り、SixStar COTOTEZの番が回ってきても亀戸汰騎士は来ていないようだった。
そして彼が不在のまま、SixStar COTOTEZの6人はステージに立った。
伊砂玲於那の話によると、この6人のメンバーは精鋭揃いだと聞かされていた。
中でもセンターの松山颯は身体能力が素晴らしく、歌もダンスも見事にこなし、おまけに物怖じしないメンタルも併せ持つという。
1曲目が始まった。
伊砂玲於那の言った通り、6人のパフォーマンスレベルは高かった。
だが、僕は思った。
確かに歌もダンスもビジュアルも申し分ない。
しかし、今こう比べてみても、乙男女じぇねれーしょんとそこまで大きく差があるようには見えなかった。
それだけ僕たちのレベルも飛躍的に伸びてきたんだと思う。
2曲目まで終わってもその気持ちは変わらなかった。
そして3曲目、彼女たちに不運が見舞った。
曲が流れ出し、6人が戸惑った。
何が起きているのか分からなかったが、裏方の音響の方がざわついている。
「違う違う!これじゃない!この曲じゃない!」
どうやら音響のミスで流す曲を間違えたみたいだ。
恐らく曲をかけ直し、再スタートするのだろうが、こういう流れを止めてしまうような展開はパフォーマーたちにとっては不運とし言いようがない。
盛り上がっていた中で、このミスは痛い。
もちろんSixStar COYOTEZのメンバーはなにも悪くない。
ただただ運が悪かったのだ。
曲が止まる。そう思った矢先、センターの松山はその流れてきた違う曲を歌いだした。
そして、それを見た他の5人も松山に続く。
曲を止めようとしていたスタッフも、彼女たちの行動を見てボタンを押そうとしていたその手を寸前で止めた。
しかし、メンバーのフリがそれぞれ違う。
合ってないというレベルではなく、各々が自由に踊っているように感じた。
そして、僕は気付いた。
彼女たち、アドリブでこの曲を踊っている!!
恐らくこの曲自体ほとんど練習をしていないのだろう。
無理もない。
やる予定にない曲をわざわざ本番近くに練習する必要などないのだ。
それでもメンバー各々の技術と度胸で、この場のピンチを切り抜けようとしているのだ。
そして、彼女たちはそれをやってのけた。
会場に拍手が沸いた。
「ちょっとトラブルがあったみたいですが、このまま審査にいきます!」
植松隆 歌29点、ダンス27点、表現力28点、計84点
ZOCH 歌27点、ダンス28点、表現力27点、計82点
ゆいちぃ 歌28点、ダンス26点、表現力28点、計82点
秋吉元哉 歌28点、ダンス28点、表現力29点、計85点
田中八郎 歌27点、ダンス27点、表現力27点、計81点
トータル414ポイント!
「暫定1位!一気に躍り出ました!これでSixStar COTOTEZと暫定2位のめいぷる☆しゅが~は3位以内が確定したため、決勝ポイント獲得の権利を得ました!」
会場が大きく沸いた。
アルスタの3人に目を向けると、「よくやった」と言わんばかりに拍手している。
「さあ、残すは最後の一組、徒然クロニクルの審査の発表です!」
植松隆 歌28点、ダンス26点、表現力28点、計82点
ZOCH 歌28点、ダンス27点、表現力26点、計81点
ゆいちぃ 歌27点、ダンス28点、表現力29点、計84点
秋吉元哉 歌27点、ダンス28点、表現力28点、計83点
田中八郎 歌26点、ダンス27点、表現力27点、計80点
トータル410ポイント!
「残念!1ポイント足りず4位です!これで3位の乙男女じぇねれーしょんが最後の決勝ポイント獲得権利を得ました!」
大きな拍手が沸き起こり、そして会場はすぐに静まった。
「あっぶねー、ぎりぎりじゃねーか」
「まあ、でも残ることはできたし、上出来よ!」
「はい、それにまだ決勝ポイントが残ってるし、他の2組より1票でも多く入れば優勝ですよ!」
「そうね。ただその為には30ポイント、つまり5人中3人に票を入れてもらわないと優勝はできないわね」
「そうなりますね」
5人の審査員はどのグループに10ポイントを与えるか暫く考え、そして全員が決まり投票を終えた。
「それでは、発表します!」
場内が静まり返った。
「植松隆、乙男女じぇねれーしょん!
ZOCH、SixStar COYOTEZ!
ゆいちぃ、めいぷる☆しゅが~」
3人中3組に票が分かれた。
次の票は?
「秋吉元哉、乙男女じぇねれーしょん!」
1歩出た!
「そして最後は……!」
場内が静寂に包まれた。
「田中八郎、SixStar COYOTEZです!
これにより総合得点は、
3位422ポイント、めいぷる☆しゅが~!
2位431ポイント、乙男女じぇねれーしょん!
そして、優勝は434ポイントのSixStar COTOTEZTZです!おめでとうございます!」
会場はこの日一番の歓声と拍手で包まれた。
「ああん、惜しい!」
「あと1票……!」
乙男女じぇねれーしょんは残念ながら2位に終わった。
先程のSixStar COYOTEZの見事なリカバリングを見せられて、僕たちは誰も自分たちの順位に文句はなかった。
パフォーマンス自体にそこまで大きく差はなかったが、『本気でアイドルを目指す』ということはこういうことかもしれないと胸に刻んだ。
しかし人数も少なく、慣れない新体制の中、4人はよく頑張ってくれたと思う。
そしてメンバーは舞台を降り、僕たちの方に駆け寄ってきた。
「すみません、タオさん」
「ううん、大健闘よ!アオちゃん」
「ああ、もう悔しい!」
「紅ちゃん、凄いよかったよ」
「うう、シショー……」
「ペロキャン買ってやるから泣くなよ……」
「アルンなりに頑張ったんだけどなぁ……」
「初ステージで十分すぎる出来よ!」
僕たちは4人を労った。
そこに、アルスタの3人が寄って来る。
「今日は良いものを見させていただきました。ありがとうございます。どちらが勝ってもおかしくない、紙一重の勝負だったと思います」
「ありがとう。こちらこそ良い経験になったわ。あなた達の妹分さん達も流石のパフォーマンスね」
「恐縮です。次は乙男女じぇねれーしょんメンバー全員でのパフォーマンスも是非見てみたいです」
「ありがとう。その時はあなたたちアルスタと同じステージに立てるように努力し続けるわ」
「楽しみにしています」
「それにしても……あなた達のプロデューサーどうなってるの?」
「すみません。来ると聞いてたのですが……」
「まあ、多忙なんでそういう事もありますよね。とりあえず、ゆっくりしましょう」
そして各々談笑したり、他のグループと健闘を称えあったりして、ライブの余韻を楽しんだ。
しかし結局この日、亀戸汰騎士が会場に現れることはなかった。
それどころか、あれから何日経っても亀戸はメディアにも仕事場にも姿を現すことはなく、一切の音信が途絶え、まるで神隠しにでもあったかのようだった。
様々な憶測が飛び交う中、亀戸がゲスト出演する予定だった大会から約3週間後、凍てつく真冬の神戸港の海面に、顔のない死体が浮いているのが発見された。
そして、その遺体の顔には、亀戸汰騎士と同じベネチアンマスクが付けられていた。
第一部完
ご愛読ありがとうございました。
今回のお話で一先ずお休みとさせて頂きます。
一応続きの第二部の方もプロットは出来上がっており、原稿も途中まで仕上がっている状態です。
その内公開する予定ですので、またお会いする機会があればよろしくお願いします。
本当にありがとうございました。
0
お気に入りに追加
7
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。
山法師
青春
四月も半ばの日の放課後のこと。
高校二年になったばかりの本田稔(ほんだみのる)は、幼馴染である中野晶(なかのあきら)を、空き教室に呼び出した。
男子高校生の休み時間
こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。
みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』
俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。
しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。
「私、、オバケだもん!」
出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。
信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。
ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
不撓導舟の独善
縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。
現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。
その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。
放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。
学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。
『なろう』にも掲載。
彼女に思いを伝えるまで
猫茶漬け
青春
主人公の登藤 清(とうどう きよし)が阿部 直人(あべ なおと)に振り回されながら、一目惚れした山城 清美(やましろ きよみ)に告白するまでの高校青春恋愛ストーリー
人物紹介 イラスト/三つ木雛 様
内容更新 2024.11.14
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる