乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ

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第二十話 公表

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 亀戸汰騎士が児童誘拐の疑いで、SNSにその情報が流された。
 
 その画像に映っていた児童がアルンちゃんに似ていたことで、僕たちは騒然となった。
 
 「ね、これってアルンちゃんですよね?」
 
 「目線が消されていて確証はないけど、着ている服もみたことあるし、まず間違いないと思います。現にここにいませんし……」とアオ。
 
 「そもそもアルンちゃんって何者なんですか?どういった経由でここに預けられてるんですか?」

 僕はタオに尋ねた。
 
 「それは……ある人から頼まれたのよ。古い知人なんだけど、その人が阿久津さんを経由してあたしに孤児の子供を預かってほしいって頼んできたの。それであたしが勉強見て上げたり、コムちゃんとシオンちゃんが歌やダンスを教えたりしてたのよ」
 
 「阿久津さんとその人はどんな関係なんですかね?」
 
 「あたしもよく知らないんだけど、先輩後輩の関係で、阿久津さんはその人に大変お世話になったって言ってたわ」

 「亀戸とは関係ないんですか?」
 
 「あたしは会ったこともないわよ」

 まだまだ聞きたいことはあったが、割って入るようにタオのスマホが鳴った。

 「あ、阿久津さんからだわ!はい、もしもし。ニュース見たわよ。あの画像の子ってアルンちゃんよね?どうなってるの!?無事なんでしょうね!?」

 「はい、勿論ご無事です。桐野の方も事情は知ってますし、亀戸の方とも連絡は取れていますのでなんの心配もございません。近々亀戸の方からなんらかの発信があるはずです。わたしからは今はこれしか伝えられません。申し訳ないです」

 「わかった。信じていいのね?」

 「勿論です」
 
 そう言って電話は終わった。


 「無事なんですか、アルンちゃん?」
 
 妹のように可愛がっていた紅が心配そうに聞いた。

 「大丈夫よ。少し待ってみましょう」
 
 タオが皆を落ち着かせた。

 皆それぞれ不安を抱えながら、その日は帰宅した。




 週が明け、阿久津から連絡があり、アルンちゃんと一緒に今から事務所に向かうとの連絡があり、アルンちゃんの事を心配していたシオンとお腹の大きくなったコムも駆けつけていた。
 

 しばらくして、事務所のドアが開き、阿久津とアルンちゃんが現れた。


 「お待たせしました」

 「アルンちゃん!無事だったのね!」

 「うん、全然大丈夫だよ」

 「ご心配かけて申し訳ございませんでした。このあと亀戸のSNSからも事実の公表があると思うのですが、その前に皆さんにはご報告しておこうと思います」

 僕たちは阿久津さんの方に注目した。

 
 「まず最初に、みなさんにお伝えしていなかったことなのですが、亀戸汰騎士とアルンさんは実の兄妹です」

 「兄妹!?」

 「はい、左様です」

 「本当アルンちゃん?」

 「うん、そうだよ」

 「でもアルンちゃん、あの人のこと嫌ってなかったっけ?」
 
 「大っ嫌いだよ!あの人めっちゃ性格悪いの!いっつもわたしのお菓子勝手に食べるんだよ!」

 「アルンさん、お兄様はいつもアルンさんの事を第一に考えてますよ」

 「ふん!」

 「なので亀戸が実の妹を誘拐するなんてことはないのです。いつもわたしがアルンさんを新神戸の亀戸の家に送りしていたのですが、たまたまお二人でご帰宅している現場を、Kスポの記者に取られてしまっただけなのです」

 「でも、なんで隠してたの?」
 
 「それは……ある人物に脅されるリスクがあり公にしたくなかったのです」

 「脅される?」
 
 「はい。亀戸は自分の素性を隠して活動していらっしゃるのはもちろんご存じですよね?」

 「そりゃ知ってるわよ。変なマスクつけてるし」
 
 「その『ある人物』は亀戸と名乗る前の元の亀戸とアルンさんの事を知っていて、当然兄妹というのも知っていた。しかし、元の亀戸と仮面をつけた亀戸が同一人物と言う事実は知らなかった。もし知られれば、あるネタで強請《ゆす》られる可能性があり、アルンさんにも誘拐等の危害が及ぶリスクがあったのです」

 「じゃあなんで公表しちゃうのよ?」

 「もちろん、亀戸自体があらぬ疑惑をかけられ、それをきちんと否定して事実を公表する必要があったのと、強請られるリスクがなくなったからです」

 「どういうこと?」

 「その人物は亀戸の素性に気付いたのですが、その時はすでに大金を手にしており、わざわざ亀戸を強請る必要がなくなったのです」

 「大金っていくらよ?」

 「3億円です」

 「3億円!?」
 
 一同声を出した。

 「3億って、ちょっと引っかかる数字ね……」

 「――……――」

 「それってもしかしてだけど、三角みかど興業の盗まれたお金と関係があるの?」

 その質問に答えるべきか阿久津は迷っていたが、少し間があって、「はい……」と答えた。

 「ですが3億円は今はその人物の手にはなく、訳あって亀戸の事務所で預かっています」

 「その『ある人物』って誰なんですか?」
 
 アオが核を付く質問をした。
 
 「それはお答えできません」

 「待って!まだいくつかわからないことがあるわ。あたしは知人の桐野って男から頼まれて阿久津さんを経由してアルンちゃんを預かっているのよ?そことアルンちゃんの繋がりもきちんと聞いてないけど、どういう関係性なの?」

 「それも今は答えられません」

 「んもう!肝心なとこ全然教えてくれないじゃないの!アルンちゃんはなにか知ってるの?」

 「ううん。アルンよくわかんない。お兄にここに行くように言われただけだもん」

 「それでご相談なのですが、また昼の間だけ、引き続きアルンさんをお預かりして頂けないでしょうか?今回は桐野ではなく亀戸からの依頼です」

 「そんなこと言われたって、アルンちゃんが危険なことに巻き込まれるリスクがあるのに簡単に預かれるわけないでしょ」

 「ごもっともです。しかし以前よりましになったとはいえ、それでも施設に戻るにはまだリスクがあるのです。それにここが一番信頼出来かつ安全という判断での依頼なのです」

 それでもタオは返事を渋っていたが、最終的にアルンちゃんの「わたしはここが一番好き!」の一言が決め手となり、今まで通り昼間はここで過ごすことになった。

 「ありがとうございます。今はまだお話しできないことが多く、みなさんも不安はあると思いますが、いずれ話すことになることと思います。それまでもう少しだけアルンさんをお願いします」


 不安や疑問は数多く残ったが、ひとまずアルンちゃんが無事であったことに、皆胸をなでおろした。

 そして阿久津が去ってしばらくした後、亀戸のSNSからも事実の公表と謝罪の文が発信された。
 


 その日の夕方、暇な店内に一人の女性の来客があった。
 
 その女性客に紅が対応した。

 「いらっしゃいま……え!?」
 
 その姿を見て紅は狼狽した。

 「い、い、伊砂玲於那いさご れおなーーー!!!」

 
 紅の大声が店内に響き渡り、僕たちは一斉に入り口の方へ目を向けた。

 
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