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第十五話 乙男女戦士
しおりを挟むタオはアオに気付くと、携帯ショップに入ることなく、アオに近づいて行った。
「こんにちは、アオちゃん」
「タオさん。あ、みんなも」
「こんなとこでなにしてるの?」
「ちょっと用事があって……」
「あなた今、このビルに入ろうとしていた?」
タオの質問に一瞬黙っていたが、すぐに「だったらなにか?」と答えた。
「相変わらず度胸満点ね」
「――……――」
「あなたこのビルがどういう場所か知ってるの?」
「違法風俗店の事務所ですよね?」
「その様子だと、どこが関与しているかも知ってるわよね?」
「I統……ですよね?」
「休暇取って、なにしてるの?ここでSM女王にでもなって働くつもり?」
「ち、ちょっと二人ともなんの話してるんですか?」
僕は事情が呑み込めず戸惑っていた。
「ムンちゃん、ちょっとだけ黙っていてちょうだい」
「わたしが休日になにをしようが、タオさんには関係ないと思いますし、大した用事でもないです」
「その用事って、七種琳瑚さんの件かしら?」
「なんでそのことを知ってるんですか!?」
アオの表情が厳しくなった。
「あなたと琳瑚さんが接点があるのは知ってたわ。そして琳瑚さんが三角興業と関りがあることも。あの組織のことは前からわたしも目を付けてたのよ。でも女の子が一人でこんな場所に来るのはちょっと見過ごせないわ」
「りこちゃんを死に追いやった人物を探しているんです。白鳥のタトゥーをした男の人を……」
「――!」
それを聞き、タオの表情も厳しくなった。
「あなたその情報どこで仕入れたの?」
「りこちゃんは『彼氏』って言ってました。でも実際はそんなのではなかったと思う。ただ単に都合よく操られていただけ」
「アオちゃん、よく聞いて!その男に近づいちゃダメよ。それにあなたの探してる人物はこのビルにはいないわ。ここは組織の末端の人間しかいないような場所なの」
「タオさんはなにか知ってるんですか?」
タオはしばらく躊躇ったあと、やがて口を開いた。
「わかったわ……一度事務所に戻ってお話するわ」
僕たちは結局スマホショップに寄ることもなく、三宮の事務所に帰ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
3階のカフェに入り、留守番中の紅を加え、5人で話は始まった。
まずアオの友達、琳瑚の死についてアオが語った。
皆深く動揺していた。
人の死についてもだが、アオがそんなことを一人で抱えていたことが、少し寂しくも感じた。
そして次にタオが自分の現況を話し始めた。
「まず最初に今から話すことは他言無用でお願いね。それと、あなた達には言うつもりはなかったんだけど、わたしとコムちゃんとシオンちゃん、それとルカちゃんで、内緒である活動をしていたことを謝っておくわ」
「ある活動?」
「あたしとコムちゃんとシオンちゃんはもう付き合いが長いんだけど、当時はI統がまだ正式な組織として存在していて、あたしたちの事務所にも勧誘してきていたの。でも、当時からI統のやり方に疑問を持っていたあたしたちは所属することなく、独自の路線でアイドル活動することを誓ったの。そして、予想通りI統は問題を起こして廃れていった。それで終わるはずだったんだけど、その後組織が無秩序になって、その残党が好き放題やってるってのはこの前話したわね。で、その世直しの『おつとめ』をしようと立ち上がったのが、乙男女戦士の発端なの」
「え!そうなんですか!?」
僕とアオ、そして紅は驚きを隠さなかった。
「それから訳あってルカちゃんも協力してくれることになって4人になったの」
「ま、俺もI統にはちょっと因縁があってね」
「解散したI統はまたいくつもの組織に分かれて名称も変えて活動をしているってことは前に伝えたけど、その中でも危険な組織が3つほどあって、まず『サビクの光輪』、『美楽正会』、そして今アオちゃんの話に出てきたのが『三角興業』よ。特に三角興業は前身が暴力団系の組織だから迂闊に近づいたらダメ。それに幹部の一人、通称デネブと呼ばれている白鳥のタトゥーをした男に個人で接触するなんてもってのほか」
「でもそんな危険な組織とどうやって対峙していくんですか?」
「対峙と言ってもあたしたち一般人が大それたことはできないし、あたしのコネと情報網を使って、警察に情報を提供したり、逆にもらったりして、少しでも世の中に貢献できればいいなってくらいのものよ」
「それ、わたしにもお手伝いさせてください!りこちゃんの無念を晴らしたいんです!」
アオがまず名乗り出た。
「まぁ、あなたがそう言うのは想定内だわ」
「紅ちゃん、あなたもなにかありそうだけど……どうする?」
「わたしは……」
「無理する必要はないのよ」
「はい、ごめんなさい……」
紅はなにか申し訳なさそうに断った。
「ムンちゃんは蚊帳の外っぽいけどどうする?」
「か、蚊帳の外ってなんですか!?僕だってみなさんの力になりますよ!」
「でもあなた、特に理由ないでしょ?あなたなりの正義があるの?」
「理由は……ないけど。アオさんが一人で苦しんでるのとか知らなくて……善とか悪とか、そんなのどうでもよくて、ただ少しでも力になれたら……」
「ありがとう、ムンさん……」
「あら、なんか愛の告白みたいに聞こえるわね」
「そ、そんなんじゃないですよ!」
タオの茶化した一言で、紅の冷ややかな視線が突き刺さり、ルカに至っては凄い形相で睨まれているような気がした。
「じゃあ、ムンちゃんも協力してくれるってことで、6人で……」
「ちょっと待ったーー!!」
大きな声が聞こえ、振り返るとミトちゃんとアルンちゃんがそこにいた。
「聞いちゃったー聞いちゃったー」
「あなたたち、いつからそこにいるの!」
「なんかみんな神妙な面持ちで話し込んでると思って、こっそり聞き耳立ててたら、何?めっちゃ面白そう!」
「この漆黒の闇戦士ミト様が暗躍する日が来るとは……」
「わたしも戦士になるー!」
タオは頭を抱えていた。
「ダメよ、あんた達!遊びじゃないんだから!」
紅が𠮟りつけるが効果は期待できそうにない。
「ずるいよ、みんなだけで楽しそうにやって!」
「そうだよ、アルンも絶対入るからねー!」
二人はもう聞く耳などもってなかった。
結局危険なことはしないという約束で、形だけだがI統に立ち向かう戦士の一員として、二人も加わることになった。
「待って!二人が手伝うならわたしも協力する!」
紅が慌てて参入した。
妹みたいに可愛がってた二人を放置するわけにはいかないのだろう。
最終的には全員が乙男女戦士として、これからの活動を共にすることに決まった。
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