Temptation Invitation

片喰 一歌

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第1幕『半人半蛇(蛇人間)』【表】

第35話『白を切る』

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「…………あ……あたしはそのまま白夜くんでだいじょぶ? なあなあに……ていうか、勝手に馴れ馴れしく呼んじゃってたけど……!」

「僕は何でもいいけど、グミちゃんはなんて呼びたい?」

 またしても千載一遇のチャンスが向こうから飛び込んできた。

「……何でも?」

 某ホラーゲームにおける扉を開く前のSEのように、耳の中で鼓動の音が反響している。

「うん」

「…………じゃあ、『』って呼んでいい? こっちが年下ってこと、忘れたわけじゃないんだけど……」

 喉が急速に渇いていくのは、緊張のためか渇望のためか。
 
 呼び方なんてなんでも変わらないのかもしれないが、あたしは恋人を呼び捨てにしたい派だった。――短いその分、たくさん呼ぶことが出来るから。
 
「いいよ。し」

 ――いや、快諾してくれたからには、今この瞬間からと呼ばせてもらおう――は、身体を屈めて顔を覗き込んできた。
 
「!」 

 驚いて後ろにのけぞると、彼が身体を支えてくれた。

「あ。ごめん。話途中だった?」

「ん? ああ! 大したことじゃないんだけど……。時間いっぱいは恋人気分でいたいなって思って……その、だから…………」

「そっか。グミちゃんは彼氏のこと呼び捨てしたいタイプなんだね。……だったら、な」

「…………白夜?」

 調子に乗って、彼の名前を呟くと――――。
 
、美味しいよね。好き」

 白夜もあたしの名前を呼び捨てにした――と見せかけて、脈拍のない感想を漏らした。
 
 その台詞単体であれば何気ない世間話でしかないが、前後の文脈に鑑みれば、わざとだったことは解説されなくてもわかる。

「…………あ、ごめん。今の流れで言われたらびっくりしちゃうよね」

 それなのに、彼は白を切った。これが年の功か。
 
「う……ううん!! あたしも白夜に好きになってもらえるように頑張るね! お菓子のグミには敵わないと思うけど!」

「可愛い。……けど、こんなとこ来てまで頑張らなくていいんだよ? 僕がグミちゃんの疲れ、癒してあげる……」 

 頬に手を添えられたことに気付いてから、唇が触れるまでに何秒あっただろう。
 
(…………あれ? 白夜たちって、お客さんにオーダーされるまで何も出来ないんじゃなかったっけ……? このキスもさっき言ってたオプションってこと? コース説明もなかったけど、何時間こうしてられるかわかんないのに、現実的な質問で時間使っちゃうのもったいない……♡) 
 
 呆れるほどの恋愛脳を持つあたしには、キスひとつで思考がまとまらなくなり、重篤な違和感もスルーしてしまうことが多々あった。
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