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第1幕『半人半蛇(蛇人間)』【表】
第5話『道化の男の案内先』
しおりを挟む「あァ。お守りも蛇だったし、靴と鞄と…………ネイルもパイソンだしなァ。似合ってるぜ」
ワイルドで派手なおにーさんは、コーデの肝になっているパイソン柄アイテムを全部褒めてくれた。いまのところ下心は見えない。
「えへへ。ありがと! ちょっとくどいかなって思ったけど、好きなものは主張したくて。……てか、どっちかっていうとあれかな。常に存在感じてたいんだよね! 服着ちゃうより目に入りやすくて、見るたび気分上がるから!」
「なるほどなァ」
彼の視線は両手の爪を右の小指から順に一本一本辿っている。
「特に指先は仕事中も頻繁に視界に入るし、蛇ちゃんにハマってからずっとパイソンネイルなんだ~。もちろんサロン行くたびにデザインも色も変えてるけどね! 全部パイソンじゃなくても、どこか一部はパイソンみたいな」
「そうかい。一部ならそれだけバリエーションも作れるってこった。姉ちゃん、お洒落さんだなァ」
相槌にも投げやりな感じはなく、好感度はぐんぐん上がっていく。最初が低すぎたせいもあるとは思うが、あたしの惚れっぽさを甘く見ないでほしい。
おにーさんには押している気はなかったとしても、あとひと押しで恋に落ちてしまいそう。ギリギリの綱渡りに挑んでいるかのような心持ちだ。
「いっつもめちゃめちゃ綺麗に仕上げてくれるネイリストさんがいてさ~……って、ごめんね! あたしばっかり喋っちゃって」
一方的に喋り続けているにもかかわらず、おにーさんの表情にも態度にもこれといって変化は見られない。
ナンパではないとしたら、彼はどうして声を掛けてきたんだろう。下心が見え見えなのもいい気はしないが、かといって少しも狙いが見えないというのもそれはそれで不気味だ。
「いんや、構わねェよ。オレは蛇好きな姉ちゃんをサーカスに誘おうと思って声掛けたわけだしなァ」
いっそのこと、こちらから目的を訊いてしまおうかなんて考えていたら、答えのほうから飛び込んできてくれた。
「サーカス?」
――ということは、今日の公演のチケットを取ったのに彼女さんにドタキャンされてしまって、同行者を探しているところなのかもしれない。
人助けにもなって、あたし自身も楽しめるなら、一石二鳥だ。しかし、気になるのはやはり――。
「楽しそうだけど、サーカスに蛇なんているの? ゾウとかライオンとかなら分かるけど、蛇? 聞いたことないよ」
「大蛇なんかがいても迫力満点だろうが、蛇そのものじゃねェんだ」
おにーさんは痛いところを突かれたとばかりに眉を下げて笑った。
話し方から考えて、他の爬虫類か何かだろう。期待して損した。嘘を吐かない姿勢にも好感は持てるが、蛇でないとわかった途端、腰が重くなってしまった。
「なーんだ。あたし、蛇にしかきょ――」
おにーさんには悪いが、『興味ない』と伝えて他の人を探してもらおう。
「半分蛇で、半分人間。蛇人間ってとこかねェ…………なんて言っても、信じらんねェだろうけどな!」
彼の口からにわかに信じがたい言葉が飛び出したのは、誘いを断ろうとしたまさにその瞬間だった。
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