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Interlude
Interlude<LXVII>
しおりを挟む「わたしのはラウンドかな?」
オーバルへの移行を考えていたため、いまのわたしの爪はラウンドとオーバルのちょうど中間といった具合の形をしていたけれど、咄嗟に前の形を答えてしまった。
「なるほど♡ スティレットって武器だったっけ。わりと見たまんまの名前がつけられてる感じなのかな?」
彼は自然な動作でわたしの手を取って、じいっと爪を観察してくる。最後にお手入れをしたのは先週末だったはずだから、そんなにまじまじと見ないでほしい。
「うん。だから、すごく覚えやすいと思う」
すっかり輝きを失ってしまった爪の下部を隠したい気持ちと彼とまだ手を触れ合わせていたい気持ちとが争いを繰り広げるかに思われたけれど、前者が後者に勝てようはずもなかった。
「このくらい長さあるとネイルも映えるだろうし、磨いてあるだけでかわいいね♡♡ 日常生活にも支障なくてちょうどいい感じ♡ 俺、女の子に生まれててもいまと変わらない気するなぁ。たぶんお洒落のためでも伸ばせてないよ」
彼は親指を使い、ひとつひとつの爪表面を優しく優しく撫でてくる。次のデートはどんなネイルをしていこう。どうしても決められなかったときは、『君はどんなのが好き?』と訊いてみてもいいだろうか。
「えぇ? そうかなぁ?」
「まぁ、許容範囲は人それぞれだと思うけど、『これ以上長くなったら邪魔! なんにも手に付かない!』って範囲がめちゃくちゃ狭いんだと思うよ。俺の場合は」
「そっかぁ。……考えてみたら、長すぎるのはわたしも得意じゃないかも。『今日はなんでか気が散るなぁ』と思ってたら、爪がすっごい伸びてたみたいなこと結構あるし! 『切ってからそんなに時間経ってないのにな』って思いながら整えたりするよ」
親指が離れた隙を見計らい、わたしより厚い手のひらに軽く爪を立ててみた。彼の皮膚も思っていたより薄く、破ってしまうこともさほど難しくはなさそうだと思った。
(…………長めのほうが指も細く綺麗に見えるし、褒めてもらったばっかりだから、本当は変えたくないけど……。もう少しだけ短いほうがいいのかなぁ。王子様の背中に傷付けちゃったら申し訳ないし。というか、痛い思いしてほしくないし……。って、なに考えてるの……!)
「あははっ! あるね、そういうこと。君も爪伸びるの早いんだ♡ 俺と一緒だね♡ ところで、なんで爪がすぐ伸びちゃうか考えたことある?♡♡ 有名な話だし、普通に知ってるかな♡」
手のひらではなく背中に爪を立てているシーンは、彼の笑い声に吹き飛ばされていった。
(気持ちは十分伝えたと思うけど、まだまだ先かなぁ。仕方ないか。わたしのあせりより君の気持ちのが大事だもん。……仕方ないよ)
そういう気分を引き摺っているのはわたしだけなのかと思うと、恥ずかしいよりも寂しい気持ちが勝った。
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