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Interlude

Interlude<LVIII>

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「…………でも、きみにとってはいい思い出じゃない……ってことなのかな。あんまり大切にしてもらえなかった? ……これだと、きみの元カレたちのこと悪く言ってるみたいだけど」

 大きな瞳を気遣わしげに細めるこのひとの言葉選びが心底好きだと思った。
 
「気にしないで。たぶんそのとおりだから。君と付き合う前は『大袈裟に考えすぎなだけで、あのくらい普通だったのかな?』って考えてみたりもしたけど、窓華ちゃんとかに聞いてもやっぱり普通じゃなかったみたいで……」

 かといって、彼を基準にしてしまうのもそれはそれで危ういのではないかと思うし、この感覚はきっと正しい。わたしは中間を知らないし、

「あ、でも……『君のせいで気付かなくていいことに気付かされた』みたいなことを言いたいわけじゃなくて…………!!」

「うん。わかってるから大丈夫♡ ……もし本当にそう思ってたとしても、俺は昔のきみが大切にされてなかったことにちゃんと気付けてよかったと思うしね」

 彼の瞳は、たくさんの愛を花束のようにひとまとめにして渡してくれる彼の口と同程度に饒舌だ。
 
 熱情が垣間見えることもなくはないけれど、その頻度はさほど高いとはいえないだろう。大体の場合、そこには穏やかに燃える暖炉の炎のような鍾愛が浮かんでいる。いまもそうだ。

(……彼氏……なんだけど、彼氏というか、お兄ちゃんとかお父さんみたい。お兄ちゃんなんていないし、お父さんとは昔からほとんど話したこともないけど。……君はいつも恋愛感情だけじゃない大きな愛をわたしにくれてるね)
 
 頭を撫でる手のぬくもりに安心をおぼえると同時に、恋人というより父兄のような振る舞いに少しだけ腹を立てていたりもして。
 
(女として見られてないわけじゃないのはわかる……。『けど』じゃなくて『だから』なのかなぁ。余計に焦っちゃって……)

「俺といても、完全には消えないか。……そうだよね。こればっかりは仕方ないか。思い上がってたな……」

 ストレートティーの香りのため息をついた彼は、蔦の這う壁面のごとく憂いに覆われていた。

「…………。君といるときは完全に記憶から消えてるって言っていいくらいだと思うし、わたしも忘れたつもりでいたけど……。起きたとき、やけにはっきり覚えてる夢ってない? 現実で体験したことよりも。……わたしの場合は『ときよりも』、だけど」

「あるね。比較的、覚えてたくないな~って思う内容のときが多いかも」

 彼の眉間にはやや深めの皺が寄っている。あまり夢を見ないと言っていたし、底の底から記憶をひっくり返してくれたのかもしれない。 

「わかる……。最近見てた夢も毎回そんな感じでね? 悲しいとかつらいとか、いろんな感情がごちゃまぜで……ぐちゃぐちゃで……。すごく…………そう、憂鬱になってて」
 
 ぐるぐるとループする思考や、細く長い糸が絡まって、いくつも結び目こぶができてしまっているような状態の複雑きわまりない感情を手で表現あらわした。
 
「そうだよね……。思い出すだけでもきっといろんなとこがすり減るでしょ? ……なのに、俺に話してくれて本当にありがとう」 

 すると、彼はふわっと優しくわたしを抱き締めてくれた。
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